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“サヨナラ”ではなく“また今度”…… 2023年からフォーミュラEに挑戦するサッシャ・フェネストラズが、日本で学んだもの
モータースポーツコラム by 吉田 知弘サッシャ・フェネストラズと近藤監督。
これまで、数多くの外国人ドライバーがレースキャリアの初期を日本のレース界で過ごし、F1やWEC、フォーミュラEなど、世界最高峰の舞台へ羽ばたいてきた。
昨今はコロナ禍の影響で、外国人ドライバーが日本でレースをする機会も減ってしまったが、その中でも諦めずに国内トップカテゴリーに挑戦し続け、2023年からフォーミュラE参戦の切符をつかんだドライバーがいる。
2022年のスーパーフォーミュラでランキング2位を獲得したサッシャ・フェネストラズだ。
彼が日本にやってきたのは2019年のこと。当時、日本ではそこまで名が知られているわけではなかったが、最初に目をつけたのは、KONDO RACINGの近藤真彦監督だった。
「前年のマカオ(F3)で3位になった子だと聞いて、そこから興味が湧きました。レースを振り返ると、けっこう荒れた展開のなかで、きっちりと仕事していたのを見て……すぐにコンタクトを取りました」と、2019年は自チームのGT300クラスへ招聘した。さらにはフォーミュラカーでは、全日本F3選手権に欧州の名門モトパークとタッグを組んだB-MAXからフル参戦することになった。
この当時から「僕の夢は、スーパーフォーミュラとSUPER GTのGT500クラスに乗ることだ!」と語っていたフェネストラズだが、全日本F3でチャンピオンを獲得すると、翌年には早速夢が叶い、KONDO RACINGからフル参戦することが決まった。
SUPER GTでも、TOM’SからGT500クラス参戦が決まり、まさに順風満帆かに思われたフェネストラズのキャリアだったが……ここから、様々な苦労を味わうことになる。
2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴う大幅なスケジュールにより、8月にシーズンスタートとなった。フェネストラズは開幕戦で3位表彰台を獲得する幸先の良いスタートを切ったのだが、第2戦以降は不運なアクシデントが続き、リタイアの連続。結局、この年はランキング13位と不本意な結果でシーズン終了した。
2021年もKONDO RACINGから参戦予定だったのだが、新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて、日本政府が水際対策を徹底。この時、一時的にヨーロッパに戻っていたフェネストラズは、ビザ更新が間に合っておらず、約10ヶ月にわたって来日が叶わない状況が続いた。
それでも、フェネストラズは日本のレース参戦を諦めずに、再入国の可能性を日々模索。およそ10ヶ月ぶりに来日して以降も、水際対策が緩和されるまでは、都内に借りているマンションを拠点にして、日本のレース活動を優先した。
そして迎えた2022シーズン。第1戦富士で3位表彰台を獲得したフェネストラズは、各レースで上位争いに加わる活躍を披露。第4戦オートポリスで2位に入ると、続く第5戦SUGOでは2番グリッドから、野尻智紀(TEAM MUGEN)とのスタートでの競り合いを制してトップに浮上。セーフティカーが何度も導入される荒れたレース展開となったが、最後まで攻め続ける走りをみせ、念願のスーパーフォーミュラ初優勝を飾った。
第5戦では王者の野尻智紀を抑えスーパーフォーミュラ初優勝を果たした。
第6戦富士では不運なアクシデントに見舞われるものの、終盤戦まで力強く戦い続け、シリーズランキング2位を獲得。今シーズン、近藤監督も「そういう(スーパーフォーミュラでの)1年目と2年目があったのだから……3年目はぜひ“お返し”して欲しい」と期待を寄せていたが、それに応える活躍をみせた。
コロナ禍でレースができないなど大変な思いをしつつも、日本の舞台で戦い続け、トップドライバーのひとりとして成長していったフェネストラズ。来季から新たな挑戦が始まる一方で、日本のレースからは一旦離れることになるのだが、彼は取材のたびに「また、いつか必ず日本のレースに戻ってくる!」と強調していた。
それだけ、彼が日本で過ごした4シーズンというのは、かけがえのないもので、多くの学びがあったのだろう。
「この4年間で、僕は“プロフェッショナルなレース”というものを学んだ」
シーズン最終戦での取材で、フェネストラズは、こう語り出した。
「日本のレースにはトヨタをはじめとした大きなマニュファクチャラーが参戦していて、全てにおいてプロフェッショナルな環境の中でレースをする機会をいただいた。僕が日本のレースを一旦離れることになるのが寂しいと思うのは、全てにおいてアメージングだからだ」
