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次の一節が好きだ。「ラグビーは冬の季語である」。なんべんでも書きたくなる。
ラガー等のそのかちうたのみじかけれ
横山白虹のよく知られた句だ。1934年2月18日、生駒の冷たい風の吹きつけるグラウンドで、全日本と呼ばれたジャパンが来征の豪州学生代表を14対9で破った。勝者の鬨(とき)の声はほんの一瞬だった。そんな光景を切り取った。当時は33歳、医師でもあった俳人はそこにいたのだろう。すなわち大阪・花園ラグビー場の観客席のどこかに。
「花園」の誕生は「スポーツの宮様」と深い関わりがあった。1928年のやはり2月、秩父宮殿下は、橿原神宮ご参拝のために近畿日本鉄道の前身である大阪電気軌道に乗車、沿線の土地に目をやりながら一言。「ここらにラグビー場をつくったらどうか」。同年の12月、同社の役員会にて決議。イングランドのトゥイッケナム競技場の写真などを参考に建設は進み、29年の11月に鉄傘のスタジアムは完成する。
90年後のワールドカップ日本大会、その花園が会場に選ばれて、なんというのか、ただの取材者なのに自分まで義理を果たしたような気になった。こんなに長く高校ラグビーの聖地としての「務め」を貫いてくれたのだ。当然だよなぁと。
1963年。前の東京五輪の前の年。全国高校大会は第42回にして初めて花園を舞台とした。あれから56年、歳月を経れば、すべての参加者に等しく誇りをもたらす時間はまた始まる。師走27日開幕、青春が冬を走り、新年7日、短い「かちうた」と、もう少し長く続く「くやし涙」のフィニッシュを迎える。
さて『ラグビーマガジン』誌の年末のお楽しみ、付録の「全国高校ガイド」をさっき入手できた。ページを繰って、いけない、さっそく鼻の奥がツンとしてくる。北北海道代表、旭川龍谷高校のスコッド紹介、恒例の「目標とする選手」の欄にこうあった。
「林涼生(ОB)」。以下、「山田裕士(ОB)」「種子田規人(ОB)」「高橋泰晟(ОB)」も続いた。忘れがたきワールドカップのイヤーのアンケート、それでも、まっさきに身近な先輩の名を記す。ジャパンの福岡堅樹や田村優やオールブラックスのアーディー・サヴェアの前後に、北の地の無名が陣取って、なんとも幸福な気分に浸れた。
狭い世界とは広くて深い記憶の場でもある。小さな世界を大きく感じるのは少年少女の特権だ。ひとつ上のあの人のスクラムの押しは、きっと稲垣啓太や具智元よりも強い。それでいい。いま、みんなどうしているのか、「湯口龍雅(ОB)」も「大平雄登(ОB)」も後輩の目標となりえた。悪くない高校時代だ。そして、いいクラブである。
ガイドのおしまいのほうには花園(以下、全国高校大会の意味)の過去の参加校が掲載されている。記憶を呼ぶために指でなぞってみる。あっ。声は出ないが出そうになった。思い出したのだ。
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