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激戦&ドラマの続く2019年のSUPER GTは、いよいよ残る戦いが2戦のみとなった。シリーズ第7戦の舞台はスポーツランドSUGO。ウエイトハンデが半減する一戦ながら、昨年までSUGOは第6戦としてレースが開催されていたため、抱える負担もこれまでとは異なってくる。軽さと時期を考えれば、レコードタイム更新はもはや必至とも言えた。
予選は、まずまず順当な結果に。ところが、決勝は……。またしても気まぐれな天気に見舞われ、タイヤ選択の妙で、あっさり明暗が分かれる。そして、レース中盤からは雨足が変化。とにかくめまぐるしく順位が入れ替わった結果、嬉しい初優勝を飾ったのは、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rの平手晃平/フレデリック・マコヴィッキィ組。チームにとっても、大型移籍後のドライバーにとっても初めて、今シーズンという尺度では、日産やミシュランにとっても初めての勝利という記録的な一戦となった。
そしてGT300ではポイントリーダーである、ARTA NSX GT3の高木真一/福住仁嶺組がようやく優勝を飾り、チャンピオン獲得に大きな前進を果たすことに。
前回に続いて来た! KEIHIN NSX-GTがまたもポールポジションを獲得
今度は台風17号接近の影響で、またしても危ぶまれた週末の天候だったが、こと土曜日に関してはドライコンディションが保たれることに。予選のQ1ではau TOM’S LC500の中嶋一貴がトップで、2番手はModulo Epson NSX-GTの牧野任祐が獲得。3番手でKEIHIN NSX-GTのベルトラン・バゲットが続いていた。
Q2はRAYBRIG NSX-GTの山本尚貴がチェッカーが振られるとともに、レコードタイムを更新してトップに立つも、その直後にKEIHIN NSX-GTの塚越広大が1分10秒を切る、圧倒的なタイムを叩き出して逆転に成功。2戦連続のポールポジションを獲得した。3番手はau TOM’S LC500の関口雄飛。
「セットアップが煮詰まってきたという感触があり、来年GT500はクルマが入れ替わることを思えば、今がいちばんの仕上がりなんじゃないかと。Q1でも好タイムが出ていましたが、Q2の方が温度も下がって、タイムが出やすいコンディションだと思っていました」と塚越。きになる決勝の天気に関して、「私たちはドライでもウェットでも、パフォーマンスに影響が出ないほどクルマは仕上がっているから、どっちでも不安はない。もちろん、見にきてくれるファンの皆さんは、ドライコンディションの方がいいだろうけど」とバゲットは語っていた。
Q1が2グループに分けられたGT300では、AグループのトップがMcLaren 720Sのアレックス・パロウで、BグループのトップがModulo KENWOOD NSX GT3の大津弘樹。だが、それぞれのパートナーがQ2で10番手、9番手に留まってしまう。そのQ2でトップに立ち、やはりレコードタイムを更新して、今季初のポールポジションを獲得したのは、公式テストでも好調だったSUBARU BRZ R&D SPORTの山内英輝。昨年、ポール・トゥ・ウィンを飾ったコースということもあり、井口卓人ともに今季初優勝の期待がかかった。「山内選手はSUGOがスゴ〜く速いですね」は、井口の定番コメント。「ウェットのレースには正直、不安しかないですが、できるだけ頑張ります。スバルにはAWDがあるので、降ったら切り替えていきたいと思います」と山内。これも最高のリップサービスだ。
2番手はARTA NSX GT3をドライブする、ランキングトップの高木/福住組が、そして3番手はHOPPY 86 MCの松井孝允/佐藤公哉組が獲得している。
レース序盤をRAYBRIG NSX-GTがリードする
