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日本代表の6月のテストマッチシリーズは、2勝1敗の結果だった。北半球最高峰の選手権シックスネーションズの一角であるイタリアと1勝1敗、ここ数年僅差勝負を繰り広げてきたジョージアに完封勝利という戦いは、来年のラグビーワールドカップ(RWC)に向かって十分な手ごたえをつかめるものだった。フィジカル面とセットプレーに強みを持つ両国との対戦は、この部分での日本代表の現在地を知る戦いでもあったが、スクラムは100%近い成功率で、ラインアウトも3試合を通じて90%以上の獲得率。コンタクトプレーでも見劣りせず、現時点での強化が順調に進んでいることを示していた。
イタリア代表と1勝1敗で迎えた、6月23日(土)のジョージア戦は、雨の降りしきる豊田スタジアム(愛知県豊田市)にて行われた。この試合のテーマは、ディフェンスでプレッシャーをかけ続けることだった。雨だったこともあり、パワフルなジョージアを後ろに走らせるキックを多用し、ボールを持って前進しようとするジョージアの選手たちに素早く前に出るタックルを浴びせ続けた。
前半は、SO田村優のPGが決まらずにスコアが伸びなかったが、後半は連続攻撃を仕掛け、8分、LO真壁伸弥の交代で入ったヴィンピー・ファンデルヴァルトがポスト右にトライして16-0とリードを広げた。続く12分、ジョージアがラインアウトから攻めようとしたところにプレッシャーをかけてミスを誘い、田村のロングパスを受けたWTB レメキ ロマノ ラヴァが小刻みなステップでタックラーをかわしながら右コーナーにトライし、23-0と突き放す。地元出身の姫野和樹が交代出場でトライを追加すると、スタンドには歓喜の笑顔がはじけた。
「つまらないラグビーだったかもしれないけど、これが勝つラグビー。日本はこういう天候は苦手です。でも、勝った。ディフェンシブな試合だったけど、凄く自信になりました」。リーチ マイケルキャプテンは、ジョージア優位と思われた雨中戦を勝ち切ったことに胸を張った。この試合では、これまで出場機会に恵まれなかったLO真壁伸弥、FL布巻峻介、CTB立川理道、WTB山田章仁、FB野口竜司らが落ち着いたプレーでチームに安定感をもたらしていた。また、交代出場で初キャップを獲得したFL西川征克が激しく前に出るタックルなどで活躍したのも明るい材料だ。レギュラー争いが熾烈になることは、選手個々の緊張感を高め、レベルアップを促すだろう。
大分でのイタリアとの第1戦(6月9日)は、準備した攻撃がすべて上手くいく快勝。神戸での第2戦はイタリアが意地を見せたが、試合開始早々にLOアニセ サムエラがシンビン(10分間の一時退場)になる苦しい状況の中で接戦に持ち込み、終盤は点差を詰め、あわや逆転勝利というところまで持ちこめた。終盤に自陣で犯した反則は負けに直結したが、その痛みを感じたことも前向きにとらえられる。そして、過去の対戦で強力FWに苦しめられていたジョージアに快勝した。リーチキャプテンは次のようにコメントした。「サンウルブズで毎週激しいコンタクトプレーができて、一人一人の意識が上がりました」。スーパーラグビーに参戦するサンウルブズでのプレーが日本代表の実力を押し上げているのは明らかだ。6月の日本代表メンバーもほとんどが今季のサンウルブズでプレーしてきた選手である。ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの代表選手を多数擁するチームと戦うことで、イタリア、ジョージアにかつてのような強さを感じなくなっているのだ。
ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチは、ジョージア戦後の記者会見でチームの成長を喜び、選手の奮闘を称賛した。そして、チームを支えるマネージメントスタッフ、コーチングスタッフの働きぶりにも言及した。
「トライを取れるようになったのはトニー・ブラウン(アタックコーチ)の功績。無失点だったのはジョン・プラムツリー(ディフェンスコーチ)のおかげ。サイモン・ジョーンズ(ストレングス&コンディショニングコーチ)が選手に落とし込んだものが成果になってフィットして戦えた。選手たちはコーチ陣の提示したものを受け入れ、成長を加速させています。ドクター、フィジオら裏方のおかげでチームが成長していることもお伝えしたいと思います」
また、当日の朝、リーチを軸にゲームプランについて選手だけでミーティングが行われたようだが、これについてもジョセフHCは歓迎するコメントをしている。
「大人の男としてテストマッチで勝つには何をすべきかをお互いに確認し合った。コーチの手元を離れて、選手が意思統一をはかっているのは本当に特別なこと。このチームには、特別なものが生まれつつあります」
3試合を通じて、ミスタックルは減り、ディフェンスに関しては着実に修正された。トニー・ブラウンコーチによる多彩なアタックは相手チームの分析を難しくするだろう。各ポジションでレベルの変わらない選手が複数出てきているのも前向きな材料だ。なにより、選手自身が勝つために何をすべきか理解しているのが頼もしい。2015年のRWC以降の強化は、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ体制の始動が2016年秋になり、半年遅れたままで進んできたが、今年に入って加速した。RWC2019の開幕まで一年あまり。まだ一つ一つのプレーの精度は低く、無駄な反則、ミスもある。ここからチーム力をさらに伸ばし、悲願の決勝トーナメント(ベスト8)進出を成し遂げたい。
サンウルブズは3試合を残しており、日本代表資格のない選手、プレー時間の少ない日本代表選手が軸になりそうだが、ここで選手層を厚くしたい。11月には世界最強のニュージーランド、そしてエディー・ジョーンズヘッドコーチ率いるイングランドとの戦いが待っている。RWC2019の優勝候補の強さを感じることができる貴重な機会だ。勝つための周到な準備をし、得るものの多い試合にしてほしい。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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