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ともに観た者の記憶に残るであろう大熱戦だった。
4月6日(土)、埼玉・熊谷ラグビー場で行われた第20回全国高校選抜ラグビー大会“センバツ”の準決勝2試合は、ともに1点差で決着した。4強に残った御所実業、天理(ともに奈良)、桐蔭学園(神奈川)、京都成章(京都)は、この日が大会5試合目。初戦から連戦、中1日、中1日、中1日という試合間隔のなか、最後まで勝負のわからない激闘を繰り広げた。
◆第1試合「御所実業×天理」(11:00キックオフ)
第1試合は宿命の対決。20年以上奈良県の王座を奪い合ってきた御所実業、天理が、センバツで初めて激突した。
先制は風上の御所実業。
前半4分、右展開をフォローしていたPR島田彪雅(3年)が先制トライ。ゴールは失敗も5点を先取した。御所実業はブレイクダウンでも優位を保って主導権を握ったが、ライバル・天理も負けていなかった。
前半15分、右ラインアウトからスピードランナーのSH山脇一真(3年)がギャップを見つけ、チームを助ける独走トライ。SO半田裕己(3年)が逆風のコンバージョンを決め、5-7と逆転に成功した。しかし御所実業も前半25分、LO平井半次郎(2年)が相手ラインアウトのこぼれ球を捕球。そのまま独走トライを決め、10-7とリードして後半へ向かった。
前半の天理は強烈な風下ながら、3点ビハインドで折り返し、ラインアウトモール、ゴール前の攻防でも負けていなかった。そんな天理が後半、フラッグがバタバタと鳴る風上に立ち、ロケットスタートを決めた。
後半3分、ブラインドウイングだった豊田祐樹(3年)が走り込んで先制トライ(ゴール成功)。いきなり逆転すると、さらに4分後、波状攻撃のなかで天理らしいフラットラインでFB本田飛翔(3年)が突破。ディフェンダーが背後に振り返るなか、そのままFB本田がポスト下にトライを決めた(ゴール成功)。10-21。風上の天理が11点のリード。
そんな窮地を救ったのは御所実業のバックスだった。後半10分にはWTB安田昂平(2年)、そして同12分にはFB石岡玲英(3年)が切れ味鋭いステップで約80メートルを走りきり、値千金の逆転トライ(ゴール失敗)。ついに22-21と逆転した。
そして1点リードの御所実業は後半ロスタイム、マイボールスクラムを確保すれば勝利確実という状況に。しかしこの最終盤のスクラムで反則が起き、天理の逆転をかけた逆襲が始まった。
会場が興奮に包まれるなか、1点差を追いかける天理はラインアウトからラストアタック。しかし敵陣に入ったところで、御所実業のPR津村大志キャプテンのタックルにより、天理がノックオン。ノーサイドの笛が響き渡り、明暗が分かれた。
1点差で敗れた天理の松隈孝照監督は「相手の土俵で戦ったらダメですね。反則すると必ず相手の土俵になるので」
「奈良県決勝は周到に準備するのですが、今回は1日しか準備する時間がなかった。いつもとは少し違いました」
奈良勢対決になったことについては、「同じ奈良として、こうして上でやれたことは嬉しかったです」と激戦を振り返っていた。
22-21で“奈良決戦”を制し、昨年の奈良県決勝の借りを返す格好となった御所実業の竹田寛行監督。
「(昨年のリベンジは)言わなくても、選手はそうなりますね。今回は『近畿大会で負けた(東海大大阪)仰星に当たるまでは負けんとこう』というのが目標でした。その目標を達成して、もうひとつ、こういうチャレンジができたことで成長できるかなと思います」
決勝戦に向けては「モールやセンターエリアのディフェンスをやりきりたい。相手のスピードをどれだけ止められるかが、次に繋がるところだと思っています」と意欲を見せた。
●第2試合「桐蔭学園×京都成章」(12:20キックオフ)
関東1位のセンバツ2連覇王者・桐蔭学園と、近畿1位の京都成章が激突。ラストワンプレーが勝敗を分ける激闘となった。
京都成章が多くの時間帯で優勢だった。前半5分、敵陣でのターンオーバーからWTB西川彪馬(3年)が左隅で突破、フォローのFL延原秀飛(3年)が速攻を仕留めた。万能な2年生SO辻野隼大がコンバージョン成功。京都成章が7点を先取した。
桐蔭学園もSH亀井健人(3年)が間隙をすり抜けて独走トライ。1トライ1ゴールを返して同点とした。しかし大会随一のサイズ、タレントを誇る京都成章は強力だった。PR西野拓真(3年)、NO8村田陣悟(3年)はボールを持てば確実に前進。LO本橋拓馬(2年)は防御も激しく、LO山本嶺二郎(3年)はラインアウトで抜群の存在感。
