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モーター スポーツ コラム 2023年10月10日

“記録上”では語り継がれなくなる名バトル&ドラマ

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
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第6戦を制したNo.8 ARTA NSX-GT。

スポーツランドSUGOで行われた2023SUPER GT第6戦。すでに各所で報道されているが、今のSUPER GTというレースについて、色々と考えさせられるレースだった。

何より大きな話題となったのが、STANLEY NSX-GTの大クラッシュ。ドライブしていた山本尚貴は、第一報では大きな怪我はないとのことだったが、後に行なった精密検査で外傷性環軸椎亜脱臼、および中心性脊髄損傷という診断結果が出た。山本は治療に専念するため、残る第7戦と第8戦を欠場することが発表された。

これまで、勝利に対して強いこだわりと執念をみせ、事前の準備や振り返りにも人一倍力を入れてきていた印象のある山本。それだけにレースの現場から離れるということは、彼にとって胸が張り裂けそうになるくらい辛い思いであることは、想像に難くない。今、彼がどんな気持ちで入院生活を送っているのかと思うと……胸が痛くなる。

本人のインスタグラムにも書かれていたが「絶対に戻ります」とコメントしていた。ファンや関係者の間では、今も心配する気持ちは大きいと思うが、彼の言葉を信じて待つしかない。

また、このクラッシュに関しては、すでに様々なところで議論や警鐘を鳴らす記事やコメントが関係者および各メディアから多数出ている。SUPER GTでは毎大会でGTアソシエイションの坂東正明代表が出席しての定例記者会見が行なわれるのだが、第7戦オートポリス大会の会見では、間違いなくこの事故に関する話で持ちきりになりそうな気配だ。

坂東正明代表

このような重大事故は、2022年第2戦富士での高星明誠、今季第3戦の松田次生に続いて3件目。たった1年半という短期間で起きているというのは、明らかに異常であり、抜本的な対策が必要という証だろう。今回の件に対して、GTAがどのような対策を打ち出すのか。その動向を、是非とも注視していきたい。

この大クラッシュによって、レースは約45分にわたって赤旗中断となったのだが、数あるスポーツランドSUGOでのレースの中でも、上位にランクインするほどの名バトルが繰り広げられた。

GT500クラスは、赤旗中断前のピットストップで逆転トップに躍り出たNo.17 Astemo NSX-GTが先行する展開となったが、その背後にはポールポジションからスタートしたNo.8 ARTA NSX-GT、さらには第5戦鈴鹿での失格裁定からリベンジに燃えるNo.23 MOTUL AUTECH Zが追いかけるという展開。ここからゴールまでの約40周にわたって、一瞬も気の抜けないトップ争いを繰り広げた。

熾烈なトップ争いが繰り広げられた。

再スタート直後、8号車を駆る大湯都史樹が猛攻を仕掛けるが17号車の塚越広大はなんとか凌いだ。レースも少し落ち着いたかに見えたが、52周目の1コーナーで一瞬の隙をついた大湯がインに飛び込んでトップの座を奪取。さらに背後には23号車を駆る松田次生も接近しており、3台ともGT300クラスの集団をかき分けながら、接近戦を繰り広げるという神経をすり減らすような戦いに突入していく。

その中でも勢いがありそうに見えたのは、トップに立った大湯。トラフィック処理の関係で一時的に3秒までギャップを広げたが、少しでもGT300車両に引っかかると後続の2台が接近。そうするうちに8号車のタイヤ消耗も始まり、接近戦の状態が続いた。

残り15周を切ると、優勝をかけたバトルが本格化。17号車が首位奪還を狙って仕掛けにいくも8号車も必死のブロックで前に出させない。そこで2台の間合いが少し開いたところで3番手の23号車が接近して順位アップを狙うという攻防戦がほぼ毎周にわたって展開された。

決定打に欠く状態が続いていた17号車だが、残り9周の最終コーナーで千載一遇のチャンスを掴む。8号車がGT300車両を抜くためにアウト側にラインをとった隙に17号車は一番イン側のラインを選んだ。うまくスピードを乗せられたことも相まって、GT300車両を挟む形で8号車のオーバーテイクに成功した。

そのままラストスパートをかけて、わずか数周で7秒ものリードを築いた17号車の塚越は見事トップチェッカーを受けた。チームのメインスポンサーである日立Astemoは、宮城県に大きな拠点を持ち、周辺にも工場がいくつかある。そのため、毎年SUGO大会には多数の応援団に駆けつけ、今回もAstemoレッドに染まった客席が大いに沸いた。

