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前編では谷口真由美室長の考え方などについて伺った。2021年秋に始まる予定の新リーグへの参入要件の骨子には、ホームスタジアムの確保、チーム運営の事業化、ホームエリアの決めることなどがあった。チームには必ず地域名を入れることとし、企業名を外すかどうかはチームに任される。後編では、新リーグが目指すものについて伺った。
──新リーグの狙いについて聞かせてください。
「RWCを再び招致し、そこで日本代表が優勝するというのが、日本協会の目標です。そのための国内の発展的な再編なのです。いま日本のラグビーの競技人口は95,000人です。高校のスポーツに限っていえば、ハンドボールや弓道よりも少ない。少子高齢の時代にあって、団体競技の置かれている状況は厳しいです。日本では野球、サッカー、バスケットボールなど他競技のプロリーグが先行しています。団体競技で一番人数の多いラグビーがそこに入り込もうとするのは、いまのトップリーグの形では無理があると思っています。そのためは、日本代表が強くなること、すそ野を広げることが大事です。それを念頭に置いた国内リーグの再編です。この考えに反対する人は誰もいません」
──いまのトップリーグの形では、なぜ難しいのですか。
「もう少し間口を広くしたいのです。エリアを持っていただくことが大事で、ラグビー的には、ホストエリアという言い方がいいと思います。ホーム&アウェイではなく、ホスト&ビジターです。ホストを持ったらその地域の人が、おらが村のスポーツとして、楽しんでくださるでしょう。エリア名については、北海道日本ハムファイターズ、湘南ベルマーレなど、いろんな例があります。どんなエリア名にするかは皆さんの自由。ただし、東京にチームが集中するようであれば、リーグとして考えないといけない。また、セカンダリーのエリアも持ってもらったほうが良いと考えています。多くの子供たちがラグビーを選択肢に入れられないという現状を考えると、社会的な意義として持たなくてはいけないと思います」
──企業名は外さなくても良いのですね。
「当然のことながら、企業にお手伝いいただかないと運営ができません。サッカーのJリーグも親会社がサポートしていますよね。プロ化のときに、企業名を外して、という話もありましたが、東芝や神戸製鋼も、会社としてしんどいときがありました。その中でなぜラグビー部も持ち続けたのかということを理解できないと、ラグビーは理解できないと思うんですよ」
──現在のトップリーグには参加していないチームも受け入れるのですか。
「もし、外国のチームが入ってきたいという意思を示したときは、歓迎しますが、審査はきちんとします。ホストエリアも持ってもらいます。日本での本拠地をもっていないチームがエリアを持つことで、コミュニティができる。エリアとスタジアムを持つことが、新リーグの特徴として大きいですね。いまのトップリーグでは、15,000人のスタジアムを持つのはなかなか難しいです」
──いますぐに15,000人のスタジアムを持っていなくても良いのですよね。
「今のところ、意思を示してくださいということです。それは、口約束だけではなく、議会承認が得られているか、それぞれの市長の確約書や、議会の承認書などがあるか、そのあたりの担保をしていただくのが大事だと思います。記者会見でも申し上げましたが、間口は広く取るけれど審査は厳しくします、ということです」
──アカデミーは最初から持つことになりますか。
「これから詰めていきます。すでに持っているチームもありますが、これは持ってほしいですね。参入要件に入れていないのは調整すべき点がたくさんあるからです。たとえば、高校のユースチームを持つとなると、それが全国高校大会に出られるのか、という問題も出てきます。リーグを始めるとなると、いろんなことをいっぺんに変えなくてはいけません。ある地域協会の人に、トップリーグは実質プロなのに我々アマチュアが運営するのは無理ですよと言われました。おっしゃる通りで、地方協会の改革も併せて行わなくてはいけません」
──レフリーは現状、ほとんどの人が別に職業を持っています。レフリーの改革、レベルアップも必要ではないですか。
「そうですね。川淵三郎さんにも新リーグのことでご意見を伺ったのですが、川淵さんに言われたのは、『レフリーも一流にしなくてはいけない』ということです。Jリーグも最初は世界のトップレフリーを毎年招聘して講習会などしてもらっていたそうです。ラグビーの新リーグも、トップレフリーに来てもらって笛も吹いてもらい、日本のレフリーにも成長してもらうようにしていきたい。RWC決勝を担当できるレフリーを日本から出すのも目標ですよね。そのためには、レフリーにも、それ相応の報酬が必要です」
──ここまでお話を聞いていると、どんな難しいことにもポジティブな姿勢で取り組まれていますね。
「私は楽天的です。山より大きなイノシシは出てこないと思っているんです。いまもいろんな問題が起こるのですが、だんだん面白くなってきました。今の自分を俯瞰して見ている自分がいるのは、研究者だからかもしれません。俯瞰して見るとめちゃくちゃ面白いです。そういう気持ちになれるのは、ラグビー場に住んでいたことも大きいですね。毎日がUSJみたいなところですから。アドベンチャーワールドに行く必要もなければ、ホラー映画を見る必要もない。誰かが顔の骨が陥没したとか、酔って田んぼに落ちたとか、次から次にいろんなことが起きる。もう、なにも驚かなくなりました。若いころから可愛げのない女の子ですよ。びっくりという感情は私の中でランクが低いです(笑)。叩かれるのも慣れています。叩かれるのが嫌なら学者はできません。自分の理論に対して学会で叩かれ社会で叩かれ、それを一人でディフェンスするのが仕事ですから。罵詈雑言は相手にしませんが、批判には価値があると思っているので、きちんと聞くのがモットーです」
──魅力的な新リーグが設立されるのを楽しみにしています。
「準備室長として、しっかりしたリーグを作り、『立ち上がって良かった』と言って終わりたいです。2021年秋に立ち上げ、それ以降は誰か先頭に立ってやってくれる人がいれば、お任せして、とりあえず隠居します(笑)」
文:村上 晃一
【プロフィール】
谷口真由美(たにぐち・まゆみ)◎1975年、大阪市生まれ。法学者。専門は国際人権法、ジェンダー法、憲法など。父が近鉄ラグビー部コーチ、母が同部寮母だったため、寮のあった近鉄花園ラグビー場内で育つ。2児の母。人権、政治はじめ様々な社会問題に、大阪のおばちゃん目線で鋭くつっこみ、問題提起し、誰にでも分かりやすく解説。テレビ、ラジオでの情報・報道番組出演、新聞・機関誌コラム、講演会など多数。2018年、メディア内部で働くセクハラ被害についての調査を元に、『メディアにおけるセクハラを考える会』を立ち上げ、代表として日本外国特派員協会で会見を開く。2019年、ラグビー・ヤマハ発動機元監督の清宮克幸氏が立ち上げた(一社)アザレア・スポーツクラブの理事も務め、女性アスリートの環境改善、子供のスポーツ応援にも力を注ぐほか、2019年6月には、(公財)日本ラグビーフットボール協会理事にも就任、ラグビー振興の為に精力的に活動。国内外の社会課題を伝える、NPO法人Dialogue For People理事も務める。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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