人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

モーター スポーツ コラム 2023年11月15日

ついに決着。濃密で緊迫した“2023スーパーフォーミュラ鈴鹿決戦”の3日間

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
  • Line

新王者となった宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM'S)。

2日間合わせて4万3000人(第8戦:1万7500人、第9戦:2万5500人)を動員した2023全日本スーパーフォーミュラ選手権の最終大会『第22回JAF鈴鹿グランプリ』。今シーズンのドライバーズチャンピオン争いは、宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM'S)、リアム・ローソン(TEAM MUGEN)、野尻智紀(TEAM MUGEN)の3人に絞られた。

複数のドライバーが自力での逆転チャンピオン圏内にいる状態で最終大会を迎えるのは2020年以来。しかも、今回は土曜・日曜にそれぞれレースを行う2レース制フォーマットということで、逆転のチャンスは例年以上にある状況だった。

毎年、スーパーフォーミュラでは金曜日に記者会見「通称:フライデーミーティング」が開催され、チャンピオン候補者が出席する。この3人が今回登場したのだが、ポイント差も近いということもあり、会場は例年にないくらいの緊張感に包まれていた。

時には笑顔を見せ、冗談を言い合いながらも、3人とも共通して目は笑っていなかった。ここから、互いにプレッシャーを掛け合い、けん制し合うなど“チャンピオン争い”が始まっていた。

それもそのはず。野尻は国内トップフォーミュラ史上2人目となる個人総合3連覇がかかっており、宮田はスーパーフォーミュラチャンピオンという成績を足がかりに世界の舞台に羽ばたこうとしている。そして、ローソンはF1を経験して、ある意味F1レギュラーシート獲得へのアピールとして、今季の王座は必達目標。多くのファンや関係者が注目する中、濃密な“2023SF鈴鹿決戦”の幕が上がった。

【ローソンを襲った2つの不運】

リアム・ローソン(TEAM MUGEN)

自分たちでは思い描いているプランがあっても、その通りに進まないのがレースの難しいところ。互いにミスをしないようにとは思いつつも、不運に見舞われる“何か”が起こることがある。今回でいえば、ローソンがそうだった。

土曜日の第8戦。朝の予選で、三つ巴のチャンピオン争いの歯車が崩れ始めていった。予選Q1ではAグループでローソン、Bグループで宮田と野尻が順当にQ2へ進出。この中で誰がポールポジションを奪うのかに注目が集まった。

注目のQ2タイムアタックでは、TEAM MUGENの2台が区間タイムでリードしていたが、後方でアタックしていた佐藤蓮(TCS NAKAJIMA RACING)がデグナーカーブでコースオフ。すぐに赤旗が出されてセッション中断となった。

ここで野尻と宮田は別のフレッシュタイヤに交換したが、ローソンはアタックで使用したタイヤをそのまま装着した。通常は全大会で走行距離の少ないタイヤを1セット次大会用に持ち越すのだが、ローソンはもてぎでのスタート直後に起きたアクシデントの影響で、本来持ち越す予定だったタイヤを決勝で1セット余分に使わざるを得なかった。このツケが、勝負の大一番でまわってきてしまった。

再開後は野尻がポール、宮田が2番手に入り、ローソンは7番手に終わった。このグリッド順も、午後の決勝レースに大きく影響した。

迎えた午後の第8戦決勝。ローソンはスタートで、ポジションをひとつ上げると、5周目の1コーナーで坪井翔(P.MU/CERUMO INGING)を抜いて5番手に浮上した。しかし、それとほぼ同タイミングで大きなアクシデントが130Rで発生。レースは赤旗中断となった。

大津弘樹(TCS NAKAJIMA RACING)と笹原右京(VANTELIN TEAM TOM’S)の2台が絡んだのだが、特に笹原はマシンが浮き上がってしまったことで、スポンジバリアを超え、防護フェンスにクラッシュ。モノコックから前側の部分が、デグナーカーブ側にある土手まで飛んでいった。

幸い、マシンが大破したことで衝撃が吸収され、笹原は脳震盪の診断を受けるも骨折等の外傷はなかった。ただ、これについては今後対策を考えなければいけない案件であることは間違いなく、詳しくは別の機会で触れたいと思う。

このアクシデントにより、防護フェンスが大きな損傷を受けた影響で、レースはそのまま終了。規定により、赤旗提示から2周前(3周終了時点)の順位が採用され、ローソンは6位でレースを終えた。

