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1918年の第1回大会から100周年を迎える今年の「花園」こと、全国ラグビーフットボール大会(12月27日~1月7日@東大阪市花園ラグビー場)。
なかでも、ラグビーファン、スポーツファンの耳目を集めているのが、「早実」こと、早稲田実業(東京第1)だ。もちろん、ジャージーは早稲田大学と同じ「赤黒(アカクロ)」である。
早実は東京第1地区の決勝で、花園優勝5回を誇る國學院久我山に43-19と快勝して出場を決めた。
1月の新人大会で21-64、5月の春季大会で21-41と敗れていた強豪を破って、82シーズン(79大会)ぶり6度目の出場を決めた。
82シーズンぶりというのは、山口(山口)の持っていた64シーズンを抜く歴代最多ブランク記録だ。早実が前回出場したのは1936年(昭和11年)度大会。
その年は1月に兵庫県西宮市の甲子園南運動場で大会が開催されていたため、早実が「花園」でプレーするのは初となった。
就任5年目で早実を花園に導いたのは、J SPORTSでラグビーのプロデューサーを務める大谷寛HC(ヘッドコーチ)だ。
花園を決めた瞬間、大谷HCは「一昨年、昨年の3年生たちの顔が浮かんだ。やっと花園にたどり着いた」と言うように、早実は3年連続で決勝に進出。
キャプテンのNO8(ナンバーエイト)相良昌彦(3年)は3年目の決勝だったため、場慣れしていることも大きかった。
大谷HCは早実、早稲田大ラグビー部のOBで、かつては早稲田大のジュニアチームのコーチを務めていた。
ただ、「早稲田大はなかなか人材を確保できない。そのためには系列校を強くしないといけない」と常々感じていたため、母校・早実の指揮を務めることを決めた。
なお、大谷HCは花園で早実に帯同している間は、有給休暇を取って指揮にあたる。
大学やワセダクラブからS&Cコーチやコーチを派遣してもらったり、大学に練習に行ったりと「高大連携」を深めた。
また、人材を確保するため、OBにスカウト担当を決めて、丁寧に声をかけていった。スポーツ推薦の精度もあるが、試験も行なわれるため、希望者の半数は不合格になってしまうという。
ただ、徐々にラグビー経験者も集まり、予選決勝では実に15名中7名が「親が早稲田大ラグビー部出身」である「2世」という布陣だった。
キャプテンの相良の父は、1990年代にFL(フランカー)として活躍し、現在は早稲田大ラグビー部の監督を務める南海夫氏である。
予選決勝でスペシャルプレーからトライを挙げたWTB(ウィング)今駒有喜(3年)の父は、1987年度に日本選手権を制した時の副将で、元日本代表CTB(センター)の憲二氏。
U17日本代表歴もあるFB(フルバック)小泉怜史(3年)の父・剛氏は、1988年度の控えSO(スタンドオフ)。
他にもSO守屋大誠(1年)の父・泰宏は1990年代初頭に活躍したSOであり、LO(ロック)池本大喜(2年)の父・信正氏もFL(フランカー)として活躍した選手だった。
ただ、「選手たち自身は間違いなく『2世』だと思ってなくて、普通に自分のお父さんとしか思ってないですね」。
「僕は、今はコーチと保護者という関係なですが、早稲田のラグビーでずっと一緒にやってきた先輩、後輩という関係でもあるので、僕のラグビーに対する考え方をすごく理解してくださっています」。
「共通認識を持っていただいているというところではすごく心強いです」(大谷HC)。
早稲田大の系属校として、どういったラグビーをしたいかと大谷HCに聞くと「早稲田はどんな相手でもまず勝つことを前提に準備をします」。
「相手がどんなに強くても決して逃げず、決して諦めない。勝つための方法論や準備をとことん突き詰めるのが早稲田のDNAだと思います」と語った。
また、花園でどんなラグビーを見せたいかという問いに指揮官は「基本的には、フィジカルがあり体格も大きい相手に勝つための練習をしています」。
「局面ごとに数で上回っていけば体格や能力の劣勢を補えるということをまずベースにしました」。
「また、基本的にはチャレンジする側のチームなので、ディフェンスからチームを作って、速いテンポで的確にスペースにボールを運ぶようなチームを目指した」という。
早実の注目選手を2人紹介したい。それは父親が同級生で1987年度、早大学院(東京)で花園に出場したキャプテンNO8相良と、1年生ながらSOを任されている守屋だ」。
2人とも、父親に早稲田大時代に活躍した姿をビデオで見せられることもあるという。ただ、父親は高校時代、花園では1回戦で東福岡(福岡)に敗れているため、父よりもいい成績を残したいと全国の舞台に挑む。
相良は大谷HCが「チームの中で一番、ボールを持って前に出られる選手」と期待をかけるボールキャリアだ。相良本人も「アタック、ディフェンスで前に出て引っ張っていければいい」と語る。
花園に向けてキャプテンは「早いリロードとかセット、余ったところに素早くボールを回すのが早稲田のラグビーだと思います。個人としては、チームが苦しくなった時に自分が打開できるようなプレーを見せたい」。
「ただ、初出場みたいなものなので、とにかく一戦必勝で一つ一つ勝っていきたい。チームとしては2回戦を勝って花園で年を越すことを目標にしています」と気合いをいれた。
大谷HCは、1年生SO守屋に関しては「1年生としてはすごい落ち着きぶりで、グラウンドの中では物怖じせずに、ちゃんと3年生に指示を出して強気なところが頼もしい」と信頼を寄せている。
憧れは元ニュージーランド代表ダン・カーター(神戸製鋼)という守屋は、早稲田大でラグビーがしたくて高校から早実に進学。
1年生ながらSOという大役を任され、花園に出場する。「学年は関係ありません。SOなのでパスとゲームコントロールを意識して、的確に周りの選手を動かしたい。出るからには思いっきりやりたい!」。
早実は12月28日(金)の1回戦で名護(沖縄)と対戦し、勝利すれば30日にBシードの流通経済大柏(千葉)と対戦する。
大谷HCは、「『年越しをする』という花園での目標は選手たちが決めたので、僕の仕事としてはその目標を達成するための準備や基準を選手たちに示していくことです」。
「早実がこの1年間かけてずっと培ってきたものを、思う存分発揮してしっかり結果を出したい。本当に勝負にかけていくという厳しさをしっかり味わい、達成してそこで喜びをみんなで分かちあいたいなって思っています」と意気込んだ。
果たして、早実は、かつて野球部が甲子園を席巻したように、初の花園で旋風を巻き起こすことができるか。
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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