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レコードタイムが3秒も短縮された理由
長らく夏の終わりに1000kmレースとして争われてきた、SUPER GTの鈴鹿ラウンドが今年から5月にシリーズ第3戦として、そして300kmレースとして開催されることとなった。単純に時期の違いによる温度差だけでも、予選で好タイムが記録されるのは明らかだったが、現実は想像の遥か彼方を行っていた。ちなみに、従来のGT500のレコードタイムは1分47秒074。
Q1でARTA NSX-GTを駆る伊沢拓也が、1分44秒806を記録した時、誰もが一瞬「計測ミスでは?」と思ったに違いない。だが、直後にEpson Modulo NSX-GTのベルトラン・バゲットも1分44秒959を記して、「これは現実なのだ」と思い直すこととなる。続くQ2にいたっては、やはりARTA NSX-GTを駆る野尻智紀選手が、さらに短縮を果たして1分44秒319をマーク。開いた口がふさがらないとは、まさにこういう状況を指すのだろう。
それでは、なぜ3秒もの短縮が果たせたのか? ちなみに昨年レコードタイムが記録された時の気温は31度で、路面温度は37度。これに対して今年は19度、31度と、気温はともかく、路面温度は大差ない。純粋な気象条件の違いだけでは、せいぜい1分45秒台といったところではなかったか。だが、今年の予選にはもうひと要素加わった。ホームストレートに対し、強い追い風が吹いていたのだ。つまり陸上競技でいう「追い風参考記録」の状態となって、ストレートスピードを伸ばしたばかりか、1コーナーを回ってからのS字コーナー、さらに続く高速コーナーのほとんどが向かい風になった格好になる。
陸上競技であれば、正面から強い風を受けると、空気抵抗でタイムは悪化するが、現代のレーシングカーに欠かせない、ダウンフォースという押しつける力が強風によって、より高まってコーナーをいわゆる「オン・ザ・レール」状態としていたのだ。「空気の冷たい冬場のテストだって、44秒台なんてタイムは見たことがない」と伊沢。
「今日は走り出しからクルマは調子が良くて、予選中は何も触らずに済んだほどで、伊沢選手のタイム見てびっくりするとともに、これなら行けるという確信も得られました。その一方で、僕がQ2に挑む前はプレッシャーだけ(笑)。力入って最初のアタックでは2コーナーのインにつけなくて、そこでかえって冷静になれました。その後、タイムを出せたことは僕の自信にもなりましたね。ここまでの2戦、僕らはNSXの速さを引き出せずにいたので、ホッとしたというか、でもレースはまた別なので、どうしたらこの速さを維持できるか、しっかり備えたいと思います」と野尻は語っていた。
空力洗練のホンダ勢速し、ARTAを筆頭にトップ3を独占!
そのARTA NSX-GTはわずか6kgのウエイトしか積んでいなかったのに対し、同じ1分44秒台で続いた、RAYBRIG NSX-GTの山本尚貴、KEIHIN NSX-GTの塚越広大の速さも驚異的といえた。何しろ彼らのクルマには、ここまで重ねた好結果によって34kg、42kgものウエイトが積まれていたのである。その差がなかったら……という印象と、今年のNSX-GTはいかに空力マシンなのかという印象が重なり合う。
ちなみにレクサスLC500勢のトップは、KeePer TOM’S LC500の平川亮が4番手で、トップとコンマ8秒差、そしてニッサンGT-R勢のトップはカルソニックIMPUL GT-Rの佐々木大樹が6番手で1秒差。空力の洗練という意味で、これだけの差があると考えても良さそうだ。なお、前回のウィナーであるMOTUL AUTECH GT-Rは、唯一ウエイトハンデだけでなく、燃料リストリクターも絞られている影響か、松田次生がQ1を通過できなかったばかりか、最下位に沈んでしまっていた。
もちろん強風による好影響は、GT300にも及んでいた。このクラスの旧レコードタイム、1分57秒543に対して、Q2で1分55秒531にまで短縮を果たしたのは、K-tunes RC F GT3を駆る中山雄一だった。また、FIA-GT3勢が優勢だったかというと必ずしもそうでなく、2番手につけたのはJAF-GTのHOPPY 86 MCを駆る松井孝允で、3番手はFIA-GT3のグッドスマイル初音ミクAMGを駆る片岡龍也なら、4番手はJAF-GTのSUBARU BRZ R&D SPORTを駆る山内英輝だったからだ。勝負は蓋を開けてみるまで分からない、まさにそんなところか。
