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写真:ベスト8を狙う東京。ポールはまだ折れ曲がったまま
12月27日(金)から始まった全国高校ラグビー大会。過去2年、予選を突破できずに苦しんでいた「土手高」こと、東京高校(東京第1)。
今年度は都大会決勝で、春の東京王者・早稲田実業を22-0で下し、ベスト8に輝いた第96回大会以来、3年ぶり13回目の出場を決めた。
東京都予選の大事な試合を控えた10月12日、日本に上陸した台風19号の影響で、東京が普段練習場として使用している多摩川の土手は冠水。
台風翌日はグラウンドに鯉が泳ぎ、鴨もいたという。学校に被害はなかったもののグラウンドはヘドロが堆積し、すぐに使える状態ではなかった。
ラグビーのポールやネットの支柱は折れ曲がり、スクラムマシーンは3km流されてしまったという。
「本当に絶望的になった。大事な試合が控えていて不安が大きかった」とキャプテンWTB(ウィング)熊田力丸(3年)は振り返る。
グラウンドが使えなくなったが、花園予選を控えた大事に時期ということもあり慶應義塾大学、東京農業大学、慶應義塾高校が合同練習を快く受け入れ、週末はマイクロバスで流経大柏などに赴いて練習をした。
テニス部や陸上部も校内の人工芝の練習場を使用させてくれるなど、他の部活のサポートもあった。
写真:東京高校を率いて35年目の森監督
東京は過去2年東京都予選で敗退しており「もう、花園に出られないのかな……」という思いもよぎったのが、東京を率いて35年目の森秀胤監督だ。
「大学や高校のチームに是非、来てくださいと言っていただきました」と言えば、キャプテンの熊田も「身体の大きな大学生とアタック&ディフェンスをしていい練習ができた」と感謝を口にした。
土手で鍛える「土手モール」と前に激しく出る「シャローディフェンス」を伝統的に武器としている東京。
グラウンドが使えない間は、大学生と身体を当てる練習ができたこともあり、準決勝でFW(フォワード)の大きな目黒学院を31-28で下して決勝に進出した。
準決勝よりもボールの動かし方に工夫した決勝は、武器とするモールに固執することなく、素晴らしい展開力を見せてトライを重ね、守備が機能して相手を零封しての快勝だった。
新チームになり、森監督は伝統の守備、モールも鍛えつつも、「もう一度、ラグビーに真剣に取り組めるようにしたい」と私生活から見直した。
さらに選手たちに問題提起することで、自主性や考える時間を多く持たせたるように指導したという。
写真:前列左から野田副将、熊田主将、石井副将。後列は関、牧野、石山、杉本
また、キャプテン1人を頼ってしまい、選手たちが受け身にならないように熊田キャプテン以下、副キャプテンを含めて6人のリーダーを指名した。
「リーダーシップが取れる選手がたくさんいたこともあります。お互い面倒を見たり見られたりして、練習や試合で7人がコーチ目線を持っていろいろと話しをしてくれるようになった」と森監督。
また、熊田キャプテンも「リーダーがたくさんいるのでいろんな意見が出来るし、信頼関係も築けた。一気に変わった」。
そして、副キャプテンのLO(ロック)石井隆也も「どこにいてもリーダーがいる。リーダーたちが1人ひとり声を出すことで、全体の意識が上がっている」と複数リーダー制の効果を実感している。
新人戦は東京都ベスト8、春季大会はベスト4だったが、東京は少しずつ成長して、夏合宿では大阪桐蔭に引き分け、御所実業、京都成章ともいい試合をして、秋に向けて自信を深めた。
写真:ボールを動かすために接点の練習に精を出す
また、アタックに関しては「縦に食い込むために、そしてボールを展開するために立ってつなぐ」という意識の下、オフロードパスなどの練習にも精を出した。
モールも守備も、そしてアタックも、すべてがいいところが出たのが予選決勝の早稲田実業戦だったというわけだ。
試合序盤で相手の攻撃を我慢強い守備で抑えて零封し、アタックでは相手の強い近場やモールを押し込むことにこだわることなく、キックパス、オフロードパスなども使いつつ、ボールを展開してトライを挙げた。
昨年度の東京予選で本郷に準決勝で0-34と負けた悔しさをバネに、この1年間の努力の成果がパフォーマンスとして出た試合となった。
「花園でもモールでトライを奪って主導権を握りたい。ただ展開力も強みなので、FWも走ってランニングラグビーができるようにしたい」(副キャプテン・石井)。
3年生の多くが、3年前の中学3年時に東京がベスト8に入った大会を見て「強いチームだったので憧れた」と東京に進学した選手たちだ。早稲田実業を下しての出場ということもあり、Bシードにも選出された。
熊田主将は「目標は、(3年前のチームと同じ)ベスト8です。花園で年越しをして再び、東京を有名にしたい」と力を込めた。
◆全国高校ラグビー大会 2回戦
・12月30日(月)12:45 黒沢尻工業(岩手) vs. 東京(東京第1)
文/写真:斉藤健仁
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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