日曜日になると天気はついに怪しくなって、いつ雨が降り出してもおかしくない状況に。決勝レースのスタート進行の開始と同時に行われる、20分間のウォームアップの頃はまだ大丈夫だったが、それが終わってマシンがグリッドに並べられると、霧雨が舞うようになる。「これなら、まだドライタイヤのままで行ける」という判断となるが、スタートが近づくにつれて雨はしっかりとしたものとなり、よりタイヤチョイスが難しくなっていく。グリッド上で作業が許されるスタート5分前までに、ポールポジションを獲得しているKEIHIN NSX-GTは、ドライタイヤのままで行くことを決断するも、GT500は15台中11台がウェットタイヤに交換する。
それから間もなくレースは、セーフティカー(SC)スタートで開始されるとのアナウンスが。この間に雨がやんでくれれば、KEIHIN NSX-GTの塚越は一気に有利になる。ところが、現実は逆だった。SC2周の先導の後にバトルが開始されるが、鋭い加速が許されず、あっさり1コーナーでRAYBRIG NSX-GTのジェンソン・バトンの先行を許す。5番手だったWedsSport ADVAN LC500の国本雄資もドライタイヤを選んでいたため、トップ3がいきなり逃げる形にもなった。KeePer TOM’S LC500のニック・キャシディが2番手に、これにau TOM’S LC500の中嶋一貴が3番手で続き、以下Modulo Epson NSX-GTのナレイン・カーティケヤン、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rの平手晃平という順に。塚越は12番手にまで後退を余儀なくされた後、10周目にピットに戻ってウェットタイヤに改めることに……。
その2周前にはau TOM’S LC500がピットイン。これは年間2機を超えるエンジン交換を余儀なくされたためで、10秒間のペナルティストップによって大きく順位を落とすことに。
トップを走るバトンのペースが極めて速い。周回を重ねるごと、キャシディとの差を広げていく。一方、3番手には平手が浮上し、これに続いたのがMOTUL AUTECH GT-Rのロニー・クインタレッリ。どうやら、コンディションにミシュランのタイヤが最もマッチしていたよう。
17周目にはWAKO’S 4CR LC500の大嶋和也が、カーティケヤンを抜いて5番手に浮上。ポイントリーダーであり、燃料リストリクターを依然絞られた状態ではあるが、雨のおかげでパワーロスがそれほど影響を及ぼさずに済んでいたのは間違いない。予選8番手から、3ポジションアップに成功。タイトルを争い合うKeePer TOM’S LC500との差を、さらに詰めたいところだ。
逆に20周目を過ぎたあたりからバトンがペースを抑え始め、一時は10秒以上あったキャシディとの差が徐々に詰まっていく。ところが、28周目にKeePer TOM’S LC500が早くもピットイン。平川に代わるも、タイヤは無交換。燃料も最小限の補給としたことで、順位は5番手に留めることに成功。次の周にはWAKO’S 4CR LC500も山下に交代。その際にタイヤも交換したことで、平川が4番手に、そして山下が5番手につけることになる。
突然勢いを増した雨、そしてSCランで流れが変わる
35周目、2番手のCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rが、平手からフレデリック・マコヴィッキィに交代。もちろんタイヤを交換する。後続車両が早めにドライバー交代を行なっていたことから、大量のリードに守られていたRAYBRIG NSX-GTだったが、37周目のピットで山本との交代と併せて、やはりタイヤを交換する。だが、そのタイミングで突然雨が強くなってきたことから、タイヤがなかなか発動せず、アウトラップで一気にリードを失うことに。その1周だけでKeePer TOM’S LC500の平川にハイポイントコーナーで抜かれてしまう。
その直後、カルソニックIMPUL GT-Rが2コーナーでコースアウト! サンドトラップに捕らわれの身となってしまう。ここで惜しまれるのは、暫定トップを走っていたDENSO KOBELCO SARD LC500のヘイキ・コバライネンがすぐピットに入らなかったこと。しばらくするとSCが入ったのだから、ロスを最小限にできたかもしれない。もちろん「タラレバ」ではあるのだが、そうすれば……。リスタート後に入ったコバライネンと交代した中山は、9番手に後退する。代わってトップには平川が立つ。