「去年、RC Fで2回勝てましたけど、ポールポジションは獲れなかったので、こんなに速く走れてすごく嬉しいです。決勝ではGT300はいろんな作戦をチームごと採ってきますから、どうなるか分かりませんが、僕らはトップからレースできる有利さを活かせられたら、と。みんなの力で優勝を勝ち取りたいです」と中山雄一。
なお、前回の優勝でランキングのトップに立ったARTA BMW M6 GT3は、ウエイトの厳しさもさることながら「鈴鹿では苦戦は承知の上」と語っていた高木真一の予想どおり、20番手に留まっていた。
スタートから快走するARTA NSX-GTに、無情のSCランが……
決勝当日は引き続き五月晴れに恵まれた一方で、強風はすっかりおさまって予選ほどの驚速が披露されることはなさそうだった。注目の決勝で、スタートをしっかり決めてトップで1コーナーに飛び込んでいったのはARTA NSX-GTの伊沢で、これに続いたのはRAYBRIG NSX-GTのジェンソン・バトン。そして1コーナーでKEIHIN NSX-GTの塚越をアウトからかわして、KeePer TOM’S LC500のニック・キャシディが早くも3番手に浮上する。
後続の激しいバトルを尻目に、早々と独走態勢に持ち込んでいった伊沢ながら、せっかく築いた11秒のリードがセーフティカーの導入によって水の泡となる。14周目のデグナー立ち上がりでDENSO KOBELCO SARD LC500のヘイキ・コバライネンがクラッシュしてストップしていたためだ。19周目からレースは再開。伊沢は鋭いダッシュで、またも後続を引き離したものの、バトンは手順を誤ったのか、キャシディにピタリと着かれたばかりか、1コーナーで逆転を許していまう。20周目にはバトン、塚越が同時にピットイン。それぞれ山本、小暮卓史に交代する。
トップを行くARTA NSX-GTがピットに戻ってきたのは25周目、それまでに伊沢は4秒半の差をつけており、同じ周にKeePer TOM’S LC500も入ってきたが、交代した野尻は、もちろん平川亮の前でコースに戻る。一方、平川のアウトラップのペースが今ひとつ。KEIHIN NSX-GTの小暮の先行を許してしまう。全車がドライバー交代を済ませると、もちろんトップを走っていたのは野尻だった。しばらくの間は山本を振り切れず、苦戦を強いられている感もあった野尻ではあったが、気持ちは切れていなかったようだ。何度も揺さぶりをかけてきた山本のプレッシャーに屈せず。
ARTA NSX-GTがポール・トゥ・ウィンを達成!
KEIHIN NSX-GTの小暮が37周目にピットに戻ってくる。塚越の走行中に接触があり、ドライビングスルーペナルティを課せられたためだ。これでせっかくの4番手を失ってしまう。一方、ARTA NSX-GTとRAYBRIG NSX-GTの接近戦は、残り10周となってもなおも続く。ようやく明確な差がついたのは、残り5周となってから。最後は山本に3秒差をつけて、野尻がトップでチェッカーを受けた。
「山本選手はいつも力強いレースをするので、いつ来るんだ、いつ来るんだと、すごいプレッシャーでしたが、最後まで気を抜かず、大きなミスなく走ることができました」と野尻。そして伊沢は「野尻選手にマージンを渡せるよう、最初からプッシュしていたのにSCで台無しに。速さだけでなく運も必要なんだと思いましたが、野尻選手もいいペースで走ってくれて、僕らのクルマはすごく速かったので……。まだ3戦しかしていないけど、すごくいいコンビだと自分でも思います。今のスピードがあれば、次のタイでもいいレースができるはず」と語っていた。
3位はKeePer TOM’S LC500が、そして4位はカルソニックIMPUL GT-Rが獲得。5位は序盤の接触で大きく順位を落としながらも、しっかり巻き返して中嶋一貴/関口雄飛組のau TOM’S LC500が獲得すれば、最後尾からの追い上げでMOTUL AUTECH GT-Rが6位でゴールした。なお、今回の2位で山本とバトンは、松田とロニー・クインタレッリを1ポイント差でかわし、ランキングのトップにつけることとなった。
タイヤ戦術がさまざまだったGT300、無交換のグッドスマイル初音ミクAMG大逆転なるか
GT300ではスタートを決めて、トップで1コーナーに飛び込んでいったのはK-tunes RC F GT3の新田守男で、これに続いて1コーナーに飛び込んでいたのはHOPPY 86 MCの松井だったが、あらかじめタイヤ無交換を決めていたため、タイヤのウォームアップに苦しみ、オープニングラップのうち6番手まで順位を落としていた。代わって2番手に浮上したのは、グッドスマイル初音ミクAMGの片岡だ。そして3番手にはSUBARU BRZ R&D SPORTの山内がつける。徐々に後続との差を広げていた新田ながら、13周目からのSC導入で6秒のマージンを失うことに。
