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予想に違わぬ激闘だった。2018年12月9日、第56回日本選手権大会とトップリーグ2018-2019総合順位決定トーナメントを兼ねた準決勝2試合は、目撃した人々の記憶に長く刻まれるだろう。
準決勝は時間をずらして行われた。午後2時にキックオフされたのは東大阪市花園ラグビー場での神戸製鋼コベルコスティーラーズ対トヨタ自動車ヴェルブリッツだ。今季負けなしで走ってきた神戸製鋼が、総当たりのレッドカンファレンスで唯一勝てなかった(引き分けた)相手だ。前半7分、トヨタ自動車がCTBクリントン・スワートのPGで先制。11分、神戸製鋼は200cmのFLグラント・ハッティングがトライを返し、5-3と逆転する。25分には、WTBアンダーソン フレイザーをサポートしたSOダン・カーターがトライして、12-3と神戸製鋼がリードを広げた。世界最優秀選手3度受賞のカーターは、この日も格違いの状況判断、正確なスキルで神戸製鋼の攻撃を操った。
今季の神戸製鋼は、タックラーと接近したところで短くパスをつなぎ、相手のタックルをまともに受けず、ボールを動かし続けるスタイルだ。トヨタ自動車のフィジカルの強みを出させないまま、カーターがPGを2本追加して、18-6と前半をリード。しかし後半に入るとトヨタ自動車も底力を見せる。スクラムからSOライオネル・クロニエがディフェンスを突破、FBジオ・アプロンのトライで、18-13の5点差とし、なおも攻める。神戸製鋼も切り返し、息詰まる攻防が続いた。
最後に決めたのは、やはりカーターだった。24-19の5点差で迎えた試合終了間際、トヨタ自動車がトライすれば同点の場面だ。神戸製鋼は残り時間をうまく使いながら冷静にボールを運んだ。FW陣が丁寧にボールをリサイクルし、ハーフウェイライン付近から満を持しての左オープン攻撃、交代出場のヘイデン・パーカーが思い切って前に出ながら左にいたカーターにパス。カーターは右側に切れ込みながらディフェンスを突破し、背後からタックルを受けるも左足で左前方にキック。これを追ったアンダーソンがインゴールでボールを押さえた。相手に触れられないような軽やかなプレーを続けながら、ときに激しいコンタクトもいとわないカーターの真骨頂が出たトライだった。
試合後、勝った神戸製鋼のデイブ・ディロンヘッドコーチは、決勝戦への抱負を問われ、「ここまでやってきた神戸のラグビーをするだけ。観客を魅了するエンターテインメントのラグビーを届けたい」とコメントした。たしかに今季の神戸製鋼は攻撃的で見るものを楽しませる。ただし、カーターが目立つのは、彼にスペースを与えるために他の選手が体を張ってボールを運び、ディフェンスの人数を減らす動きをしているからだ。急速にチーム力を上げるトヨタ自動車からの勝利は、15年ぶりのトップリーグ制覇、18大会ぶりの日本選手権制覇の可能性を感じさせるものだった。
もう一試合は、午後4時、秩父宮ラグビー場でキックオフされた。王者サントリーサンゴリアスと、ヤマハ発動機ジュビロの一戦は、互いに持ち味を出し合い、「死闘」と呼びたくなるタフな攻防だった。キックオフなサントリーSOマット・ギタウが蹴り込む。これをキャッチしたヤマハ発動機は、キックを使わず、約1分20秒攻め続けた。挑戦者として攻める姿勢を明確に示したのだ。しかし、ヤマハ発動機のFLクワッガ・スミスがタッチラインを割った直後、サントリーは素早くラインアウトにボールを入れると、ギタウがディフェンスを突破し、WTB尾崎晟也が巧みなステップワークで先制トライを奪う。息つく暇もないスピーディーな攻防はこの後も続いた。
13分、ヤマハ発動機はゴール前のラインアウトからモールを押し込んでHO日野剛志がトライ。得意の形でトライしたヤマハ発動機は、18分にも、ラインアウトからWTBシオネ・トゥイプロトゥがタックルを振り切って抜け出し、最後は日本代表LO大戸裕矢がトライし、7-12と逆転に成功する。前半はヤマハ発動機がボールをキープすることで主導権を握ったが、後半に入るとサントリーもボールをキープして攻める時間を多くし、流を変えた。
後半7分、サントリーは相手ゴール前のラインアウトから左オープンに展開し、ギタウのパスを受けた尾崎がトライして、20-22とする。この直後、ヤマハ発動機がトライチャンスを迎えるがゴール直前でCTBタヒトゥアがボールをこぼしてチャンスを逸した。ここでトライが決まれば勝てたかもしれないが、何度もあくなき突進を続けた選手を一つのミスでは責められないだろう。
拮抗した展開が続いた後半30分、サントリーは、ヤマハ発動機のゴールに迫ると、ギタウ、CTB梶村祐介、FLツイ ヘンドリック、尾崎とパスをつなぎ、最後は4人のディフェンダーに囲まれながら尾崎がトライし、25-22と逆転した。疲れの見えるヤマハ発動機だが、ここからが粘り強かった。34分にはサントリーボールのスクラムを猛プッシュしてターンオーバー。このあと、30フェーズ以上の連続攻撃を仕掛けた。しかし、疲れもあってテンポは遅く、一糸乱れぬディフェンスを続けるサントリーを前に22mライン内へ侵入できない。ところが、ボール争奪戦でサントリーのツイが相手ボールを奪おうとした際、立っていなかったという紙一重の反則。ヤマハ発動機のFB五郎丸歩がPGを決め、25-25の同点で80分が終了した。
今大会のトーナメントは、サドンデスの延長戦となる。なんらかのスコアがあればその時点で試合終了である。キックオフ直後からボールをつないで攻め続けたヤマハ発動機だが、少しずつ前進して迎えた3分、SO清原祥が、サントリー陣22m付近にボールを高く蹴り上げる。しかし、ボールはやや長かった。余裕を持ってボールをキャッチしたサントリーFB松島幸太朗がカウンターアタック。キレのあるステップを疲労のたまったヤマハのディフェンダーを次々にかわして相手陣へ。松島は相手陣に入るとPR垣永真之介にパス。ここにヤマハ発動機のFLクワッガ・スミスがタックルし、ボールを奪いに行ったが、タックラーをいったん離す義務を怠ったとしてペナルティー。40m以上のPGをギタウが狙うことになり、見事に成功、死闘の幕が閉じた。互いに攻め合い、プレーの途切れることの少ない好試合だった。
「レベルの高い良いゲームだったと思います。きょうのキーワードは我慢、それを選手たちが体現してくれました」。勝ったサントリーの沢木敬介監督の目は、潤んでいたように見えた。「神戸にはダン・カーターがいますが、サントリーにはマット・ギタウがいます」。クールに見えてサービス精神旺盛な指揮官は決勝戦へ期待感膨らむコメントをした。ニュージーランド代表112キャップのカーターと、オーストラリア代表103キャップのギタウ。2人のプレーメイカー対決は決勝戦最大の見どころとなる。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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