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モーター スポーツ コラム 2023年8月24日

【SUPER GT あの瞬間】立川祐路&石浦宏明(No.38 ZENT CERUMO GR Supra)「周りが自分のためにいろいろやってくれ、レースに向けてやる気が上がった」(立川) | 2023 SUPER GT 第4戦 富士

モータースポーツコラム by 島村 元子
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レース前に行われたセレモニーで手を振る立川選手

レース前に行われたセレモニーで手を振る立川選手

レースウィークの出来事をドライバーに振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2023年シーズンも引き続き、どんなドラマがあったのか、その心境などをコラムにしてお届けします!

7月下旬、今シーズンをもってSUPER GTからの引退を表明した立川祐路選手。その直後に迎えた第4戦富士では、関係者はもとより、多くのファンからも引退を惜しむ声がたくさん聞かれることとなった。

レースでは、予選7位から立川選手がいつものようにスタートを担当。コンディションは、ウエットからドライへ、そしてまたウエット、ドライ……と目まぐるしく変化し、さらに2度の火災事故を伴う波乱に満ちた展開となるも、粘り強く周回を重ねて5位という結果を残すことに。今回、“引退”という大きな決断を下した立川選手、それを受け止めた石浦宏明選手にとってどのようなレースウィークだったのか、改めてふたりに振り返ってもらった。

── 8月4日に富士スピードウェイにおいて引退記者会見を行い、その翌日の公式練習では、真っ先にNo.38 ZENT CERUMO GR Supraのステアリングを握りました。心境的にいつもと違っていましたか?

立川祐路(以下、立川):あんまり覚えてないな(笑)。慌ただしく過ごしたんで。まぁでも、富士(スピードウェイ)で、GTカーで走るっていうのは、今回が最後になるんだなっていう……なんか、そういう思いはありましたけどね。

── 周りの雰囲気はどうでしたか?

立川:いや、チームはいたって普通だったかな。何にも言われることもないし、淡々といつも通りにやってましたね。

石浦宏明(以下、石浦):ちょっと乗る前に、バタバタしてましたもんね(笑)。僕がちょっとトイレに入ってたんで、トイレの取り合いになった記憶があるんですけど……(笑)。全然、感動的な話じゃなくて……。

立川:僕がトイレに入ろうと思っても、なんか(扉が)全然開かなくて。「誰だ!?」みたいな……。これ、いきなりしょうもない話から!?(笑)

石浦:話の腰を折りまして、申し訳ございません(笑)!

── 公式予選では、石浦選手が2番手と0.068秒という僅差で3番手に。この時点から予選に向けて気合が入った感じですか?

立川:そうでしたっけ!? ちょっと……あまり記憶にないんですけど。まぁ、クルマの手応えというか、そういうものはあったんで。このあと予選は多分(Q2担当の)自分まで回ってくるだろうなっていう。クルマの調子が良さげだっただけに、プレッシャーと緊張感と……っていうのはありました。あ! 思い出した。あれだよね、なんかアタック……赤旗だかなんだか……あれ(アタックラップ中に赤旗中断となり、アタックできなかったクルマが多かった)ですよね。だから、順位とか言われても実感がなかったんだ。

石浦:そうだ、みんなアタックしてなかった。僕も、「そんなに上位だったっけな?」って今、思ってました(笑)。

立川:だから、順位とかその辺はまったく当てにならない状況だったんですけど、自分たちのクルマの手応え、フィーリングは悪くはなかったですね。

── 迎えた予選。Q1担当はどのように決めたのですか?

立川:じゃんけんで。

石浦:(笑)いや、Q1は、もう行く(サーキット入りする)前から決まってました。通常、自分がQ1を担当するんですが、エンジニアからレースウィークの“ランプラン”っていうのが送られてくるので、いつも通りQ1は、自分が行って……っていうことで。もちろん、立川さんが引退を発表されてはいましたが、とにかく何よりも結果を残すためにどうしたらいいかっていうところで、いつも通り、チームとしてどういう方法でやれば一番結果が出るかっていうことを基準にちゃんと選んでるっていうところはあるので。なので、普段と特に変わりなく進んでいったっていう感じです。

立川:自分の引退発表があって、“富士ラストレース”ではありましたが、基本的にはチームというか、僕らもそうですけど、とにかく普段と変わらず全力で成績をいかに出すかっていうことなんで。その辺はいつもと変わらなかったですね。

No.38 ZENT CERUMO GR Supra

No.38 ZENT CERUMO GR Supra

── チームとしては、“いつも通り”。しかしながら、メディアをはじめとする“外野”の状況はいつもと違っていたはず。そうなると、やはり気持ち的に何か変化はあったのでは?