「もし予選で赤旗が出ていなければ、2番手には行けただろうし、決勝もペースは良かったから、表彰台争いは確実にできていた」とローソン。これでランキング首位の宮田との差が15ポイントに広がり、残り1戦での逆転がかなり難しい状況になった。

不運ではあるのだが、チャンピオンがかかっている大一番ということもあり、割り切れない気持ちがローソンの心を支配していた。

【流れが変わったようで変わらなかった最終戦予選Q2】

第9戦でPPを獲得したリアム・ローソン(TEAM MUGEN)

今シーズンの国内レースでは大きなアクシデントが続いていることもあり、第8戦終了後のパドックは異様な空気に包まれていた。それでも、第9戦を予定通り開催すべく、夜通しでフェンスの復旧作業が行われ、各チームも最終戦に向けてマシンの準備を進めた。

最終戦の朝も青空が広がった鈴鹿サーキット。心機一転で第9戦のグリッドポジションをかけた予選が始まった。ここでも宮田、野尻、ローソンはQ1を突破。誰がポールポジションを獲得するのか、今までにない緊張感に包まれたQ2では、ローソンが1分36秒442をマーク。チームメイトの野尻を上回って、暫定トップに躍り出た。

その一方で、宮田はスプーン2つ目でわずかに挙動が乱れた。4月の第3戦では、ここでトラックリミット(走路外走行)を取られてベストタイムが採択されなかったのだが、今回は左フロントタイヤの一部が白線の上に乗っており“ギリギリ”のところでタイム削除を免れた。

とはいえ、結果は4番手で予選ポイントを獲得できず。ローソンがポールポジションを獲得したことで3ポイント縮まり、野尻も3番グリッドにいる状況。ここまで続いていた宮田優勢の流れが崩れた予選だったかに思えた。

しかし、当の宮田は予選Q2のことについて、こう語った。

「Q1のセクタータイムを分析していたときに『もう、これ以上はアクセルを踏み込んで曲がれない』というくらいのところまで攻めていました。チームもドライバーも今あるパフォーマンスの100%を出している状態でしたが、それでもトップとは差がある状況でした」

「そこから差を詰めていくには、ミスを恐れずにアクセルを踏むしかないと思って、守りに入らないようにしてアタックしたら、スプーン2つ目で少しリヤが滑りました。ミスというよりは攻めた結果です」

37号車担当の小枝正樹エンジニアによると、セクター3とセクター4で0.3秒くらいのロスがあったのではないかとのこと。仮にスプーン2つ目がうまくいっていれば、2番手タイムを出せた可能性もあった。そう考えると、悔やまれる結果といえばそうなのだが、宮田自身はネガティブに捉えることなく、決勝での不安要素を克服するために動いていた。

第9戦の予選が終わった後、明らかにサーキットは「ローソンのポール獲得で、チャンピオン争いがますます面白くなった」という雰囲気になっていたが、当人たちにとっては、大きな変化はなかったのだ。

【チャンピオンを大きく手繰り寄せた“スタート直後の2コーナー”】

宮田は見事なスタートダッシュを披露した。

白熱の予選から約4時間後。第9戦決勝レースに向けたスタート進行が始まった。“今回は三つ巴のチャンピオン争い”、“F1帰りのリアム・ローソン参戦”、“エンジョイホンダ併催”、“ABEMAでスーパーフォーミュラ広報大使を務める日向坂46・富田鈴花さんによる国歌独唱”と話題が盛りだくさんなこともあり、2万5500人が来場。最終決戦の行方を見守った。

昨年からマシンがグリッドへ試走する際、予選トップ3が最後にコースインする演出がされているが、今回はランキングの3位、2位、1位の順にコースイン。ローソンと野尻がピットを後にすると、少し間を置いて宮田のマシンが動き出した。普通なら、そのままゆっくりとピットアウトするのだが、初チャンピオンに王手がかかったポイントリーダーは、ピット出口脇にマシンを止め“最後のスタート練習”を敢行。いつもにも増してスタートに対して入念に準備している宮田に、会場の緊張感も一気に高まった。

この時期の鈴鹿サーキットは、偶数番グリッドが並ぶイン側が日陰になる。いつもアウトオブキッザニアのお仕事体験プログラムで、スタート前の気温と路面温度を測るという体験枠がある。そこに参加している子どもたちに協力してもらい、アウト側(日向)と、イン側(日陰)をそれぞれ計測してもらった。その結果、路面温度に5℃(アウト側が路温31℃、イン側が26℃)の差があることが分かった。

