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○パナソニック(昨季2位)×NTTコミュニケーションズ(昨季9位)
○2018年度トップリーグ5・6位決定戦(12月15日、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場)
○両軍6トライずつの乱打戦の末、後半ロスタイムに劇的決着。
観客は冬晴れの下、寒さと緊張がないまぜになった震えを経験したかもしれない。
NTTコムのリードで迎えた、後半ロスタイム。会場は静まり返り、誰もがパナソニックのキッカーを見つめていた。
優勝4回を誇るパナソニックだが、今季絶好調とは言えなかった。リーグ戦は6勝1敗で、ホワイトカンファレンスを2位通過。
12月のトーナメント1回戦ではトヨタ自動車に敗れてしまい、前身の三洋電機時代を含めて12シーズンぶりに4強を逃した。
迎えた2回戦の相手はリコー。10月のリーグ戦で今季初黒星を喫し、地元・太田(群馬)での公式戦30戦無敗という記録を破られた。
しかしここは35-26で雪辱を果たし、NTTコムとの5・6位決定戦へ。それでもここで負ければ、2003、4年度の7位に次ぐ、チーム歴代ワースト2位の6位になる状況となった。
しかしFL布巻峻介キャプテンは、チームの準備について「トヨタ自動車に負けてから、モチベーションが難しいなか、みんなとても良い準備をしてくれました」と仲間を誇った。
一方のNTTコムは、パナソニックに勝利すればチーム過去最高位だった2016年度の5位に並ぶことに。
FL金正奎キャプテンは、2012年度から6シーズン勝ち星のないパナソニックに対し、チームとして戦うことを意識していたと語った。
「パナソニックさんは個々のタレントが揃っています。その選手を好き勝手させると良くないので、とにかく連係しながら強い個々を止め、アタックでは組織としてトライを取りにいくことを意識しました」
その27歳のFL金キャプテンは、早大の一学年後輩であるパナソニックのFL布巻キャプテンと、スクラム側面で対峙した。
他にも注目のマッチアップがあり、ともに24歳である東海大出身のSH湯本睦(NTTコム)と、大東大出身のSH小山大輝(パナソニック)は、関東リーグ戦から対戦してきた同学年のトップランナー。
注目のリザーブ選手では、東福岡高からトップリーグに“飛び級”で挑戦している19歳の福井翔大がメンバー入り。
この日は後半21分に途中出場し、今季4試合目(カップ戦2試合を含む)の出場を果たした。
序盤はパナソニックのロビー・ディーンズ監督が「素晴らしいスタート」と振り返る展開。
前半5分にCTB松田力也のペナルティゴール(PG)成功で3点先制。
パナソニックはディフェンスではブレイクダウンで圧力をかけ、アタックではオフロードパスも活用しながら猛攻。
前半14分にはSH小山がラックサイドに潜ってトライ。10点をリードとした。
しかし以降はNTTコムがハーフタイムをまたいで5連続トライ。
「簡単にボールを渡し、ターンオーバーからトライを取れられることを繰り返してしまいました」(パナソニック・ディーンズ監督)
前半26分にはSO小倉順平で相手を抜き去りトライ。PGを加えた同33分には、SH湯本がキックチャージから独走。前半ロスタイムにはWTB石井魁が左隅を切り取った。
さらに後半5分、FL鶴谷昌隆が、ゴール前の接点勝負に勝利してスコア。同8分にはCTBシェーン・ゲイツが相手ランナーからボールを奪取し、無人だった敵陣を一気に切り返した。
後半9分の時点で、NTTコムのリードは実に26点(36-10)。
しかし今度はパナソニックが逆襲。なんと5連続トライを逆に返した。
後半の猛反撃のキーマンとして、パナソニックのディーンズ監督は、リザーブに入れていたSH田中史朗の存在を挙げた。
「彼のような経験があって判断力のある選手が、相手が疲れた後半に入ってくるのは非常に効果的だと思います」
キックを止めて徹底的にボールを保持するようになったパナソニックは、自陣から怒濤の連続攻撃。
「後半で相手も疲れていたので、空いているところにボールを運ぶだけでした。特別なことはしていないです」(パナソニック・SH田中)