石浦:実際のところ、レースではクルマのセットアップを今までとかなり違う状態で持っていってたんです。それがうまく機能するのかな、とか、そういうところに集中していたし、公式練習ではそれなりの手応えを感じられたので、正直、Q1は通過できるかなと思ってました。ですが……第2戦(富士)では自分がミスをして、予選を台無し……決勝も含めて台無しにしてしまっている(※1)ので、それを含めたプレッシャーが……立川さんにQ2へのバトンを繋げなかったら、富士で2回連続になってしまうし……。第2戦のQ1ではなんとか(タイヤに)フラットスポットを作りながらも、ビリではなかった(13番手)んで。あの時も普通に走っていればおそらくQ1は通過できた感じだったので、逆にそれを思い出して。

普通にアタックすれば、ちゃんと通過できるっていうようなイメージを持っていたので、とにかく「普通にアタックしよう」と。それでダメだったら、もうしょうがないなっていう気持ちではいました。変に他のことを考えず、自分のアタックを普通にやることに集中してやりました。(アタックが)終わった後にメディアの方がいっぱい来たので、その時逆にプレッシャーを感じたっていうか……。あれで(Q1を)落ちていたら大変なことになったな、って。走っているときはいたって普通に自分のベストを出そうっていう気持ちで走ってました。
※1:予選アタックラップでコースアウトを喫した際、フロントタイヤ2本を傷めたため、決勝はピットスタートを選択。レース開始と同時にフロントタイヤを交換し、コースに向かった。

立川:あ、でも1コーナーはちょっと硬かったよね(笑)。

石浦:(笑)。それは言っちゃいけないやつ!(笑) まぁ、(アタックに)行く前から、「1コーナーは硬くなるんじゃねぇ!? 」っていうのは、立川さんだけじゃなくて(No.14 ENEOS X PRIME GR Supraの)大嶋(和也)とか(14号車チーム監督の高木)虎之介さんとか、みんなに声をかけられてたんですが、案の定、1コーナーはちょっと硬くなりましたね。第2戦のことが思い出されて……。“ブレーキロックさせたらどうしよう”とか、心の中にあったかなと思います。無事に1コーナーを通過できた時はものすごい安心して。そのあとは気持ち良く走れました。

立川:僕は安心して見てましたけどね。自分に(Q2担当が回って)
来るなと。でも、朝の公式練習は最後のGT500の専有走行で赤旗になって、ほとんどのクルマがアタックできてなかったんで、ライバル陣営の実力値が見えなかった。なのでそこはちょっと不安でしたけどね。案の定、予選が始まったら、やっぱり(ライバルが)速かった。まぁでも石浦が頑張ってくれてQ1を通ってくれたんで、“次は僕の出番だ”っていうことで。でも、急に僕が硬くなってきました(笑)。

── “富士マイスター”である立川選手としては、富士での今シーズン初アタックとなりました。特別感はありましたか?

立川:そっか! 富士は前回(第2戦でのQ2を)やってないですもんね。なので、ラストイヤーに、“富士ラストアタック”ができて良かったです(笑)。アタック自体はまぁまぁ、普通。可もなく不可もなく(笑)。いたって普通でした。特別良くもなかったんですけど、特に何か失敗があったわけでもないしっていう……。欲を言えば、もうちょっとコンマ1、2秒でも少し出したかった(縮めたかった)なっていうのはあります。そうすると、ポジションがもう少し違ったので。

── 迎えた決勝は、不安定な雲行きで雨が降ったり止んだりという天候になりました。引退セレモニーでは、表彰台の上で「空も泣いてくれてるんですかね」という名ゼリフも飛び出し、リラックスされているように見受けられました。

