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開幕から今季のトップリーグを占う「ビッグゲーム」は、最後の最後までどちらに勝負がころぶかわからない激闘となった。
9月1日(土)に行われた開幕節、愛知・豊田スタジアムでは、3連覇を狙うサントリーサンゴリアスと、昨季のトップ4の一角、フィジカルラグビーのトヨタ自動車ヴェルブリッツ(ともにレッドカンファレンス)がいきなり対戦した。
昨季の同カードは32-31、そして夏合宿もサントリーが31-26で勝利しているが、昨季からトヨタ自動車には、ラグビーワールドカップ優勝監督であるジェイク・ホワイト氏が就任し、力をつけてきているため、クロスゲームが予想された。
両チームの23人のベンチ入りメンバーを見ると、互いに大学卒業したばかりのルーキーが9人も顔を揃えた。サントリーは帝京大学の9連覇に貢献したPR(プロップ)堀越康介、WTB(ウィング)尾崎晟也、明治大学出身のCTB(センター)梶村祐介が先発。
トヨタ自動車は、東海大学出身のPR三浦昌悟、天理大学出身のPR木津悠輔、帝京大学出身のNO8(ナンバーエイト)吉田杏、WTB岡田優輝がスターターに名を連ね、控えには同じく帝京大学出身のPR垣本竜哉、明治大学出身のFL(フランカー)/LO(ロック)古川満が入った。
また、サントリーでは昨季はリーグ規定で出場できなかったSO(スタンドオフ)田村煕と、トヨタ自動車ではSH(スクラムハーフ)茂野海人の2人が2年ぶりのトップリーグの出場となった。
ラグビーワールドカップを来年に控えて、会場の1つである豊田スタジアムにはトップリーグ記録となる3万1322人が来場し、熱戦に視線を送った。なお、トップリーグで観客が3万人を超えたのは初めてのことだという。
前半の序盤は、攻めるサントリー、守りで粘るトヨタ自動車という展開になる。しかし、第1試合で降った雨や暑さの影響やトヨタ自動車のプレッシャーもあり、サントリーはミスが目立ち、なかなかトライを挙げることができない。
試合が動いたのは22分、サントリーは新人CTB梶村が激しく前に出てゲインすると、最後は「狙いました!」という同じく新人PR堀越が、ポール下にボールを押さえてトライ。ゴールも決まって7-0で先制に成功する。
だが、ホームの大声援を背に受けたトヨタ自動車もすぐに反撃。25分、ボールを継続して、最後は日本代表の第2次ワールドカップトレーニングスコッド入りしたWTBヘンリー ジェイミーが飛び込んでトライ。
さらに28分、スクラムを起点にサインプレーからFB(フルバック)ジオ・アプロンが抜け出し、最後は新人WTB岡田がトライを挙げて、トヨタ自動車が7-12とリードした。
サントリーも31分、直前にSOマット・ギタウに替わって途中出場したSO田村がPG(ペナルティゴール)を決めて、10-12で前半を折り返した。
後半も先手を取ったのはトヨタ自動車だった。3分、サントリーがボールを展開する中でミスしてこぼれたボールを、CTBイェーツ スティーブンが拾って、最後は再び、WTBヘンリーが左隅にトライを挙げて10-17とリードを広げる。
さらに、危険なタックルによりサントリーのNO8ショーン・マクマーンがシンビン(10分間の途中退場)となり、数的有利となったトヨタ自動車はSOライオネル・クロニエのPGを挟み、18分、キャプテンFL姫野和樹のジャッカルを起点に素早く右に展開。
最後はCTBイェーツが右隅に飛び込んでトライ、10-25と大きくリードした。しかし、昨季も18点差をひっくり返して勝利している王者は落ち着いていた。
「最後20分、走り切る自信はありましたし、ボールを継続することを確認しました。後半入った時点で、トヨタの選手で足をつっている選手が何人かいたので、最後、クロスゲームを勝ち切れる。我慢し続けようという話をしました」(サントリー主将SH流大)。
流キャプテンの言葉の通り、22分、サントリーはSO田村が落ち着いてPGを決め、13-25と12点差に詰めると、31分にはボールを継続して、最後はSO田村がランで切れ込み、インゴールにボールを運んでトライ。ゴールも自身で決めて20-25と5点差に迫る。
その後もサントリーが敵陣奧深くで、攻め続ける時間が続くが、トヨタ自動車もなんとか粘って得点を許さない。
38分、トヨタ自動車は新人NO8吉田がジャッカルを決めて、ハーフウェイライン付近でラインアウトのチャンスを得た。このボールを2分間ボールをキープしてボールを蹴り出せば、トヨタ自動車の勝利かと思われた……。
しかし、このラインアウトが乱れて、再びサントリーボールとなり、敵陣でボールを継続。44分にはトヨタ自動車のFL姫野が、チームとして反則の繰り返しにより、シンビンに。
数的有利になったサントリーはスクラムを選択、FLツイ ヘンドリックがトライしたかに思われたが、途中出場のSHマット・ルーカスからボールをもらった際、スローフォワードの判定となってノートライ。しかし、アドバンテージでサントリーのPK。
