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待ちに待った鈴鹿8耐が今年もやってくる!
オートバイ真夏の祭典「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(通称、鈴鹿8耐)が今年もやってきます!年間シリーズであるFIM世界耐久選手権(以下、FIM EWC)を放送する「J SPORTS」はもちろん鈴鹿8耐も生中継。見どころが満載の鈴鹿8耐をいくつかの話題に絞ってプレビューしていきましょう。第1弾は「黒船、ドゥカティ」の参戦です。
イタリアのオートバイメーカー「ドゥカティ」の参戦は今年の国内オートバイレースに最も大きな話題を提供しています。ロードレース世界選手権MotoGP(グランプリ)でも、スーパーバイク世界選手権でも近年凄まじい強さを発揮している「ドゥカティ」はまさに今ホットなブランドと言えるでしょう。その勢いは世界選手権に留まらず、アジアや各国の国内選手権をも侵食中で、今年から日本の「MFJ全日本ロードレース選手権」でも最高峰JSB1000クラスにドゥカティが本格参戦を始めました。
これまで国内メーカーが主体だった全日本ロードレースにドゥカティのファクトリーマシン(ワークスマシン)が参戦。シーズン開幕前はその参戦体制やポテンシャルに懐疑的な意見も見られたのですが、シーズンが始まるや関係者やファンの印象は一変。最強体制を敷くヤマハワークスの「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」の2台と強烈な優勝争いを展開しているのです。
昨年までスーパーバイク世界選手権でアルバロ・バウティスタがライディングしていたチャンピオンマシン「ドゥカティ・パニガーレV4R」を日本に持ち込んだのは加賀山就臣監督率いる「Ducati Team KAGAYAMA」。まさに黒船襲来と言える衝撃でした。
「Team KAGAYAMA」はこれまでスズキのプライベーターとして鈴鹿8耐や全日本を盛り上げてきたチームです。500cc世界チャンピオンのレジェンド、ケビン・シュワンツの衝撃的なカムバックやMoto2ライダーの起用など、常にバイクレース業界に話題を提供してきたことでも知られています。
昨年まではヨシムラスズキのスズキGSX−R1000Rを全日本で走らせるチーム「YOSHIMURA SUZUKI RIDE WIN」として参戦していましたし、加賀山監督も長年スズキで活躍したライダーでしたから、ドゥカティへのスイッチは驚きしかありませんでした。
まず、門外不出と言われたドゥカティのファクトリーマシンを手に入れたことが凄いことです。そのウルトラCが実現できた背景には加賀山監督のヨーロッパにおける広い交友関係がありました。スズキのライダーとしてスーパーバイク世界選手権に参戦していたのが2000年代で、2005年にはシリーズランキング5位を獲得。まさに世界で認められる実力を示していたのです。
当時のドゥカティはまさにスズキのライバルメーカーであり、スーパーバイク世界選手権ではカリスマ的人気を誇るブランドでした。今でこそMotoGP(グランプリ)でも最強メーカーに君臨しているドゥカティですが、当時のグランプリでは日本のメーカーの方が強く、どちらかというと市販車ベースのスーパーバイク世界選手権で存在感を示していたのです。
ドゥカティが後にMotoGPで躍進する牽引役となったのがスポーティングディレクターのパオロ・チャバッティ。スーパーバイク世界選手権の時代はライバルメーカーのライダーだった加賀山監督ですが、当時からチャバッティさんにとても可愛がってもらったそうです。その信頼関係から「Team KAGAYAMA」にドゥカティがファクトリーマシンを託すという奇跡的なことが現実になったわけです。
今季、全日本JSB1000のライダーに起用されたのは水野涼。J−GP3、J−GP2でチャンピオンを獲得し、ホンダ期待の若手としてJSB1000にデビュー。2021年、22年と英国スーパーバイク選手権を闘い、昨年JSB1000に復帰しましたが、最終戦・鈴鹿で見事に2連勝。今後もホンダでレースを続けると誰もが思っていた水野涼の電撃移籍もまた衝撃的なトピックスでした。
全日本の前半戦を見る限り、この起用はドンピシャで当たりと言えるでしょう。第2戦・もてぎでは全日本ロードレースJSB1000史上初となる外国車のポールポジションを達成。決勝レースではヤマハの2台に敗れたものの、圧倒的なデータ不足というハンデを背負う中で肉薄するレースをいきなり展開しているわけですから、水野涼の順応性の高さは凄まじいものがあります。ヤマハファクトリーに対抗できる唯一とも言えるパッケージが完成しました。
そして、いよいよ迎える鈴鹿8耐。水野涼に加えて、今季オーストラリア・スーパーバイク選手権で首位を走るジョシュ・ウォータース、そしてロードレースアジア選手権で首位のハフィス・シャーリーンというアジア・オセアニアのドゥカティライダー3人というラインナップが形成されました。これは実に手堅い3人と言えるでしょう。というのも鈴鹿8耐の経験があり、さらに「Team KAGAYAMA」のメンバーがよく知るライダーだからです。
鈴鹿8耐は3人のライダーがお互いにワガママを言いたい部分を抑えて、協力してこそ良い体制が生まれます。新参のライダーが来て合わせ込みに苦労するよりは信頼関係がすでに構築されているライダー同士が組む今年の体制はかなりポジティブと言えるでしょう。テストも順調そのものでした。
気になるのは信頼性ですが、今のところ全日本JSB1000で深刻なトラブルは発生しておらず、至って順調。ドゥカティ・パニガーレV4Rは海外チームや国内プライベーターによる耐久レース参戦歴がありましたが、それとファクトリーのバックアップ体制があるのでは大違い。そういう意味ではエビデンスがなく、燃料タンクも含めて耐久レース用のパーツを自作して使用するという未知数の部分はあるのですが、今のところウィークポイントを探す方が難しいくらいなのです。
しかも、速い!2回のテスト共に水野涼がトップタイムを獲得。「Ducati Team KAGAYAMA」はペースも速く、ホンダワークス「Team HRC with 日本郵便」、そして強烈な速さを近年見せる「YAMALUBE YART YAMAHA」と並ぶ3強を形成していると言えるでしょう。
過去にはドゥカティ1098Rが鈴鹿8耐で10位フィニッシュを果たした例もあり、これだけの戦闘力を見せつけられると、ひょっとしたら鈴鹿8耐で驚きのレースを展開してくれるのでは?という期待が膨らみます。今年の鈴鹿8耐は様々な局面でドゥカティの存在がクローズアップされてくるでしょう。常に目が離せない、史上最大級のチャレンジをする「Ducati Team KAGAYAMA」に大いに期待しましょう。
文:辻野ヒロシ
辻野 ヒロシ
1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。
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