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──室長としての責任を果たすため、学者としての仕事のほか、テレビのコメンテーターなど、すべて降板されると伺いました。
「一つ目の理由は物理的な時間がとれないことです。現在、週5本、テレビ、ラジオのレギュラーがあります。どれも拘束時間が長く、新リーグの準備との両立は無理です。何かを手放さないといけないと考えたとき、辞めるならすべて辞めないと仁義が通らないのです。もう一つは、ラグビー人ではない私がラグビー界に受け入れてもらうためには、腹をくくらないといけないと思いました。また、リーグを立ち上げて公益社団法人を作ることになったとき、そこにかかわる人間が個人的な見解をメディアで言っている時期ではない。私の意見に賛成の方も反対の方も含めて、関係者の皆さんやファンの皆さんとも一緒にやっていかないといけないわけですから。室長就任が決まったとき、所属事務所のマネージャーに3月末で全部のメディアを卒業させてほしいと連絡しました。3月に国連の会議に行く予定もありましたが、これも見送りました。4月から大阪芸術大学の客員准教授になること、そして継続して大阪大学の非常勤講師をすることが決まっていて、すでにコマ数なども決まっていて断ると迷惑をかけますから、これだけはやることにしています」
──谷口さんは理事に就任当初から、ラグビーの社会的意義についても強調されていますね。
「日本協会の理事として初めて挨拶したとき、子供たちが最初に始めるスポーツがラグビーであってほしい、ラグビーボールが街にあふれている、日常にある、そういう風景を見てみたいという話をしました。RWCをやっている最中の10月、イラクのクルド自治区に行く機会がありました。近鉄ライナーズからセカンドジャージ、新品ボールを10球、カンタベリーからも10球、トップリーグのボールも3球いただき、それを持ってクルドで唯一のラグビーチームを表敬訪問しました。次に難民キャンプの子供さん、小児がんの施設にも行って、いま日本でRWCが行われている話をしました。13歳の小児がんのお嬢さんに、ラグビーは国代表ではなく、ユニオン(協会)代表なんだよ、だから日本のマークは桜、アイルランド、スコットランドも国ではなく、協会代表として出ているんだよと話したら、『ラグビーなら、国を考えなくていい、戦争しなくていいんだね』と言われました。私は、大西鐵之祐先生の『ラグビーをするのは戦争をしないためだ』という言葉が好きです。ラグビーの持つ価値と哲学は、誰一人取り残さないSDGs【Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)】の考えとも親和性があります。そんな良さを知れば、ラグビーを見たいと思う人が多いでしょう。ラグビーの社会的意義とは、ラグビーが社会にあって良かったと思ってもらいたいということです」
──トップリーグの神戸製鋼コベルコスティーラーズとNTTドコモレッドハリケーンズの試合で、SDGsマッチと銘打ち、視覚障害者の方を招待し、ABC朝日放送の伊藤史隆アナウンサーと谷口さんで、分かりやすく実況・解説もされましたね。
「視覚障害者はそういうところに行くものではないと皆さんが思っているとしたら、発想の転換をすればいいと思います。一週間に2時間でも3時間でもいいから、優しい気持ちになり、良い人になると、人間は変わることができると思うんです。たとえば、神戸製鋼とNTTドコモのSDGsマッチは、盲導犬を両チームの選手が体験し、感想を言ってくれました。『思った以上に速くて怖い』と。それを感じることで、実際にそういう人に出会ったときにどうすればいいか考えるようになる。点字ブロックの上に自転車を置いていたら、どけようとする。それだけで社会が変わるかもしれません」
──現在のトップリーグの企業も何かできることがありそうです。
「トップリーグのSDGs推進会議でいろいろな話をしています。たとえば、キヤノンは3Dプリンターでスクラムを組んでいる模型を作ってくれました。
触ることで、スクラムを感じることができます。22mラインがどこにあるかなども分かる。すると、いまここです、と触って分かってもらえる。
そういうものを、ラグビー界としてパッケージにしておけば、どこの試合でも活用できます。それぞれの特性の部分で、社会の周縁化されてしまった人たちを、センターに持ってくるということが大事です。センターに持ってくるためには、チャリティを続けていてはいけない。それは、サステナブルではありません。いまはトライアルなので視覚に障害のある方はご招待ですが、将来的にはお金を払って見に来てもらう。お金を払って行くのが当たり前の場所にスタジアムをしなくてはいけないんです。そのために何をするかを考えているところです」
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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