一方、バトル再開となった17周目には、早くもドライバー交代を行うチームも現れる。その中には、7番手を走っていたHOPPY 86 MCや9番手を走っていたUPGARAGE 86 MCも含まれ、それぞれ松井から坪井翔に、中山友貴から小林崇志に代わるとともにタイヤは無交換。6番手だったD’station Porscheは藤井誠暢からスヴェン・ミューラーへの交代と併せ、タイヤを4本交換、8番手だったLEON CVSTOS AMGは黒澤治樹から蒲生尚弥への交代と併せ、タイヤをフロント2本だけ交換していたこともあり、この4台の並びは小林、坪井、ミューラー、蒲生へと改まる。坪井が小林の先行を許したのは、ドライバー交代に若干のロスが生じてしまったためだ。
一方、トップを争っていた3台のうち、最初にピットに戻ってきたのは3番手を走行中のSUBARU BRZ R&D SPORT。23周目に山内から井口卓人に交代し、タイヤは無交換! 次の周にはK-tunes RC F GT3も入り、新田から中山雄一にチェンジするとともに、タイヤは4本とも交換する。その直前に新田は山内に対して3秒ほど差をつけていたため、中山雄一は井口には抜かれずに済んだが、先に交代を済ませていた、UPGARAGE 86 MCの小林だけは先行を許してもいた。
K-tunes RC F GT3に代わってトップに立ったグッドスマイル初音ミクAMGは、ドライバー交代を31周目まで伸ばし、タイヤ無交換で谷口信輝をコースに送り出す。その結果、順位は? 谷口はトップを守ったものの、真後ろには小林がつけて、3番手には5秒差で中山雄一が。早く抜きたい小林だったが、谷口はしっかりブロックラインを通って、時にGT500車両も盾にして逆転を許さず。その間に詰めてきたのは中山雄一、いやそれだけではない。井口も坪井も近づいてきた。
K-tunes RC F GT3が初優勝、新田は最多勝記録に再び並ぶ!
まず動いたのが中山雄一だった。36周目のシケインで小林をかわし、さらに小林は井口にも1コーナーで抜かれてしまう。まわりはすべて無交換とあって、中山雄一には明らかにマージンがあった。無理に行くよりは機の熟するのを待っていたのだろう。そして38周目のシケインでスムーズに谷口をかわして、待望のトップに返り咲く。もちろん、その先は逃げの一手。なんとか2番手は守りたい谷口だったが、鬼ブロックも最後まで通じず。44周目のシケインで井口に抜かれてしまう。その井口もポジションを守ることは許されなかった。46周目のS字で前に出たのは坪井。無交換作戦では、HOPPY 86 MCに一日の長があったのだろう。と同時に、坪井は開幕戦の雪辱も果たすこととなった。
タイヤが完全に終わってしまったUPGARAGE 86 MCは6位で、グッドスマイル初音ミクAMGは8位でゴール。それまで続いていたバトルに食い込み、4位につけた平峰一貴/マルコ・マペッリ組のマネパランボルギーニGT3、5位につけた吉本大樹/宮田莉朋組のSYNTIUM LMcorsa RC F GT3は、ともにタイヤを4本とも換えていた。7位はLEON CVSTOS AMGが獲得。
中山雄一とともに久々に優勝を飾った新田は、これで通算19勝目となり、前回かつてのチームメイト高木に抜かれた最多勝記録を再びタイとすることに。「本当に予選から調子が良くて、雄一のすごいアタックでポールも獲れたからには、決勝でも後続を離したいと思っていて、実際そのとおりの展開になったはずなのに、まさかのSCで貯金が帳消し(苦笑)。でも、再スタート後も少し引き離せて、雄一に代わってからはハラハラドキドキの連続でしたが、勝てて本当に良かったです。しかし、こんなに早く最多勝記録を戻せると思いませんでした」と新田。そして中山雄一は「新田選手の最多勝(タイ)に貢献できて良かったです。今回はふたりでクルマとタイヤのパフォーマンスを100%引き出すことができました。谷口選手がなかなか抜かせてくれませんでしたが、抜いてきてからはその谷口選手の頑張りで、最後はかなり楽になりました」と語っていた。
ARTA BMW M6 GT3の高木とショーン・ウォーキンショーは20位で、ポイント獲得ならず。今回2位の松井と坪井が同ポイントで並ぶこととなった。
秦 直之
大学在籍時からオートテクニック、スピードマインド編集部でモータースポーツ取材を始め、その後独立して現在に至る。SUPER GTやスーパー耐久を中心に国内レースを担当する一方で、エントリーフォーミュラやワンメイクレースなど、グラスルーツのレースも得意とする。日本モータースポーツ記者会所属、東京都出身。
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