リスタート後のペースに優ったのが、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rのマコヴィッキィだった。46周目にはRAYBRIG NSX-GTの山本をかわして、2番手に浮上する。さらにModulo Epson NSX-GTの牧野任祐も次の周には4番手に躍進! 雨足の変化に履いていたタイヤがよりマッチするようになっていたからだ。逆にWAKO’S 4CR LC500は48周目に再度タイヤを交換することに。このギャンブルがどう影響を及ぼすか注目された。
52周目のヘアピンで牧野は、MOTUL AUTECH GT-Rの松田次生をかわして、ついに3番手に浮上。その頃、平川とマコヴィッキィとの差は2秒を切るまでに。ここまでタイヤ無交換のKeePer TOM’S LC500は大きくグリップを失っており、54周目にはマコヴィッキィに1コーナーでトップを奪われてしまう。また、その直前にはRAYBRIG NSX-GTも再度タイヤ交換を強いられていた。そして牧野もまた、55周目の1コーナーで平川を抜いて、2番手に浮上。
苦しむ平川に対し、山下は8番手。もちろんペースに勝るのは山下だ。57周目には平川は松田にも抜かれ、4番手に落ちたのに対し、山下は前を行く2台の後ろ姿が見え始める。やがて背後に食らいつくまでとなるのだが、なかなか抜き去るまでには至らない。どうやら山下は、コンディションにフィットしたタイヤを装着できていたわけではないようだ。ようやくひとつ順位を上げたのが67周目。74周目にWAKO’S 4CR LC500が6番手に上がったのに対し、なんとかKeePer TOM’S LC500は4番手をキープした。
その間も、トップを行くマコヴィッキィは安泰、勢い十分だったはずの牧野ですら引き離す。最後はModulo Epson NSX-GTに約20秒差での圧勝で、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rが初優勝。LC500勢の新記録となるはずだった6連勝も見事阻止することとなった。平手にとってもマコヴィッキィにとっても久々の優勝となるだけに、ゴール後の喜びようは想像をはるかに超えていた。
「帰ってきました! そしてGT-Rの今季初優勝。僕がSUGOをよく知ることで、タイヤはこれで行こうと判断しましたが、それも大きかったですね。本当にベストな選択だったと思います。正直、今はすごく嬉しいです。今年は本当にすごい決断をして、チームを移ってきたし、初表彰台が初優勝! チームの仕事にも100点満点をつけたいと思います」(平手)
「これまでのバッドラックから、ようやく解放されたね。ここ3戦ぐらいクルマの調子は良かったんだけど、GT500はすごくレベルが高いから、細かいところがうまく噛み合わなくて。やっと勝てて、今は最高の気分だよ。こんなタフなレースの中で、チームもニスモもミシュランも最高の仕事をしてくれたね!」(マコヴィッキィ)
一方、WAKO’S 4CR LC500の大嶋/山下組もランキングトップを死守。KeePer TOM’S LC500の平川/キャシディ組との差は、7ポイント煮詰めるに留めていた。また、首の皮一枚ながら、MOTUL AUTECH GT-Rの松田/クインタレッリ組にも逆転チャンピオンの権利は残された。
タイヤ選択を的中させたARTA NSX GT3が序盤から一気に逃げる
GT300でもスタート時に選んだタイヤで、一気に明暗が分かれることとなる。ポールポジションのSUBARU BRZ R&D SPORT、3番手のHOPPY 86 MCはドライタイヤを選んでいたが、当然のごとくSCの先導が終わると、大きく順位を落とすことに。1コーナーで早くもARTA NSX GT3の高木はトップに立ち、HOPPY 86 MCの佐藤も鋭い加速が許されなかったことで、後続に蓋をした格好だったため、1周回ってスタンド前に戻ってきた時には、実に10秒のリードを確保していた。
