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静寂が闇夜を包む。
延長5分、楕円球は放物線を描いてゴールポストの上をゆっくり通過する。ゴールドのジャージーを着た選手は歓喜に沸き、サックスブルーのジャージーの選手たちは膝を地面につけた。
12月8日(土)、東京・秩父宮ラグビー場でトップリーグの総合順位決定トーナメント(日本選手権を兼ねる)の準決勝、3連覇を狙うサントリーサンゴリアスと初優勝を目指すヤマハ発動機ジュビロが激突した。
FW(フォワード)のセットプレーに強みがあり、BK(バックス)に突破力のある3人の外国人選手を並べたヤマハ発動機。これに対して、サントリーのこの試合のテーマは、「フィジカルバトルに負けない」だった。
先制したのはサントリー。2分、自陣から展開してルーキーのWTB(ウィング)尾崎晟也が左ライン際を快走し、最後はステップで魅せてトライを挙げて7-0。
だが、ヤマハ発動機も負けていない。13分に得意のモールからHO(フッカー)日野剛志がトライを挙げると、18分にもゴール前の近場をFWで攻めて、最後はLO(ロック)大戸裕也が飛び込んで7-12とする。
23分、サントリーのSO(スタンドオフ)マット・ギタウがPG(ペナルティゴール)を決めて10-12と2点差にするが、ヤマハ発動機はFB(フルバック)五郎丸歩がPGを沈める。
さらに37分にはFL(フランカー)クワッガ・スミスが、相手のキックをチャージし、そのままトライ、ゴールも決まって10-22と大きくリードする。
サントリーが前半ロスタイムに、PGを決めて13-22となったところでハーフタイムを迎えた。
後半、サントリーはディフェンスをしっかり修正して臨み、接点のファイトでも互角に戦い相手に得点を与えない。
そして、7分、30分、FWとBK一体となったサントリーらしいアタックからWTB尾崎がハットトリックとなるトライを重ねて、25-22とついに逆転に成功する。
3点差追うヤマハ発動機も粘り強くアタックを続けて、40分、FB五郎丸が25-25と同点になる30mほどのPGを確実に決めた後にタイムアップ。トップリーグがプレーオフ制度になってから初めての延長戦に突入した。
延長戦はトライでも、PGでも得点した方が勝つ、いわゆる「サドンデス方式」で行われた。トスで勝ったのはサントリーだった。サントリーは再び、ディフェンスで集中力を見せ続けた。
5分、ヤマハ発動機の選手が蹴ったハイパントをFB松島幸太朗がカウンターアタックを仕掛けてチャンスを作ると、相手選手がペナルティ。
サントリーは迷わずPGを選択、42mほどの距離をSOギタウが左足で落ち着いて決めて28-25で勝利し、ノーサイドを迎えた。
サントリーはチャンスにしっかりトライを挙げる嗅覚と、後半以降、相手を3点に抑えたディフェンスが光った。
ルーキーながら大舞台でハットトリックを達成したWTB尾崎はこう試合を振り返った。
「すごく嬉しいです。トップリーグの前半戦は、自分自身、いいパフォーマンスが出来なくて、日本代表にも選ばれなくてすごく悔しい気持ちは自分の中にもありました」。
「そこで腐るのではなく、自分に足りないものはなにかをしっかりと見つめて、だんだん調子が上がってきた。最後、やっぱりチームが一つになって、我慢強くディフェンスをして逆転することができました」。
また、ディフェンスについては、LO真壁伸弥は「一人ひとり、役割をやることがしっかりわかっているのと、ペナルティしないという決めごとがしっかりできている」。
「モールは1回取れましたが、あとは(モールディフェンスで)プライドを見せられたと思います」と胸を張った。
また、秋の日本代表遠征でも活躍したFL西川征克は「我慢することにフォーカスして、ミスしない、反則しないことに拘っているところが負けない、最後勝つ要因になった」とベテランらしく冷静に振り返った。
惜敗を喫し、少し目を赤くしていたヤマハ発動機の清宮克幸監督は、まず「両チーム持ち味を出した準決勝にふさわしい試合だったんじゃないか」と感想を述べた。
その後、「勝敗を分けたものはいくつかありますけど、(後半)完全に崩しきったところで最後にノックオンしてしまった、ゴール前のシーンだったかなと」。
「取り組んだことが、しっかり形に表れて、あれがトライになっていればというシーンだった。最後、後半、残り10分。そして、延長のサドンデス。あの状態でのサントリーのディフェンスの勇気、ディシプリンは本当に素晴らしかった」と反省しつつ、古巣を称えた。