49分、再びスクラムを選択したサントリーは、そのまま押し込んだ際に、トヨタ自動車がペナルティ。反則がなかったらトライになっていたということでペナルティトライの判定となり7点が加わり、サントリーが27-25と大逆転で開幕戦を制した。
マン・オブ・ザ・マッチ(MOM)はサントリーのルーキーCTB梶村が選ばれた。3連覇に向けて開幕白星スタートを切ったサントリーには勝ち点4が加わり、惜敗したトヨタ自動車も7点差以内の敗戦ということで勝ち点1を得た。
敗れたトヨタ自動車のホワイト監督は「非常に残念に思います。トヨタが4トライ、サントリーが3トライ、本来ならトヨタが勝つべき試合でした。我々のモットーは『ノー・エクスキューズ』なので、言い訳はいっさいありません」。
「本当に勝つチャンスがあった。ただ最後の3分のところで、ラインアウトのボール失ったのは大きな痛手でした。誰のせいでもないと思います」と肩を落とした。
ただ、6人の先発がデビューしたことに関して、ホワイト監督は「6人がルーキーということで、非常に若いチームで、この試合戦いました。(21歳の)FLシュネル・シンも初めてトップリーグ出場で、(主将)姫野も2年目ということで、このチームはトップリーグの中で平均年齢が1番若いチームだと思います」。
「王者に対して我々は敗れましたが、またサントリーと戦うことが必ずある。ルーキーたちはタフなレッスンとなり、今回の試合で学んだと思います」と先を見据えた。
悔し涙を見せながら、答えていた姫野主将は「昨季(の開幕戦)とまったく同じような形で、逆転を許してしまった。悔しいですけど、最後の最後でイエローカード出されてしまって、チームを窮地に立たせてしまった」。
「でも、最後はチームのみんながすごく誇らしくて、僕がいなくてもあれだけ頑張ってくれて、僕の分をカバーしてくれてすごく誇りに思いました。これから、この負けを忘れることなくトップリーグを戦って、ファイナルでサントリーと当たれるようにチームとしてやっていきたい」と力強く語った。
サントリーの沢木敬介監督は「スキルレベルは低いレベルでしたが、展開的にはおもしろい内容でした。1試合1試合、難しくなることわかっていたのですが、どこかに隙があって、自分たちがやろうとしているレベルで、なかなかプレーできなかった」。
「まだまだ、丁寧さなどにこだわりながらやっていかないといけないと勉強になりました。最後にスクラムでいいプレッシャーかけられた。(スクラム担当コーチの)青木(佑輔)は相当喜んでいました」と試合を振り返った。
先発した新人3人の評価に関しては「良いから使っているだけで、競争に勝って、(ポジションを)獲得したからで、新人だからではなくて、いいパフォーマンスをしたのでゲームに出ています。間違いなく(3人は)日本代表にならないといけない選手たちです」。
「(でも)まだまだですね。堀越はスクラムで経験を積めばもっとよくなりますし、(MOMを受賞した)梶村ももっと周りの選手とのコネクションだったり、コミュニケーションだったり、1試合1試合、高いレベルで試合する中で勉強していくことだと思います」と評価しつつも、苦言を呈することを忘れていなかった。
流主将は「前半、22m内に進入する回数が多かったが、そこで取りきれなかったことが反省というか、僕自身のコトンロールできなかったし、課題です」。
「自分たちの目指すレベルじゃないので、そこを改善すること。前半途中も後半途中ももっとチームになって、きつい選択をしないと、こういう展開になるとすごく勉強になりました」と反省の弁を口にした。
しかし、最後の20分で15点差を逆転し、勝利したことに関して流主将は「最後はしっかりまとまって、こっちが動けていたのは、日頃の練習の成果だと思いますので、それを自信にしたい」。
「毎週、僕らだけをターゲットにしてくる相手ばかりとの対戦だと思うので、次節はNTTコミュニケーションズ戦ですが、コンディション含めて、いい準備をして勝ちたい」と胸を張った。
16年目のトップリーグ開幕節の注目カードは、「アタッキングラグビー」を標榜する王者サントリーが、15点差になってもあきらめることなく攻めの姿勢を続けて、逆転勝利を収めた。
一方、フィジカルラグビーが持ち味のトヨタ自動車も若いメンバーが多く、可能性を十分に感じさせる試合となった。
第2節、連覇を狙うサントリーは9月7日(金)、東京・秩父宮ラグビー場でNTTコミュニケーションズシャイニングアークスと対戦する。
一方、連敗は何としても避けたいトヨタ自動車は8日(土)、秩父宮ラグビー場で、同じく開幕節で惜敗したNECグリーンロケッツと相対する。
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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