偶数列の4番手からスタートする宮田は、普段からあまりスタートダッシュを得意としている方ではない。おそらく先行していくであろうローソンや野尻に対して、どのような戦略で追い上げてくるか…そんなことを予想しながら、レース開始の時を迎えた。

すると、宮田は勝負どころの最終戦で見事なスタートダッシュを披露。逆にポールポジションのローソンが少し出遅れ、真後ろの野尻が行き場を失って減速した。その一瞬の隙をついた宮田は、2コーナーでアウト側から野尻を抜いて3番手に浮上。ローソンも2番手に下がったことから、このままの順位でいけば宮田がチャンピオンになる計算。ある意味で“第9戦のスタート”がチャンピオンの行方を決定づけたと言ってもいい瞬間となった。

レース後、37号車担当の小枝エンジニアに取材していると、普段は36号車を担当している大立健太エンジニアが、宮田のスタートデータを伝えに来た。その数値を聞いて「良いね!」と小枝エンジニアも驚くほど。それだけで彼のスタートダッシュが良かったということだろう。

さらに、名門トムスのチームワークも大一番で存分に発揮された。前日の第8戦で笹原が大クラッシュを喫し、第9戦は欠場となった。自分たちの担当するマシンがなくなった36号車のメカニック・エンジニアたちは、急きょ37号車のサポートにまわったのだ。

大立エンジニアをはじめ36号車エンジニアチームもサポートに入り、戦略面を中心に担当。その分、小枝エンジニアは宮田が必要とする情報を迅速に伝えることに集中でき、ピットストップのタイミング判断も的確に行えた。

結局、スタートから順位が大きく変わることはなく、3位でチェッカーを受けた宮田。今季6度目の表彰台で、念願のシリーズチャンピオンに輝いた。

「正直、今年はチャンピオンを獲れると思っていませんでした。スーパーフォーミュラにデビューしてから優勝とポールポジションを獲れていなかったので、それを獲るためには何をすべきかをチームと一緒に考えてきました。(第3戦の)鈴鹿で優勝することができて、それからクルマにも自信がつきましたし、僕としてもドライビングやメンタリティーの部分も自信がつきました」

「自分は“世界に行きたい”という思いでレースを始めたので、それが原動力として結果にもつながったと思います。最終的にこうやってチャンピオンを獲れたことは嬉しいですし、ホッとしています。チャンピオンを獲れたことに対し、TGRをはじめTEAM TOM’S、そしてスポンサーのみなさん、応援してくださるファンのみなさんに本当に感謝しています」(宮田)

【勝つと負けるは紙一重】

レース後互いに称えあう宮田とローソン。

レース後、パルクフェルメで何度もガッツポーズし、雄叫びを上げて喜びを表現した宮田。その一方で、マシンを降りて呆然と立ち尽くすローソン、新チャンピオンを称えに行きながらも、3連覇を逃した悔しさを堪えきれない野尻。激闘の2023シーズン終了の瞬間、3人の表情はあまりにも違いすぎた。

“勝つ”と“負ける”は紙一重。

こうして言葉にするのは簡単だが、当人たちにとっては、その一言で到底片付けることのできない嬉しさや悔しさがある。それが、今回の鈴鹿決戦でも垣間見えた結末となった。

悲喜交々の2023シーズンはこれで幕を閉じたのだが、今この瞬間から2024年シーズンへの準備が、それぞれの間で始まっている。

新王者の宮田は目標と語っていた世界の舞台への挑戦が待っており、ローソンはF1レギュラーシートをかけた動きが本格化していく。野尻も2024年の王座奪還を狙って次なる一歩を歩み出しているはずだ。

進む方向はそれぞれ異なるが、2023シーズンのスーパーフォーミュラ王座をかけて激戦を繰り広げた3人が、今後どのような活躍を“それぞれの舞台で”披露してくれるのか、今から楽しみで仕方がない。

そして、彼らの活躍とともに、国内トップフォーミュラ50周年の節目にふさわしい“激闘のシーズン”もセットになって…きっと、多くのファンや関係者に語り継がれていくことだろう。

文:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
モーター スポーツを応援しよう!

モーター スポーツの放送・配信ページへ