立川:いやいや。引退会見も、そういう……セレモニーもそうですけど、そっちの方が緊張しますよ。何をしゃべったのか覚えてないですもん。もうあれ(引退会見や引退セレモニー)……動画に残すのをやめてほしい(笑)。

石浦:これからもいっぱい出てくると思いますよ、動画は。

── 引退会見でもたくさん名ゼリフが出てました。

立川:え? (石浦に引退を勧める)「一緒にどうだ?」っていうところですか?(笑)

石浦:レースウィークでは、その話ばっかり色んな人に言われましたからね。「(立川と)一緒に辞めるらしいね」みたいな話、いっぱいされました(笑)。

── 会見やセレモニーでいつもと違うレースウィークになりましたが、決勝直前のグリッド上では「富士を石浦選手と走るのは、もう最後なんだな」なんていう気持ちになったのですか?

立川:金曜日の会見から始まって、レース前もセレモニーがあって忙しかったんですけど、でも逆に、周りがそれだけのことを自分のためにやってくれたりとか、ファンの方々も応援してくれてるっていうのが、逆に僕の力になってくれてはいたので、いい意味でこう……レースに向けて、やる気……モチベーションっていうんですか? それは高かったですよ。

ヘルメットを被ってスタートの準備をする立川選手

ヘルメットを被ってスタートの準備をする立川選手

── その様子を一番間近で見ていた石浦選手には、どのように映っていましたか?

石浦:今回、立川さんの希望もあって、例えば、チームでピットウォークは最初から最後まで全部出るとか、そういうことを決めていました。忙しい中でもファンサービスをしっかりやりたいっていう意見が(立川から)出てるっていうのを事前に聞いていたので、どれだけ忙しくてもそっちを優先してやるっていう、立川さんの思いを感じました。なので、本当だったら引退セレモニーをやってるドライバーがスタートドライバーも担当するって、なかなか大変なんですけど、それでも集中してしっかりスタートしていくところを見て、忙しいことを全然言い訳にせずに、というか、しっかりレースを戦ってるのを見て、こっちも気合いが入るという感じでした。まぁ、僕もセレモニーを見ちゃったんですけどね、表彰台の下から(笑)。なんで、うちのチーム、多分グリッドにドライバーが誰もいない状態ではあったんですけど(笑)。

立川:そう。わざわざ来てくれて。自分の(引退の時の)シミュレーションかな!?

石浦:(笑)。「ああやってやるんだな」っていうのを見せていただいたんで……。

── “涙雨”となったセレモニー。スタート前にタイヤ選択等難しい選択を迫られるレースになりました。

立川:そう、雨がね。どうしようかと思いました、スタートで。クルマもタイヤも……。うちは(ブレーキに不具合が見つかり)ウォームアップ走行でほとんど走れなかったんです。クルマのバランス確認もできなかったんです。天気もわからないし、もうどうしようか、っていう感じでしたね。

── スタートから12周目にピットイン。路面状況の変化に合わせ、ドライタイヤに交換しました。その後のクルマの状態は?

立川:実際はそんなに良くもなかったんです。雨が降り出したら降りっぱなしというか、チームとしては“雨方向”で考えていたので。どっちかというとウエットのセットと言うか、雨が強くなる方向で読んでいたんですが、路面が思いの外乾いていって、ドライでのレースが結構長く続く感じになってしまって……。走ってる方としては、苦しいというか、そういう状況でしたね。でも、頑張って前(のクルマ)に付いていけば、後半に向けて天気もわからないし、天候次第でまたチャンスが生まれると思って。少しでもいいポジションというか、前に付いていって、石浦に(バトンを)渡そうという思いで頑張ってましたけどね。

── レース後半、車両火災で赤旗中断になるなど、荒れ模様になりました。その中でどういう走りになりましたか?

