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第98回目を迎える「花園」こと、全国高校ラグビーフットボール大会(12月27~1月7日、東大阪市花園ラグビー場)に出場する東京第2地区代表の本郷高校。
1985年度には準優勝も経験したことのある強豪で、毎年花園に狙える位置にいたが、今年の予選は目黒学院を28-19で退けて、8年ぶり10度目の出場を決めた。
本郷高校は「文武両道」の男子校として知られており、スポーツ推薦で入った生徒は誰もいない。毎年花園予選の上位に進出し、東京では強豪で知られるラグビー部員もその例外ではない。
「東京都第1地区、第2地区の花園予選決勝に出場した4校のうち、スポーツ推薦で選手を取っていないのは本郷だけです」。
「スポーツ推薦がなくても勝てる。他の高校に勇気を与えるチームになろう」と渡邉宣武監督(50歳)は選手たちを鍛え続けてきた。その結果が出たというわけだ。
1923年創設の歴史ある本郷高校は、1996年にデザイン科と工業化を廃止し、現在では東京都内屈指の進学校となった。
中高一貫で、1学年8クラス、生徒は300名強ほどだが、2018年の東京大学、一橋大学、東京工業大学、京都大学の合格者数が昨年度は40名、早稲田大学と慶應義塾大学の合格者数は合わせて200名を超える。
教育目標は「強健」「厳正」「勤勉」で、教育方針は「文武両道」「自主学習」「生活習慣の確立」。勉強とクラブ活動を両立し、心身ともに成長させることを目的に、中学1年生は全員が部活に入ることが義務づけられているほどだ。
大学受験のために補講などはないというが、部活は週5回、1日3時間という決まりがある。ラグビー部は月曜日と木曜日がオフで、練習は放課後のみ。16時前に練習は始まり、18時過ぎに終わり、19時が完全下校だという。
そのため、大浦一雄監督時代からコーチを務めて、監督に就任して10年目という国士舘大ラグビー部出身の渡邉監督は「朝練習もやっていません」と話す。
「昔は練習時間が長かったですが、今は短い時間の中で質と量を高めて、どう集中するか考えています」。OB会もコーチ派遣などでサポートしているという。
高校からも入学できるが80名ほどのため、大半が中学生からラグビー部に入部している生徒である。
2008年には土から人工芝のグラウンドとなり、今年の高校2年生の代は中学3年時に、太陽生命カップと東日本中学大会で準優勝を果たしている。
予選決勝でも、そのメンバーであるU17日本代表HO(フッカー)福澤慎太郎を筆頭に、LO(ロック)池田健朗ら、SO(スタンドオフ)吉岡麟太朗、CTB(センター)高橋陽太、WTB(ウィング)長峰奨真、清水鳴哲ら、2年生6人が先発、25人中だと12人が1~2年生という若いチームだ。
一昨年の選手のひとりは京大に合格、昨年のキャプテンだった杉浦育美選手は東大に現役合格した。それでは選手たちは、どうやって部活と両立しながら勉強時間を確保しているのだろか。
12月中旬に本郷高校に取材に行くとちょうと校内合宿中だった。渡邉監督が標榜する「FW(フォワード)とBK(バックス)全員でボールを活かす」ラグビーが信条だが、「少しモールが弱くなってしまった」ということで、FWはモールの練習に精を出していた。
予選決勝では、FWの強い目黒学院の近場のアタックを止めたことが勝因となったように、強豪校に対してフィジカルバトルでも逃げるわけにはいかない。
そのため、週2日ほどはウェイトトレーニングの時間を設けている。この日も、FWがユニット練習の間は、BKがその最中だった。
驚いたのが練習スケジュールだった。朝6時に起床し、まず1時間練習。朝食を挟んで1時間勉強してから、午前の練習を2時間半。
そして昼食を食べた後、再び、2時間の勉強をした後で、さらに2時間半の練習。お風呂や夕食の後は戦略、戦術のためのミーティングを1時間行い、2時間の勉強をやって22時に就寝という予定だ。
つまり花園直前でも勉強時間が5時間と、ラグビーの練習時間とほぼ同じだ。3年生の中で、指定校推薦で合格した選手は15人中1人のみで、14人は受験生。
コーチが監視するわけでもなく、昼食後に選手たちは空いている教室や共用スペースで勉強を始めていた。本郷高校は、夏は山中湖で合宿するのが通例だが、その時も同じようなスケジュールだという。
キャプテンはNO8(ナンバーエイト)島田耕成(3年)だ。昨年度の3年生が託した。筑波大学SO島田悠平(3年、國學院久我山出身)を兄に持ち、幼少期は少しだけラグビーをやっていたが、その後は中学まで野球をしていた。
だが、兄が花園で活躍した姿と、2015年ラグビーワールドカップでの日本代表の躍進に刺激されて、高校からラグビー部の門を叩いた。3年生の中では島田とサッカー部だった、LO阿久津創の2人のみが高校からラグビーを始めた選手だ。
島田はPR(プロップ)伊藤大智、FB(フルバック)村井勇大(ともに3年)の2人とともに3年生の中では、2つある特進クラスに在籍する選手で、3人とも第1希望は国公立大学である。
当然、1月19・20日のセンター試験も受ける。図書館で可能な限り勉強したり、朝早く来て勉強したり、予備校の自習室に23時まで残って勉強したりと工夫はさまざまだが、勉強時間を確保に努めており、当然、花園にも参考書や問題集などを持参する。
昼食後、すぐに試験の勉強を始めていたNO8島田キャプテンの第1希望は一橋大で、大学でもラグビーを続ける予定だ。
「部活をやっていない人たちより、3時間くらい勉強の時間が少なくなります。ただ、親には部活を勉強の言い訳にするな、勉強を部活の言い訳にするなと言われています」。
「妥協せずに、花園ではラグビー部の3年間の集大成、そして大学受験では本郷での6年間の集大成だと思って、両方で結果を残せればと思います」と意気込んでいる。
本郷高校は1回戦、12月28日(金)午前10:00に第2グラウンドで、花園常連で、12年連続13回目の出場の強豪・尾道(広島)と対戦する。
「見ている人の記憶に残る、楽しい、おもしろいラグビーをしよう」と渡邉監督が言うようにボールを動かすラグビーで勝利を目指す。
勉強をしながら大会に臨む島田キャプテンは「夢にしていた舞台に立てることが決まったのでうれしいです。年越しをして、キャプテンとして抽選をしてみたい」とベスト8以上を目標に掲げた。
渡邉監督が「勉強と部活をバランスよくやるのではなく、両方で秀でることが文武両道です。両方頑張るのではなく、両方で結果を残す。先輩たちが頑張ってくれた財産があります」。
「花園で1月7日の決勝まで行って、センター試験を受けて全員が志望校に合格するのが僕の夢です」と言うとおり、文武両道を地で行く本郷高校が、センター試験の前に、まず花園で躍進することができるか。
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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