「クルマの性能は本当に素晴らしくて、すごく速い。それに素晴らしいタイヤがあって、日本のコースはどれも難しいけどチャレンジングで素晴らしくて……。すごく最高で貴重な4年間を過ごすことができた」
「残念ながら、スーパーフォーミュラへの参戦が始まってからコロナ禍になって、色々な制限がでてきてしまった。特に昨年は日本に来ることができず、僕にとっても難しいシーズンを過ごした」
「だけど、この4シーズンを日本で過ごすことができて、本当に良かった。スーパーフォーミュラもSUPER GTも、本当に素晴らしいシリーズだと思っている」
「一旦は日本から離れることになるけど、またここに戻ってきたいと思っている。かけがえのない時間を過ごせたし、家族のように親身になって協力してくれたトヨタのメンバーに感謝している。彼らがいなければ、僕はここにいなかったかもしれない。心から“アリガトウ”と言いたい」
フェネストラズがスーパーフォーミュラにステップアップしてからは、コロナ禍でピットウォークなどが中止となるなど、サーキット内も“感染防止対策”として、様々な制限が設けられていたが、2022年の後半に入って、徐々に緩和されていき、スーパーフォーミュラの最終大会では久しぶりにピットウォークが行われ、フェネストラズも終始サイン攻めにあっていた。
ファンに囲まれるサッシャ・フェネストラズ。
「ようやくスーパーフォーミュラでファンの皆さんと間近で交流できて、本当に嬉しかった。サイン会の時には本当にたくさんの人が集まってくれて、僕自身も驚いた。みんなから直接メッセージをもらって、僕もすごくエネルギーをもらったし、こうして皆んなに会えて、本当に良かった」
「たくさんのファンに応援してもらって、いろんな人にサポートをしてもらって、プレゼントもいただいて……。改めて日本で素晴らしいシーズンを過ごすことができたと思っている」
そして、フェネストラズにとっては“大切な仲間”ができた4年間でもあった。なかでも特筆すべきは、2022シーズンのSUPER GTでコンビを組んだ宮田莉朋。同じ1999年生まれでGT500最年少コンビとして注目を集めていた。
実は、フェネストラズが初来日した2019年は、全日本F3選手権で激しいチャンピオン争いを繰り広げたライバルだった。
特に中盤戦以降は、常に2人が1秒以内の僅差でトップ争いを繰り広げるという、例年になく緊迫感漂うレースが続いた。結果としてはフェネストラズがチャンピオンを獲得するが、シリーズの勝利数では宮田の方が上という、僅差と言っても良いシーズンの中で、切磋琢磨し、ともに成長していった。
そこから時が経ち、今年は奇しくも“チームメイト”として勝利を目指すことになり、そこでもたくさんの学びがあったとフェネストラズは語る。
「莉朋とは、F3の時はライバルだったけど、今年はチームメイトとして、1年間を一緒に戦った。お互いに、このクルマで勝つために、何日も一緒にいて、仕事をして……。改めて、莉朋はすごく良い人だし、たくさんの刺激をもらったし、友達としてもかけがえのない存在だ。みんなが思っている以上に“ナイスガイ”だよ」
「彼は経験もあるし、プロフェッショナルな世界を知っているし、人柄としても最高だ。その中で、同じチームに所属して、同じタイミングで色々なことを学ぶことができた」
「例えば、どちらかがミスをした時も、もう一方がちゃんとサポートをして、2人で困難を乗り越えられたのは大きい。僕がミスをした時は、彼がサポートしてくれて勇気づけてくれたし、彼が失敗した時も、僕が寄り添って、彼を助けた。そういう関係になれたというのは、すごく良いことだし、僕のレースキャリアにおいて、重要な時間を過ごすことができた」
いよいよ、2023シーズンから日産フォーミュラEチームのメンバーとして、世界の舞台に挑戦するフェネストラズだが、最後にこのようなコメントを残してくれた。
日産からフォーミュラEへフル参戦するサッシャ・フェネストラズ。
「来年から世界選手権という新たな舞台に挑戦するけど、この日本での経験を絶対に忘れない」
「そして、いつか僕も日本に戻ってきて、最高峰の2つのカテゴリーでチャンピオンシップを争いたいと思っている」
「だから“サヨナラ”ではなく“また今度”だ」
将来、彼が日本のレース界に戻ってきてくれることを楽しみにしつつ、まずは日本で培った経験をフルに活かして、活躍していく姿を期待したい。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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