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奇跡の舞台で番狂わせが起きた。
ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会で東北唯一の開催都市、岩手・釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムで、9月25日(水)、世界ランキング19位のウルグアイ代表が、世界ランキング10位のフィジー代表を30-27で破った。
「(プールDの)フィジー、ジョージアに勝つことが今回の目標。難しい試合になることは分かっていましたが、自分たちが主役だと思って攻撃していこうと話していた。それが勝因だと思います」(ウルグアイ・FLフアン・マヌエル・ガミナラ主将)
東日本大震災で被災した釜石東中、鵜住居小の跡地に建てられたスタジアムに、この日を待ちわびていた1万4025人が集った。
山側のゴール裏スタンドには、招待された沿岸市町の小中学生が詰めかけ、歌詞作りに関わった「ありがとうの手紙 #Thank You From KAMAISHI」を合唱。
直後に航空自衛隊のブルーインパルスが青空を駆けて、会場からは大歓声。両国国歌斉唱前には、東日本大震災の犠牲者への黙とうが捧げられた。
ウルグアイの国歌斉唱では、ボールボーイを務めた少年がウルグアイ国歌を熱唱。FLガミナラ主将の士気高揚にひと役買った。
「前にいた(ボールボーイの)少年がウルグアイの国歌を歌ってくれました。スペイン語なのに全部覚えてくれていた。こんなことは滅多にあることではないので、嬉しくなりました」(ウルグアイ・FLガミナラ主将)
試合直前にはフィジーが伝統の戦いの舞い「シンビ」を披露し、震災から8年、奇跡の舞台で奇跡のような試合は始まった。
ウルグアイ国歌斉唱|ラグビーワールドカップ2019
ウルグアイにとってフィジーは2015年W杯で敗れ(15-47)、昨年にはフィジーの首都スバで大敗(7-68)を喫した格上。
一方、今大会のフィジーは、21-39で敗れた大会初戦のオーストラリア戦から中3日とおいう強行日程。NO8レオネ・ナカラワなどスター選手を3人残しつつ、前戦から先発12人を変更した。
とはいえ、南太平洋島嶼国で最大の人口85万人を誇るラグビー強豪国。競技人口が「ジュニアも含めて4千人くらい」(ウルグアイ・メネセスHC)というウルグアイと比べれば選手層も厚かった。
中3日の強行日程とはいえ、やはりフィジーが有利か――
序盤はそんな戦前予想に沿う展開だった。
フィジーは先発8人の総体重で75キロも上回るファーストスクラムで押し切り、いきなり相手の反則を誘発。前戦のオーストラリア戦で課題になったスクラムで優勢となった。
さらに前半7分にHOマスラメ・ドロコトがゴール前サインアウトのサインプレーから、左隅にあっさりトライ(ゴール失敗)。ただ、容易に先制トライを奪ったことで油断が生まれたかもしれない。
ウルグアイは前半13分、相手のパスミスを捕球すると、SHサンティアゴ・アラタが粘り腰で突破し、独走トライ(ゴール成功)。5-7
フィジーは前半18分にFW勝負からPRエロニ・マウイが押し込みトライ(ゴール成功)を決めるが、ウルグアイは前半21、25分に連続トライを返す。
同37分にはPG(ペナルティーゴール)を決めて、12点リード(24-12)で前半を折り返した。
この日のフィジーはキャリーメートル数、ラン回数、ディフェンス突破数など、アタックの統計数値でウルグアイを大きく上回った。
しかしハンドリングエラーが19回(ウルグアイは11回)に上った。
後半16分に途中交替した配球役、先発SHヘンリー・セニロリとランナーの息は合わず、突破役を託されたWTBフィリポ・ナコシは度重なるハンドリングエラー。
プレースキックの不調も番狂わせの要因となった。
後半はフィジーが後半7、26、41分に3トライを挙げたが、コンバージョンの成功はゼロ。先発SOジョシュ・マタヴェシの不調を受け、後半11分に投入された正SOベン・ボラボラも2本とも外した。
一方のウルグアイは地道にPG加点。後半20分、35分には、前回W杯でプロ契約をしていた4人のうちの一人で、この日MOM(マン・オブ・ザ・マッチ)を記録したSOフェリペ・ペルチェシが右足を振り抜き、ゴール裏の小中学生の前で旗が上がった。
フィジーは後半41分にトライを決めたが、時すでに遅し。
ウルグアイはフィジーの約2倍にあたる181タックルを記録。FLガミナラ主将を筆頭に、SOベルチェシ、WTBロドリゴ・シルバらバックスも懸命に身体を張った。
ノーサイドの瞬間、ベンチからは選手、スタッフがピッチへなだれ込んだ。ウルグアイのW杯勝利は2003年大会のジョージア戦以来16年ぶり。FLガミナラ主将はスタッフに抱きつき嗚咽した。
試合後、連敗を喫したフィジーのジョン・マッキーHC(ヘッドコーチ)は「まずはウルグアイを讃えたい」と語った。
「情熱的でハードワークをしていた。私たちの試合の感覚は短かったが(中3日)、それは言い訳にできない。彼らは我々のミスを突いて3トライを決め、我々にプレッシャーが掛かった」
一方、歴史的勝利の指揮官となったウルグアイのメネセスHCは興奮収まらぬ様子だった。
「この4年間してきたことの結果を見て頂けたと思う。何が必要かを考え、この4年間を過ごしてきました」
試合後のピッチでは、スタンドへ挨拶する両軍へ、奇跡の目撃者となった人びとから温かい拍手が送られた。
素晴らしい門出を飾った釜石でのW杯初試合。この財産を活かして、釜石の未来へ繋げていきたい。
【ハイライト】フィジー vs. ウルグアイ ラグビーワールドカップ2019 プールD
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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