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SUPER GT第2戦
富士スピードウェイを舞台にして行われた2022年のSUPER GT第2戦。新型コロナウイルス観戦拡大に伴い、ここ1、2年はゴールデンウィーク期間中に緊急事態宣言が出され、レースも入場人数やイベントを制限するなど、さまざまな対策がとられていた。
今年は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令もなく、サーキットへの入場制限が解除されたほか、イベント広場では、ソーシャルディスタンスなどに十分配慮した上で、レースクイーンが登場するスポンサーPRステージや、ドライバートークショーなども実施された。それでもコロナ前のような動員数とはならなかったが、決勝日には4万4000人ものファンが、サーキットに詰めかけた。
レース前にはエアレース世界選手権に参戦する室屋義秀が、迫力あるデモフライトを披露するなど、少しずつコロナ前の雰囲気に戻りつつあるように感じられた。
しかし、そんな華やかな雰囲気はレース59周目に起きたクラッシュでかき消され、日が暮れる頃になると、富士スピードウェイは異様な空気に包まれることになろうとは……。
GT500クラスのトップ3台が接近戦のバトルを繰り広げている中、メインストレートでスロー走行をしていたGT300車両を避けようとしたNo.3 CRAFTSPORTS MOTUL Zが挙動を乱し、外側のガードレールに激しくクラッシュ。マシンは原型をとどめないほどに大破した。
詳しいデータは公表されていないが、ぶつかった時のスピードは、おそらく時速250kmを超えていたことは間違いない。ガードレールも数メートルにわたって折れ曲り、衝撃の強さを物語った。
あの瞬間、メディアセンターにも多くの記者が戦況を見守っていたが、全員が『あっ!!』という叫び声を発したとともに、まるで時が止まったかのように、静まり返った。
筆者は、いつもノートにレース展開の詳細をメモしているのだが、
『L59(59周目)、T0(メインストレートという意味)、3クラッシュ』
『1643(16時43分)、赤旗』
これを、手が震えながら記したことを……今でも鮮明に覚えている。
おそらく、関係者のみならず、サーキットで来ていたファン、自宅でテレビ観戦していたファンの中には“最悪の事態”が頭をよぎった人も少なくなかっただろう。
2回の赤旗中断が起きてしまったSUPER GT第2戦
幸い、ドライブしていた高星明誠は無事で、関係者らの話によるとマシンを降りた後、自力で歩いていたという。その後、場内のメディカルセンターに行き、骨折なども確認されなかったが、万が一のことを考えて、病院で精密検査を受けることに。そこでも、異常は見られず、事故の翌日には退院した。
その後、クラッシュした3号車はパドック脇のエリアにブルーシートに覆われた状態で、一時保管されていた。隣には38周目にクラッシュしたアールキューズ AMG GT3の車両も置かれていたのだが、3号車の大きさは約半分。エンジンとモノコックしか残っていないと、瞬時で察した。
それでも、ドライバーは怪我を負うことなく脱出できたということを考えると、今のGT500車両、そして今のレーシングカーは、これだけ大きなクラッシュがあってもドライバーの命が守られるほど、高い安全対策が取られているのだと、再認識させられた瞬間だった。
それと同時に、SUPER GTではFRO(ファースト・レスキュー・オペレーション)という独自の救助システムを確立しており、今回も事故が起きた数十秒後にFRO車両がかけつけてドライバーの救助が行われていたほか、富士スピードウェイ側も、すぐに救急車を用意するなど、緊急時の対応としては申し分のない動きだったと言えるだろう。
今回は、多くのファンが詰めかけたグランドスタンドの目の前で起きたということもあり、激しく動揺した方も少なくなかったかもしれない。ただ、今回の件で“モータースポーツというのは常に危険と隣り合わせである”ということを、あの場にいた全員が、身をもって再確認させられたと思う。
最近の、特にSUPER GTでは各ドライバーのスキルが向上し、アクシデントを回避するケースが多く、ここまで大きなクラッシュというのは起きていなかった。同カテゴリーのみならず、国内の主要モータースポーツで、ドライバーが命に関わるような事故というは、ここ数年起きていない。
そのため、多くの人が知らず知らずのうちに「モータースポーツは危険と隣り合わせ」であることが、頭の中から薄れていたような気がする。だが、この世界において、こういった事態は絶対に起こらないという保証はない。だからこそ、不測の事態に備えて、各カテゴリーともに万全の安全対策を施して、レースを行なっている。マシンに関しても同様で、頑丈なモノコックをはじめ、大きな衝撃からドライバーを守るためのデバイスがいくつもある。その安全基準も年々厳しくなっていっているのだが、その高い安全性があったからこそ、ドライバーの命に関わるようなことは起きなかった。
ある意味、これまで一度も怠らずにやってきた安全対策があったからこその結果だったと言えるだろう。ただ、「これで大丈夫だ」と過信することなく、引き続き安全強化に対する歩みを、止めないでほしいと思っている。
前述でも書いた通り、これだけ大きな衝撃を与えたアクシデントは、久しぶりのこと。最近はSNSが一般的にもかなり浸透し、この件について色々な意見が飛び交っているが、ひとつ言えることは、終わったことに対して、何かを言っても、その事実が変わることはない。一番重要なのは「これから先、同じようなことが起こらないためにどうするか?」ということだ。
その点で、筆者が感じているのが、ハイレベル化している国内トップカテゴリーの現状だ。SUPER GTはもちろんのこと、スーパーフォーミュラでも、タイム差が年々拮抗しており、予選になると上位10台近くが1秒以内にひしめき合うことが当たり前になりつつある。それだけの差となると、決勝でのバトルも、より接戦になり、頭ひとつ抜け出すだけでも至難の技という状況だ。
そこからライバルを上回るために、知らず知らずの内に限界を超える領域を攻め始めているような気がしている。そうすると、ドライバーやチームも余裕がなくなり、最悪の場合、今回のようなアクシデントに繋がりかねない。
もちろん、バトルのレベルが上がれば上がるほど、観ている側からすれば、迫力あるレースが楽しめるというメリットはあるかもしれない。ただ、それが行き過ぎてしまうと、今回は大事に至らなかったが、いつか取り返しのつかないことになるのではないのかなと……そこだけが、少し心配ではあるところだ。
だからといって、競争にブレーキをかけてしまうと、面白みに欠けてしまう部分があるのは否めない。とはいえ、ドライバーやチームだけでなく、レースに関わる全員が、それぞれの立場で“見直し”をする必要があるのではないかと感じている。
その辺のバランスを如何にとるかは非常に難しいところではあるが……今回のアクシデントを機に、いま一度、全員が戒めなければいけないのかもしれない。
J SPORTS オンデマンド番組情報
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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