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12月27日から開幕する「花園」こと、全国高校ラグビー大会。注目校の一つとして紹介するのは6年ぶり3度目の出場となった、埼玉だけでなく全国的にも進学校として名高い浦和(埼玉)だ。
今年度の浦和は県内で負けなしの「3冠」を達成し、「今大会こそ、花園初勝利を」と意気込む。また、浦和を率いる三宅邦隆監督の「部活改革」にも迫りたい。
1895年に創立。東大合格者数は毎年、公立校としては全国トップクラス、埼玉県一の進学校である浦和。
昨年度もラグビー部から浪人の末、東大に2人、京大に2人、一橋大に1人、東工大1人が合格したという。
ラグビー部にスポーツ推薦はなく、毎年部員は15人程度。そのため、ラグビーを中学生以下でプレーしたことがある選手は、今年のチームも各学年に1人程度と花園出場チームの中では少ない。
浦和にとってラグビーは授業で行う「校技」であり、身近な存在であるが、ラグビー部には経験者もいない、身体も小さいチームが勝つためには……と、筑波大学ラグビー部出身の小林剛・前監督は砂場における接点強化などの練習もフルコンタクトで鍛えた。
前に激しく出る守備とFW(フォワード)のモールが浦和の伝統となっている。医学部志望の副将のLO(ロック)梯拓人(3年)は「浦高にとってFWが一番の武器。スクラム、モールにこだわりがあります」と胸を張った。
写真:練習後、残って勉強するLO阿讃坊。国立大理系志望だ
その後、同じく筑波大ラグビー部出身でコーチから2年前に指揮官となった三宅邦隆監督は、部の伝統を引き継ぎつつ、「部員も少ないので、ケガをなるべくしないように、フルコンタクトの練習は限定的にした」と話す。
ケガ人が少なくなる一方で、タックルで言えばアプローチの練習を徹底的に行うことで、タックル成功率は上がったという。
浦和は武両道を意味する「尚文昌武(文を尚び武を昌にす)」が校訓で、勉強・部活・行事の3つに精を出す「三兎を追う」ことも掲げており、勉強、行事も一生懸命やる校風がある。
そのため、部活動の時間は午後6時過ぎまでの2時間半ほどだ。3年生の全員が受験生であるように、部活動が終わってから学校に残って10時くらいまで勉強する選手も多い。
毎週月曜日は全体でウェイトトレーニングは行っているが、あとは朝や昼休み、練習後に行う選手などもいる。
写真:チームトークでプレーの確認をする選手たち
2年ほど前、三宅監督が指揮官に就任すると、自主性を重んじる指導方法に重きを置いた。
前監督はトップダウンでしっかりと教え込むタイプだったこともあり、「最初はもっと指導してください、もっと怒ってくださいという声もありました」と振り返る。
ただ、「勝つためだけだったら、もっとほかの方法があったかもしれませんが、教育の場なので」という三宅監督の信念、方針は揺らぐことなはなかった。
三宅監督は、なるべく選手に話させるように、練習の合間、合間に「チームトーク」の時間をとっている。
練習の合間に選手たち数人が集まり、そこでお互いに上手くいっている点、反省点や課題などを話し合っている姿をよく目にした。ただ、最初は選手たちから声があまり出ていなかったという。
三宅監督は「しゃべらないのは悪だというふうに言いました。わからないなら、わからないと言いなさい」と説いた。
また、試合の週でも、水曜日に監督、コーチ陣から試合プランを提示するものの、その後はほとんど何も言わないのが通例となっているという。
木曜日に選手たちだけでミーティングを行い、そのまま試合に臨む。ハーフタイムも三宅監督は本当に何かない限りあまり話さないという
写真:左から松永主将、副将の高田、梯、司令塔の目黒
転機となった試合がある。今年の2月の新人戦・準決勝、川越東だった。
風上の前半でリードし、迎えた後半は風下だった。選手たちが自ら今、持っている戦力でどうするかを考えて、愚直にボールを保持し、20-12で勝利して、そのまま新人戦で優勝。7大会ぶり3度目の選抜大会出場も決めた。
「チームトークで、自分たちの意見を率直にぶつけ合うことで練習の質がよくなるだけでなく、試合中のコミュニケーションにもつながって戦術を変えたりできるようになった」とNO8(ナンバーエイト)松永拓実主将。
また、三宅監督は、日々の練習や先の予定の「見える化」も行うだけでなく、日曜日だけでなく、思い切って木曜日もオフにした。
もちろん、身体を休ませるという意味もあるが、オフは選手たち自ら課題となっている部分に取り組んでいる。当然、ウェイトトレーニングや自主練習を行う選手、ビデオを見る時間に充てる選手などさまざまだった。
この1年間で大きく成長したと、コーチ陣も太鼓判を押すSO(スタンドオフ)目黒晃平(3年)は「木曜はウェイトトレーニングをやったり、プレーのビデオを見たりと、自分に今必要なこと、チーム練習でできないことができる」と歓迎している。
写真:三宅監督(左)と山本部長。筑波大の後輩先輩の間柄だ
また、三宅監督は、環境面の整備も務めた。フィジカルのトレーナー、トレーナーには週1回は来てもらい、OBのドクターや埼玉県にある女子栄養大の先生にも協力してもらっているという。
三宅監督が「公立校なのに指導者が2人いて恵まれていると思います」と話すように、2年前に浦和の体育の教諭になったBK(バックス)コーチを務める山本義明部長の存在も大きい。
山本コーチも三宅監督同様に、筑波大ラグビー部出身のSOで関東大学対抗戦でも活躍した選手だった。
三宅監督がFWを、そしてBKを山本コーチが指導してくれたおかげもあり、伝統の守備、モールだけでなく、夏からはボールの展開力も磨いてきた。
花園予選の準決勝でやや縮こまったプレーをしてしまった反省もあって、副将のFB(フルバック)高田賢臣(3年)は「山本先生がBKにはいろいろ教えてくれました。花園ではチャレンジしてやってきたことをやり尽くそう」と腕をぶした。
同学年に自分しか経験者がおらず、引っ張る立場だった主将のNO8松永だが「3年生になってからは、仲間に助けてもらってばかりいます」とチームメイトの成長を感じている。
6年前は初戦で敗退してしまい、まだ浦和ラグビー部は花園での白星はない。三宅監督、松永主将ともに「花園で初勝利を挙げて、浦和の歴史を変えたい」と意気込む。
そして、2回戦も勝利し、大晦日に勉強しながら正月を花園で迎えるのが、3年生全員が受験生という浦和フィフティーンの目標である。
文/写真:斉藤健仁
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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