後半15分にLOサム・ワイクス、同18分にベン・ガンター。同24、30分には運動量豊富なFLマット・トッドが連続トライ。
後半32分にはNO8ジャック・コーネルセンが抜け出してついに逆転。CTB松田のゴール成功で5点リード(41-36)とした。
しかしドラマはここからだった。
失トライ直後のキックオフボールを確保したNTTコムは、相手の反則もあって敵陣へ。
後半37分、左ゴール前スクラムのチャンスを得ると、指揮官のロブ・ペニーHC(ヘッドコーチ)が「美しいトライ」と表現したサインプレーを披露。ルーキーのWTB石井勇輝が殊勲の同点トライ。
SO小倉が正面のゴールを成功させ、試合時間残り2分で、2点リード(43-41)を得た。
NTTコムは直後のキックオフボールも確保。ここでセオリー通り、フォワード・ユニットでキャリーを続けながら、フルタイムのホーンを待つ作戦に。
しかし自陣左で、痛恨のノット・リリース・ザ・ボール。
するとパナソニックはショットを選択。CTB松田の右足に賭けた。
この選択についてディーンズ監督は「前半、中盤、後半でモールも組みましたが、そこで我々のモールとレフリーの判断が合っていないところがありました。あそこで狙うことは間違いではなかったと思います」と振り返った。
この日のパナソニックはレフリングとの相違に苦しんだ。ゴール前ラインアウトからのモールを選択せず、自分たちで勝負を決められるPGを選択した。
決まればパナソニック勝利――。会場は無人のように静まり返った。
そして放たれた約35メートルのPGは、なんとポストを直撃。ボールはポスト左にこぼれ落ち、これを捕球したNTTコムのSO小倉が蹴り出し、劇的なノーサイド。
最終スコアは43-41。NTTコムが6季ぶりにパナソニック戦に勝利した。
ドラマチックな試合で、敗者の側に回ったパナソニックのディーンズ監督は「意味付けの難しい試合だったにも関わらず、両チームの選手が素晴らしい試合を見せてくれました」と語った。
「ゲームの入りは素晴らしいスタートを切れました。しかし中盤で簡単にボールを渡し、ターンオーバーからトライを取られることを繰り返してしまいました。ただ終盤はスイッチを入れて良いラグビーをお見せすることができたと思います」と振り返った。
一方、選手・スタッフには涙もあったNTTコム。指揮官のペニーHCは「私たちはここ数年で成長を遂げてきたチームです」と胸を張った。
「だからこそ、今日の良いパフォーマンスができたと思います。それが報われて、パナソニックという素晴らしいチームに勝利することができました。後半にプレッシャーが掛かっている場面で、セットピースから美しいトライがありました。そこがとても良い結果につながったと思います」と力を込めた。
試合の結果、2018年度の最終順位はNTTコムが5位。パナソニックが6位となった。同日同時刻にキックオフされていた優勝決定戦、神戸製鋼×サントリーに劣らぬ、白熱の好勝負となった。
【パナソニック ワイルドナイツ】(FW)①稲垣啓太②坂手淳史③平野翔平④サム・ワイクス⑤ヒーナンダニエル⑥布巻峻介(主将)⑦マット・トッド⑧ジャック・コーネルセン(BK)⑨小山大輝⑩笹倉康誉⑪福岡堅樹⑫松田力也⑬ディグビ・イオアネ⑭百武優雅⑮森谷圭介(Re.)⑯アッシュ・ディクソン⑰クレイグ・ミラー⑱ヴァルアサエリ愛⑲ベン・ガンター⑳福井翔大?田中史朗?戸室達貴?権裕人
【NTTコミュニケーションズシャイニングアークス】(FW)①庵奥翔太②三浦嶺③レイルアマーフィー④中島進護⑤ロスアイザック⑥鶴谷昌隆⑦金正奎(主将)⑧アマナキ・レレイ・マフィ(BK)⑨湯本睦⑩小倉順平⑪石井魁⑫ルテル・ラウララ⑬シェーン・ゲイツ⑭羽野一志⑮ブラッキン・カラウリアヘンリー(Re.)⑯白隆尚⑰上田竜太郎⑱平井将太郎⑲ロバート・クルーガー⑳山下弘資(21)鶴田諒(22)石橋拓也(23)石井勇輝
【レフリー】河野哲彦(日本協会A1)【アシスタントレフリー】木村陽介(日本協会A2)/田崎富(関東協会)/大塚聖(関東協会)【TMO】新野好之
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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