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モーター スポーツ コラム 2023年10月27日

2023“SF鈴鹿決戦”チャンピオン候補3|リアム・ローソン~夢にもう一歩近づくのに必要な“初のビッグタイトル”~

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
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リアム・ローソン(TEAM MUGEN)

いよいよ今週末に迫った2023スーパーフォーミュラ最終大会。今年はドライバーズチャンピオン争いが非常に白熱しており、宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)、リアム・ローソン(TEAM MUGEN)、野尻智紀(TEAM MUGEN)による三つ巴の頂上決戦となる。

前回に引き続き、今季チャンピオン候補のそれぞれにスポットを当てていく記事となるが、最後の3回目はランキング2番手につけるリアム・ローソンだ。

DTM(ドイツツーリングカー選手権)やF2で輝かしい成績を残し、今年はF1のレッドブル・レーシングでリザーブドライバーを兼任する形で、スーパーフォーミュラにフル参戦。彼にとっては初めての日本のレースではあるが、1シーズンでチャンピオンを獲得して、翌年にF1のレギュラーシートを獲得するという目標に向かって、2023シーズンの挑戦を開始した。

ローソンが初めて鈴鹿サーキットを走ったのは、昨年12月の公式テスト。スーパーフォーミュラの車両や使用されているタイヤ、そして鈴鹿サーキットの難しさは、ヨーロッパのフォーミュラカーカテゴリーのそれとは異なる部分もある。そのため、海外から来た多くのドライバーが最初は苦労しがち。しかし、ローソンは2日間のテストで全くミスをせず、淡々と周回を重ねていき、経験を積んだ。

これには、TEAM MUGENの田中洋克監督も「『しっかりと走りきることが重要だから、まずはクラッシュをしないように』と伝えたところ、ちゃんと我々の言うことを聞いて、素直だなと思いました。外国人ドライバーはだいたい言うことを聞かなかったりするんですが……逆にビックリしました」と、驚いていた。

21歳という若さでありながら、この安定感は驚異的。セッションが進むにつれて、同じTEAM MUGENで走る野尻だけでなく、他のチームのドライバーたちも警戒感を強めていった。

そんな中で迎えた4月の開幕大会。舞台となる富士スピードウェイでは、例年なら開幕前にテストが行われるのだが、今年は過密スケジュール回避のためにシーズン中に実施されることとなった。このため、ローソンにとっては富士を走るのは初めて。しかも、金曜日のフリー走行は荒天により中止となり、いきなり土曜日朝の第1戦予選でタイムを出さなければいけない状況となった。

ここまで事前準備ができないとなると、苦しい戦いになるのではないかと思われたが、ここで驚異の対応力が発揮される。フリー走行中止に伴い、ノックアウトではなく45分の計時方式に変更になったことを利用し、ローソンはセッション前半を使って、コースの習熟に専念。幸い、昨年15号車をドライブしていた笹原右京とともにチームが作り上げたセッティングがあり、それを利用して着々とタイムを更新。終わってみれば、野尻、宮田に次ぐ3番手につけた。

午後の決勝レースでも、デビュー戦とは思えない冷静な走りを披露。野尻とのトップ争いに持ち込み、アンダーカットで逆転に成功。その後も、ファステストラップを塗り替えるペースを披露するローソンを見て「これは、凄い……」と、筆者もメディアセンターで声が漏れたほどだった。

こうして、デビューウィンという快挙を達成。第2戦以降も安定した活躍を見せていき、早くもチャンピオン候補として名乗りを上げた。

デビュー戦を勝利で飾ったリアム・ローソン

TEAM MUGENの関係者らに聞いても、セットアップが思うように決まっていなくても、ローソンは乗りこなしてしまう器用さがあるとのこと。過去に参戦していたDTMでもデビューレースでいきなり優勝を飾ったほか、F2もフル参戦の開幕戦で勝利を手にしている。それが彼の才能なのだろう。

また、今季はレッドブルF1のリザーブドライバーも兼務しており、ヨーロッパにいる間は、ほぼレッドブルのファクトリーでシミュレーターに乗って、様々なテストを行なっている。F1でのシミュレータードライブは、単にドライビングスキルを向上させるための練習ではなく、各レースで現地から上がってきたデータをもとにシミュレーターで検証し、フィードバック情報を現場に戻し、次の日にそれが反映される場合もある。そのため、時間がない中で的確なフィードバックが出来ないといけない。

今シーズン前半は、ダニエル・リカルド(途中からアルファタウリのレギュラーに就任)とともに、現場でリザーブとして待機する担当と、ファクトリーでのシミュレーター担当を毎戦交互に担当していたとのこと。短期間でさまざまなことを覚えて、それを自分のパフォーマンス向上に繋げていかないといけない。

「ハイダウンフォースなところは、スーパーフォーミュラとF1は似ているところがあるから、スーパーフォーミュラを乗ることでF1のシミュレーターに役立っている部分はある」と語るローソン。こういうトレーニングが日頃からできていたからこそ、スーパーフォーミュラでも対応できる部分があったのではないだろうか。