俊足ハーフ団・SH宮尾昌典、SO辻野は強気にチームをリードし、先月まで1年生だったと思えない安定感でチームを前進させた。すると前半18分、京都成章は大型FWに目がいった相手防御のスキを突き、SH亀井が抜け目なくトライ。さらに前半23分のPG加点により、京都成章の10点リード(7-17)で前半を折り返した。
桐蔭学園が反則を重ねたこともあり、後半も序盤は京都成章ペース。後半5分にもPGを追加して、京都成章のリードはこの日最大の13点(7-20)に。密集戦ではFL三木皓正キャプテンのジャッカルなどでインゴールを割らせなかった。
しかし京都成章は次第に防御ラインの整備、接点でのリアクションで後手に回ってしまった。桐蔭学園はそんな相手のスキを突いた。後半15分にはキックカウンターから敵陣へ入ると、ループを交えて右サイドを攻略。フルバックの適性もあるWTB秋濱悠太(2年)が、外にもう一人余らせた状態でフィニッシュ。ゴール成功で6点差(14-20)に。
1トライ1ゴールで逆転の桐蔭学園。
一方の京都成章は後半22分ごろ、敵陣でペナルティを獲得し、PGチャンスがあった。そのときベンチにいた指揮官の湯浅泰正監督はPGを指示。しかしピッチ上のメンバーは、左ゴール前ラインアウトを選択。この直前にキッカーのSO辻野も怪我により途中交代していた。トライを狙った京都成章。しかしラインアウトで競られてボールが乱れ、捕球はしたがカウンターラックに遭い、ボールを奪われた。
「(ゴール前ラインアウトの選択は)最終的に僕が判断しました。モールも押せていたので。今回は勉強になりました」(京都成章・FL三木キャプテン)
ここから桐蔭学園は相手ペナルティから速攻するなど、相手を休ませない戦い方で攻勢に出る。しかしラストパスがスローフォワードになるなど、再三のチャンスを活かせず、ついに後半ロスタイムへ。
京都成章が桐蔭学園の3連覇を阻止――。そんな見出しもよぎった後半ロスタイム、時間を使おうとした京都成章がラックで反則。
桐蔭学園に攻撃権が渡り、後半ロスタイム、敵陣10mスクラムを選択する。ここで驚異的なラン能力を持つ桐蔭学園のSO伊藤大スケ(示右)キャプテンは、相手の防御裏が無人であることに気がついた。
「最初は一発サインをやる予定でしたが、相手のフルバックが上がっていたので、自分の判断でセンターに(プレーを)伝えました」(桐蔭学園SO伊藤)
選んだプレーは、防御背後の無人エリアへのチップキック。キックの瞬間、熊谷ラグビー場がどよめいた。
「ベンチは予測してましたけど『まさか蹴らへんやろな』と言っていました」(京都成章・湯浅監督)
転がったキックをチェイスする桐蔭学園。SO伊藤がボールをドリブルし、デッドゴールライン手前で押さえたのは、FL久松春陽大(3年)だった。
トライの笛が鳴り響く。電光掲示板のスコアは19-20に。そしてゴール正面のコンバージョンが成功。桐蔭学園サイドに雄叫びが響いた。チップキックという勝負手による劇的な逆転勝利だった。
京都成章の湯浅監督は、選手が指示したPGを選ばなかった場面について「監督の指示を無視して、ベンチで『南アフリカ戦になるかな』と言っていたんですけどね。でもそれも彼らの選択だし、それを含めて良き経験をしてくれたと思います。最後のギャンブル(チップキック)は流石です」
「チームを束ねていた10番(SO辻野)が怪我をしたのが痛かったですね。3連覇を阻止したかったですけど、残念でした」と激闘を振り返った。
センバツ3連覇まで、あと1勝となった桐蔭学園の藤原秀之監督。
「後半10分くらいしかウチのラグビーをしていなかったです。相手が大きかったので。勝ちを拾ったような試合でした。今日はほぼ京都成章さんのゲームでした」
「最後も何をやるかなと思っていたら、フルバックが上がっていたのを見ていたんでしょう。あれ(チップキック)はイチかバチかのプレーですね」
センバツ3連覇が懸かる御所実業との決勝戦については「(御所実業には)勝ったことが一度もないです。花園も選抜も。モールもディフェンスが強いですね」と警戒していた。
この大会6日目の激闘により、決勝戦のカードは「桐蔭学園×御所実業」となった。
平成最後のセンバツ王者の栄冠に輝くのはどちらか。運命の選抜ファイナルは4月7日、熊谷ラグビー場で午前11時に火蓋が切って落とされる。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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