また、初の延長戦突入という試合だったが、後半10分、15分くらいには想定していたと言う。
「(延長戦のために)五郎丸を最後まで使いました。本来であれば後半10分くらいに、(五郎丸を)交替する予定でしたけど、(延長)サドンデスを意識していました」(清宮監督)。
NO8(ナンバーエイト)堀江恭佑キャプテンは「今週、1週間本当にいい準備できて、今日も僕はベンチでみていて、前半もゴール前行ってしっかりスコアできていて、すごく自分たちのアタックに自信もってやれていたと思います」。
「最後の最後まで勝利を目指して戦っていて、チーム全員を誇りに思う」とチームメイトをねぎらった。
また、「取り切れなかったところや、スクラムをこうしたら、といったことがもちろんありますが、次の試合があるので、この負けを自分たちのまだ成長できる部分があると、しっかり反省して来週、この秩父宮で準備して戦いたい」と3位決定戦に向けて前を向いた。
FB五郎丸は「ラグビー人生で(延長)初めてでした。あとはPK(ペナルティ合戦)だけですね。随所にヤマハらしさを出せたが、サントリーさんの方が一枚上手でした」。
「FWがしっかり戦えるような場所を作るのが僕の仕事なので、80分間通していい流れを作れました。(同点のPGは)緊張していませんでした。寝起きでも入ります(笑)」と振り返った。
また「もう一度、(延長戦でPGの)チャンスを待っていたが、ギタウは世界で戦ってきた選手なのでさすがだなと思いました」。
「(決勝は神戸製鋼のダン・)カーターとギタウの対決なので、日本のラグビーファンにはたまらない試合になると思いますが、我々も前座にならないように今年のヤマハの集大成を見せたい」と意気込んだ。
準々決勝に続いて、接戦を制したサントリーの沢木敬介監督は、「非常にレベルの高い試合で、ヤマハさんというエナジーのあるチームに対して、最後しっかりと我慢できたところ、後半、特にリザーブメンバーを含め、自分の役割を遂行できたことは、次にむけて自信につながるゲームだった」としみじみと語った。
続けて、「次のゲームは『3連覇を取る』というシンプルでクリアなターゲットがあるので、今日の試合はもう忘れて、来週からハングリーにチャンピオンにむけて準備していきます」と決勝を見据えた。
初の延長戦だったが、沢木監督は頭の中にあったという。「サドンデスで決着がつかなかった場合は(キックで蹴り合う)コンバージョン。その時のシミュレーションまでは想定していました。試合が終わった時点でグランドに立っている5人のキックコンテストで行う。スタッフ陣は想定していました」。
SH(スクラムハーフ)流大キャプテンは「ヤマハさんの素晴らしいプレーでタフなゲームになりました。最後、勝ち切れたことはチームが強くなった証拠だと思います」。
「個人的には、こういう展開を引き出してしまったので、自分の多くのミスをしていますし、判断やスキルでも全然納得いっていない部分が多くあります。決勝にむけてもう一つ上げていきたい」と勝利に喜びつつも自身のプレーについて反省していた。
12月15日、東京・秩父宮ラグビー場で、ヤマハ発動機は3位をかけてトヨタ自動車ヴェルブリッツと対戦する。そして3連覇を目指すサントリーは、今シーズン無敗の神戸製鋼コベルコスティーラーズと激突する。
サントリーの沢木監督は決勝戦に向けて「神戸製鋼のラグビーは今年からボールを動かすようになっています。いい10番(カーター)がいて、いい外国人選手がいる。昨年より戦力もチームも強くなっています」。
「ただ、サントリーとしては、相手の分析もしますが、もう一度自分たちのスタイル、自分たちのやり方を振り返り、今年1年間しっかり取り組んできたサントリーのラグビーをどれだけだせるか、しっかりとチャレンジしていきたい」と語った。
また、流キャプテンも「決勝の相手は神戸製鋼ですが、リーグ戦で1回負けている相手です。チャレンジャーとしていい準備をして、最後勝利して終わりたい」と意気込んだ。
来年にワールドカップイヤーを迎える2018年、平成最後の王者は3連覇を狙うサントリーか、2003年以来の優勝となる神戸製鋼か――。いよいよ、この週末、トップリーグのファイナルを迎える。
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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