石浦:最初はドライタイヤでコースインしたんですが、ピットインでポジションを落としてしまって10番手ぐらいを走ってたのかな? そこからドライでなかなか追い上げるペースが自分にないなっていうのが分かって、かなりツラい状況になるのを覚悟をしてたんですが、赤旗中にかなり雨が強くなって。(再開後は)ウエットタイヤのレースになり、リスタートした後は一時的に自分たちが選んでるタイヤとコンディションがぴったり合っている感覚があって、ペース良く走れたんです。逆に、ウエットになったことで、セットアップ含め、ちょっと流れが来たなっていう感覚はありました。

そこでなんとか追い上げて、順位はどんどん上がっていったんですが、最後は(路面が)ドライアップしてしまうのがわかっていたので、タイヤをどうするのかなと思いながら走ってて。チームと無線でやり取りはしてたんですが、「タイヤは換えずに最後まで行く」っていうのを聞いて。多少タイヤをマネージメントしましたが、もうタイヤがズルズルになって、最後の7、8周はコース上に留まるのもかなり難しくなってくるくらいすごいオーバーステアで。ハンドルを切らなくても勝手にクルマが曲がってしまうくらい乗りにくい状態になったんです。まぁ、その状況では(コース上の)みんなが同じ状況で、“程度の違い”はいろいろあったんですが、なるべく踏ん張ってポジションをキープして、ゴールしようと思いながら最後まで走ったという感じです。

── 立川選手はこの状況を見守る立場でしたが、こういうとき、無線のやりとりに加わることはあるのでしょうか?

立川:いや、聞いてはいますが話すことはないですね。今回は赤旗後のリスタートからサインガードに行って、エンジニアとウエットタイヤを何にするっていうのをずっと一緒に話してました。監督とエンジニアがいるんで、基本はそのふたりしかドライバーとは話さないですね。いろんな人がいろんなところで話すと、それこそ混乱するので。自分はエンジニアと会話して、それをエンジニアがドライバーと……みたいな形ですね。直接ドライバー同士で話すことはしないですね。

石浦:あと、アレですもんね。立川さん、僕のスティント中にお弁当を召し上がられてる時がありますから(笑)。今回はどうしたんでしたっけ?

立川:今回は、自分のラストランを終えて、部屋でちょっと軽くご飯を食べてたんですけど……ひと仕事終えてね(笑)。だけど、急に赤旗になって。そこから雨が降ってきたりして、タイヤがどうだこうだってなってたので、途中で(食事するのを)やめて、サインガードに行きました。お昼(ご飯を)中断してね。レース後半から最後は、また天候もドライアップしていく感じになったりして、ちょっと状況が難しい状況だったんで……。そこは、サインガードにずっと居ましたね。まぁでも、居たとしてもあんまり意味ないんですよ。ピットでタイヤ交換するようなシチュエーションとか、そういうのが発生すると、一応その場でエンジニアの相談相手になったりとか。シチュエーションによって呼ばれますけど、普通に淡々と進んでいく場合はもうピットに入ることもないし、そうしたらもう居てもしょうがないので、部屋でくつろいでいます(笑)。

── 富士で5位の結果を手に入れ、迎える第5戦鈴鹿も450kmの戦いです。改めてレースでの目標、意気込みをお聞かせください。

立川:表彰台圏内の争いをしたいなと。もちろん優勝は目指すんですが、少なくとも表彰台圏内の戦いはしたいなと思います。鈴鹿は割りといい結果を出す時もあるので、きちんといいレースをしたいなと。引退発表してから、今までいつも応援してくれてる人は、今まで通り応援してくれていますが、それ以外の……ライバルチームだったり、ライバルメーカーのファンまで応援してくれてるので、その思いに応えるようなレースはしたいなと思いますね。

石浦:自分たちはサクセスウェイトもそこまで重たくないですし、大量得点が狙える位置にいると思うんで、こういう時にしっかりポイントを獲らなきゃいけないなと思っているんです。あと、前回(第3戦)の鈴鹿のレースを思い出すと、自分たちが選んでいたタイヤが、レースでのウォームアップがちょっと悪くて、他メーカーにやられてしまったりとか、そういう反省点が結構あったんです。富士のレースでいろいろセットアップを変えていきましたけど、鈴鹿に対しても、今までとちょっと違う状態でいくと思います。そういうものがどういう風に機能して、すべてがうまく噛み合う状態が作れるかなっていうところが一番大事になってくると思ってます。自分たちが、“立川さんのラストの鈴鹿だから”って気合いを入れても、それだけでは結果は残せないと思うので、そのためにひとつひとしっかり積み上げて、すべてが噛み合うように持っていければいいなと思ってます。

文:島村元子

島村元子

島村 元子

日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。

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