いずれにしても、これだけ接戦の状態で緊張感が続いたトップ争いをみるのは久しぶりだったかもしれない。今年で引退を表明している立川祐路が2006年のSUGO大会で本山哲と演じたトップ争いを彷彿とさせるバトルだった。

そして、GT300クラスも最後の最後にドラマが待っていた。赤旗中断以降はNo.52 埼玉トヨペット GB GR Supra GTがトップを快走し、十分なリードを築いて最終ラップに突入した。2番手のNo.18 UPGARAGE NAX GT3に対して5秒以上のリードを築いており、52号車の勝利は確実だろうと思われたが……最終コーナーを上り切ってグランドスタンド前に姿を現した瞬間、突然のスローダウン。その横を18号車が走り去り、ゴール100mを切ったところでの大逆転劇となった。

まさかの形でチェッカーを受けたNo.52 埼玉トヨペット GB GR Supra GT。

まさかのドラマにグランドスタンドにいるファンも騒然。今季3度目のトップチェッカーを受けた18号車メンバーは歓喜の渦となり、一方の52号車陣営は意気消沈。ドライブしていた吉田広樹はスローダウンしてしまったのは、自分のせいなのではないかと、暫定表彰式後の囲み取材で大粒の涙を流していた。そこに川合孝汰が「また次頑張りましょう!」と吉田を支えていたのが印象的なシーンだった。

紙一重の差で勝者と敗者が生まれるのがモータースポーツ。勝った側、負けた側にそれぞれの心境はあるが、ひとつのドラマが生まれたレースだったなと感じていた。

こうして今年のSUGO大会は幕を閉じたのだが……残念なことに、と、GT500での名バトルやGT300でのゴール直前での逆転劇といったドラマは、“記録上”では今後語られることはなくなる。

レース終了から約2時間30分後、GT500とGT300の両トップチェッカー車両が再車検不合格になったことが通知された。17号車はスキッドブロックの厚みが規定に満たず。18号車は最低地上高の違反だった。

これによりGT500クラスは8号車、GT300クラスは52号車が優勝。8号車に関しては、野尻智紀がすでにサーキットを離れた後だったが、結果が変わったことを受けて急きょサーキットに戻ってきた。そして、大湯とともに暗くなって撤収作業が進んでいる表彰台に登って優勝トロフィーとともに記念撮影を行なっていた。もちろん、グランドスタンドを埋め尽くしていたファンは全員帰った後のことだ。

野尻智紀は急きょサーキットに戻ってトロフィーを受けとった

52号車陣営は、2人ともまだサーキットに残っていたというが、両者ともに素直に喜んでいる表情はしていなかったと聞く。

実は、今年に入ってから暫定表彰式終了後に結果が変わるケースが非常に多く、特にGT500クラスに関しては第3戦鈴鹿以降、4戦連続で続いている。第4戦富士では2チームがペナルティで後退したことで、当初4位でチェッカーを受けたNo.64 Modulo NSX-GTの伊沢拓也と太田格之進が、雨が降りしきるなか暗くなった表彰台に上がり記念撮影をしていた。

表向きは、一件落着なのだが……果たして、これでいいのだろうか?

おそらく、あの日SUGOに来場したファンや、テレビの前で観戦していた視聴者の中にも、毎回レース後の夜になって結果が覆っていることに対して、何かしらを感じている人は少なからずいるはずだ。

また、こうやって結果が覆ると報道する各メディアでも、パルクフェルメや暫定表彰式で撮影した写真の大半を“お蔵入り”にせざるを得なくなる。こういったところでの悲喜交々したシーンは、そのレースを象徴する1場面でもあるが、それが意味をなさなくなる……それが4戦連続で起きているのだ。

勝つために限界を攻めたが故に起きてしまったことであることは重々理解しているが、それにしても“4戦連続”で起きているというのは、どう考えても異常だと感じる。国内で最も人気が高いモータースポーツとして知られているシリーズだが……仮にこれが今後も同じようなことが続くようと“ファンのSUPER GT離れ”が加速していくのではないかと、心から危惧している。

今一度、シリーズ全体が現状と真剣に向き合い、より良いものにするために対策を打ち出して行かなければならない時なのだろう。

文:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

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