そして、今シーズンのローソンを見ていて感心したところがひとつある。それが第4戦オートポリス大会だ。

日向坂46の富田鈴花さんが今年から決勝の中継を始めたABEMAでスーパーフォーミュラ広報大使として同番組のMCを務め、現地リポーターとしても活躍しているが、実は彼女がレース前にインタビューしたドライバーが優勝するというジンクスが今季前半に続いていた。ローソンは、そのことを番組ゲストとして出演した時に知ると、大津弘樹(肺気胸で欠場となった野尻の代役として参戦)のインタビューに自ら割り込んでいった。

その効果が実際にどれほど影響しているかは分からないが、その後の決勝レースで見事優勝を飾ったのだ。

スーパーフォーミュラ第4戦

スーパーフォーミュラのようにハイレベルかつ超僅差なバトルとなると、最後に勝敗を分ける鍵として必要になるのが“運”だ。そこに勝つ可能性が1%でも増えるのであれば、それを躊躇せず自ら取りにいく…ローソンが内に秘める“貪欲さ”のようなものが垣間見えた瞬間だった。

そして、8月の第7戦終了後には、思わぬ展開が待ち受けていた。F1オランダGPに出走中のリカルドがクラッシュを喫し、手の骨を骨折。リザーブとして現地帯同していたローソンが代役で出走することとなった。

そのまま、リカルドの怪我が治るまで。オランダGPを含めて5戦に出場。シンガポールGPでは9位入賞を飾ったほか、鈴鹿サーキットで行なわれた日本GPにも参戦し、大きな注目を集めた。

ここでも高い順応性をみせて力強い走りを見せるローソン。本人を含め、誰もが翌年のレギュラー昇格を信じて疑わなかった。しかし、日本GPの土曜日に発表された翌年のアルファタウリのドライバーラインナップは角田裕毅とダニエル・リカルド。ローソンは引き続き、リザーブドライバーを務めることとなった。日本GP前には、そのことを聞かされていた模様。木曜日に現地で囲み取材の時間があるのだが、ほとんど笑顔がなかったのが印象的だった。

それでも、レッドブル側からの評価も高く、リザーブドライバーのポジションも継続。F1参戦への道が完全になくなったわけではない。レギュラーシートに近づいていくためにも、スーパーフォーミュラでのチャンピオン獲得は必須項目と言ったところだ。

F1でも実力の片鱗をみせた。

これまで各カテゴリーで活躍を見せているローソンだが、実はF3より上のカテゴリーでチャンピオンを獲得した経験がない。2021年のDTMも、シーズン中は安定した活躍を見せ、ランキング首位の状態で最終レースを迎え、ポールポジションからスタートを切ったが、他車の接触を受けて最後尾まで後退。ライバルに逆転されてしまった悔しい経験を持っている。昨年のF2に関しても、最終ラウンドで一気にポイントを伸ばしたが、チャンピオンには手が届かなかった。

やはりF1へステップアップするためにも、今回のタイトルは是が非でもほしいところだろう。

ある意味で、その想いが強く出たのが、前回の第7戦もてぎだったかもしれない。スタートで野尻に並ぶチャンスがあり、1・2コーナーで仕掛けにいったが、外側の縁石で挙動を乱してスピン。複数台が絡む多重クラッシュとなった。幸いローソンは自力でピットに戻り、チームが約20分でマシンを修復し、コースに復帰したが、結局そのレースはポイント圏外でレースを終えた。

「アグレッシブになりすぎた」とレース後は反省していたローソン。ただ、チャンピオン獲得に向けてチームとの絆が深まった瞬間でもあった。

「マシンの修復作業を見守りながら、『間に合うのかな』と不安な気持ちはあった。だけど、チームのみんなは本当に素晴らしい仕事をしてくれて、再開の20秒前くらいに僕を送り出してくれた。改めて、このチームの一員として走れていることに誇りを感じた」とローソン。

第5戦SUGOでは、戦略面で意思疎通がうまくいかず、5位でレースを終えるという悔しい経験をした。もちろん、レース後は怒りを露わにしていたことは言うまでもない。そこでチームとの間に亀裂が生じたかに一瞬感じられたが、同じことが2度と起きないようにローソン自身もチームとのコミュニケーションを密にし、次の第6戦富士で優勝。もてぎでは結果こそ残らなかったが、チャンピオン獲得に向けて15号車メンバーの一致団結感が増すこととなった。

リアム・ローソン(TEAM MUGEN)

そんな中で迎える鈴鹿決戦。他のドライバーと比べると日本での経験は浅いと言わざるを得ないが、その中で一番走行する機会が多かったのが、鈴鹿サーキットだ。宮田との8ポイント差を逆転して、国内トップフォーミュラで参戦1年目でのチャンピオン獲得は1996年(当時フォーミュラ・ニッポン)のラルフ・シューマッハ以来となる。

ストフェル・バンドーン、ピエール・ガスリーともに成し遂げられなかったデビューイヤーチャンピオンを達成できれば、来季以降の彼を取り巻く環境にも影響が出てくるはず。そのためにも、負けられない1戦に挑む。

文:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

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