2番手にはリアライズ日産自動車大学校GT-Rの平峰一貴がつけ、3番手はエヴァRT初号機X Works GT-Rのショウン・トン。グッドスマイル初音ミクAMGの片岡龍也が4番手に。しかし、トップを行く高木は逃げていき、そういった後続集団を寄せつけず。その中で勢いがいいのが片岡で9周目にはトンをパスして、11周目には平峰も抜いて2番手に浮上。
14周目、LEON PYRAMID AMGが3番手に浮上。前回から監督に就任した黒澤治樹に代わって起用された菅波冬悟が、予選13番手から激しい追い上げで、早くもその位置まで浮上。2戦目にして、この速さは驚異的とさえいえよう。やがて片岡の背後に着くようになるも、なかなか抜き去るまでにはいかず。ようやく前に出たのは35周目。
だが、それから間もなくカルソニックIMPUL GT-Rのコースアウトがあったことから、やがてSCが入ると判断。トップのARTA NSX GT3ともどもLEON PYRAMID AMG、グッドスマイル初音ミクAMGがピットイン。案の定、SCが導入されたから、ロスを最小限にできた、この3台が絶対的なマージンを確保することとなった。これでARTA NSX GT3は大量のリードを失ったものの、リスタート後は福住が何事もなかったかのように逃げていく。2番手には蒲生尚弥を抜いた谷口信輝が浮上する。
その谷口は一時、福住の背後にまで迫ったが、実はARTA NSX GT3は燃費走行を強いられていた。ペースを合わせる余裕を見せられては、グッドスマイル初音ミクAMGになす術はない。その後、ガソリンが保つことが明らかになると福住は再びペースアップ。やがて、一人クルージングを楽しむようになっていく。片岡もまた単独走行に。
対照的に激しくなっていったのは、LEON PYRAMID AMGの蒲生とリアライズ日産自動車大学校GT-Rのサッシャ・フェネストラズによる3番手争いだった。だが、それ以上の速さを見せていたのが、K-tunes RC F GT3の阪口晴南だった。新田守男との交代はSCラン後とあって、上位陣との差を広げてしまっていたが、路面とタイヤのマッチングにはどのクルマより優っていた様子。68周目にフェネストラズを軽く接触しながらも、さらに69周目には最終コーナーのアウトから蒲生をかわして3番手に躍り出る。予選18番手だったから、実に15台をかわしてきた格好だ!
その後、4番手争いに形を変えたが、蒲生とフェネストラズのバトルは続き、ラスト2周で順位を入れ替える。だが、蒲生は最後に意地を見せ、最終ラップに再逆転を果たしていた。
優勝はもちろん、ARTA NSX GT3が獲得。高木は最多勝の新田に、また1勝差にまで近づくこととなった。その新田と阪口がドライブするK-tunes RC F GT3もランキング2位に浮上したが、14.5ポイント差にまで拡大も許された。
「まさかSUGOで勝てるとは思わなくて、チャンピオンシップでも新田さんのところと、最終戦はガチ勝負。楽しみですね。スタートタイヤの選択は、ポールがドライタイヤを履いていたから、このまま雨が降り続ければ、マージン作れるな、と思っていたんですが、それ以上の結果になりましたね。10何年もチャンピオン獲っていないので、もてぎで何が起こるか分かりませんが、しっかりレースできるよう気を引き締めていきたいと思います」(高木)
「僕にとってGTでは初めての優勝なので、すごく嬉しいです。高木さんと代わってからの5周はつらくって、厳しいレースになってしまうのかな、と思ったんですが、タイヤが発動し始めてからはペースを上げられるようになって。さぁプッシュしようと思ったら、燃費がきついかも、って。それでちょっとだけ燃費走行をして、後半は大丈夫だと聞いたので、フルプッシュして逃げました。チームに感謝しています。素直に嬉しいです」(福住)
文:秦 直之
秦 直之
大学在籍時からオートテクニック、スピードマインド編集部でモータースポーツ取材を始め、その後独立して現在に至る。SUPER GTやスーパー耐久を中心に国内レースを担当する一方で、エントリーフォーミュラやワンメイクレースなど、グラスルーツのレースも得意とする。日本モータースポーツ記者会所属、東京都出身。
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