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釜石鵜住居復興スタジアムでの勝利を、多くのラグビーファンは忘れることがないだろう。ラグビーワールドカップイヤーの初テストマッチ(国代表同士の試合)で快勝。世界ランキング9位、昨年の11月はフランス代表を破り、直前にはマオリ・オールブラックスに勝ったフィジー代表に対しての会心の勝利は、日本代表の準備に不安を抱いていた多くの人々を安心させるものだった。
試合後、帰途に就く観客の皆さんには笑顔があふれていた。その一人から釜石シーウェイブスの団扇をいただいた。裏面を見ると「釜石にはラグビーの力がある」と書いてある。その通り、釜石という場の力が後押しした勝利かもしれない。釜石市の人口は約3万3千人である。そこにあるスタジアムに1万3135人の観衆が集った。遠路はるばる駆け付けた人も多い。ラグビーの街・釜石だからこそだろう。新日本製鉄釜石ラグビー部の7連覇が始まったのは40年前のことだが、あの熱狂、感動を忘れない人は多い。釜石は今も日本のラグビー関係者、ファンにとって特別な場所だ。
そして、東日本大震災からの復興である。リーチ マイケルは、釜石で行われたことが選手のモチベーションを高めたと話している。多くの選手が釜石の人たちに勇気を与えるような試合がしたいと言った。試合は、その通りの展開になった。
7月27日、午後2時50分、日本代表ボールのキックオフ。フィジーが蹴り返したボールをWTB松島幸太朗がカウンターアタックを仕掛け、その後の連続攻撃でフィジーの反則を誘う。前半3分、SO田村優のPGで先制。直後のキックオフは、自陣深いところでキャッチした日本代表LOトンプソン ルークがゆっくりと相手にコンタクトすると同時にモールを形成し、ぐいと押し込んで反則を誘った。これも狙い通り。8分、フィジーゴール前に攻め込み、相手のディフェンスが前に出てきたところを見逃さずに田村がインゴール左端へふわりと浮かすキック。これをWTB福岡堅樹が飛び込みながらキャッチしてトライ。8-0とリードする。
パシフィック・ネーションズカップ 日本 vs. フィジー ハイライト
「キックはできるだけ使いたくなかった」(ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ)。ボールを持たせれば危険なランナーが多いフィジーの特長を封じる作戦である。しかし、12分、フィジーの猛攻に耐え、相手陣にボールを蹴り込んだところからカウンターアタックを仕掛けられ、CTBレバニ・ボティアにトライを奪われる。日本が恐れていた失点だ。嫌な流れになりそうだったが、日本代表はプラン通り、ボールを継続保持して攻め続けることに徹した。
19分のトライは見事。フィジーのゴール前に攻め込み、CTB中村亮土の突進でラックを作り、SH茂野海人が右に行くと見せて、WTB松島幸太朗が内側に切れ込んでトライ。鋭角的に斜めに走りながら最後に縦にコースを変える松島の非凡さが際立つトライだった。23分のCTBラファエレ ティモシーのトライも意図的だった。ラインアウトのロングスローを松島がキャッチして前進し、左方向への連続アタックの後、右方向へ。CTB中村亮土、SO田村優とボールが渡って田村が右タッチライン際のNO8アマナキ・レレイ・マフィにロングパス。マフィはまっすぐ走りながらタックルを受ける寸前に右手一本でタッチライン際のHO堀江翔太へパス。堀江はタックラーを一人かわして左側に走り込んできた松島へ。松島からボールはさらに左にいたラファエレへ。ディフェンスを翻弄するトライだった。
日本代表のトライはすべて意図通りにディフェンスを崩していた。FL姫野和樹を左に、マフィを右タッチライン際に配置し、トンプソン、初キャップのLOジェームス・ムーア、両PRらがフィールド中央で働く。幅広い攻撃を、茂野、田村、中村の好判断と正確なスキルがコントロールした。宮崎合宿で入念に鍛え、選手同士が何度も話し合った成果だった。一方、ディフェンスではモールから簡単にトライを許すなど課題は多かった。自陣で反則してしまう規律の乱れも気になるところ。しかし、攻守の切り替えは素早くできていたし、課題を収穫が上回った気がする。
重いフィジーFWに対してスクラムは安定し、後半、木津悠輔、三浦昌悟という若いPRが入ったときも安定していた。ゲームキャプテンを務めたFLピーター・ラブスカフニが前半33分に膝を痛めて退場したことは心配だが、代わってリーチ マイケルが投入されるところに層の厚さを感じる。先発陣のパフォーマンスの良さに、試合後のリーチは「このままだったら、僕はリザーブ(控え)になる」と危機感を口にしていた。
最終スコアは、34-21(前半29-14)。ラグビーワールドカップ日本大会開幕まで約50日。準備に奔走するスタッフほか、大会の成功を祈るすべての人々の気持ちを明るくした点で、この勝利の価値は計り知れない。8月3日のトンガ代表戦で、さらに日本ラグビーを勢いづけてもらいたい。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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