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これまでのデータが活かされない、鈴鹿での戦いには?
SUPER GT第3戦は、鈴鹿サーキットが舞台。昨年はベルトラン・バゲット/松浦孝亮組のEpson Modulo NSX-GTがGT500を、そして黒澤治樹/蒲生尚弥組のLEON CVSTOS AMGがGT300を制したものの、過去の結果は参考にならないのでは、という声が他のレースに増して聞こえてくる。というのも、鈴鹿でのSUPER GTは長らく1000kmで争われ続けてきたのに対し、今年から他のレース同様300kmで争われることになり、しかも時期も真夏の8月から5月に改められているからである。
距離の違いで生じるのは、今まで長丁場であったからこその戦術が通用しなくなるため。例えば、ピットストップの回数は定められていても、燃費に優れる車両なら、うち1回を燃料少なめでとか、タイヤに優しい車両なら、うち1回を無交換とするなど、ピット戦術の妙が勝敗を左右することもあったが、その要素は300kmでは極端に減る。時期の違いは、特にタイヤ選択に影響を及ぼし、従来のデータを流用することができにくくするためだ。さらに言うならば、昨年までは第6戦として開催され、今年は第3戦としての開催。当然、積んでいるウエイトハンデもかなり違ってくる。まだ極めて重い車両は存在しないので、絶対的に不利とはどの車両にも言えないからだ。
公式テストではRAYBRIG NSX-GTのバトンが最速!
そこでまた参照したいのが、公式テストのデータである。4月中旬に行われたテストにおいて、最速タイムを記したのは山本尚貴/ジェンソン・バトン組のRAYBRIG NSX-GTだった。岡山の開幕戦で2位に入り、苦戦を覚悟の上だった富士の第2戦で9位に入って、目下ランキングは3位。積んでいるウエイトハンデも、まだ34kgとあって勝負権がまったくないわけではない。1分46秒672を記録したのはバトンだったあたりが、可能性を一気に高める。
元F1チャンピオンとはいえ、当面はSUPER GTに手こずるのではないかという開幕前の予想は、いきなりタイヤ無交換で覆してみせたバトンである。また、手こずるとされた要因のひとつが初めて走るサーキットが多いということだったが、慣れている鈴鹿をさらに20秒近く速く走った経験もあるのだから、これはライバルにとって相当脅威に映るはず。
ただし、コンディション次第……とつけ加えようにも、この公式テストの最終セッションが雨に見舞われ、そこでもRAYBRIG NSX-GTは山本がトップタイムを記している。梅雨時にはまだ早いとはいえ、長期予報で伝えられる天気は、こと土曜日に関しては芳しくない。予選に関しては、RAYBRIG NSX-GTに賭けるべきなのかも!
ここまで見せた安定感、WAKO’S 4CR LC500に注目したい
だが、しかし……。前回のプレビューでは公式テストでの好調ぶりから、国本雄資/山下健太組のWedsSport ADVAN LC500、J.P.デ・オリベイラ/高星明誠組のフォーラムエンジニアリングADVAN GT-Rを有力視したが、そのヨコハマ勢は決勝でことごとくタイヤトラブルに見舞われ、入賞すら果たせなかった。逆に、そのテストで速さこそ際立ってはいなかったものの、決勝を見据えていたのでは……と予想した、立川祐路/石浦宏明組のZENT CERUMO LC500がポールポジションを奪い、同じく松田次生/ロニー・クインタレッリ組のMOTUL AUTECH GT-Rが優勝を飾っているのだから前言撤回。テストは嘘をつくこともあったのだ。
そこで視点を変えてみることとする。鈴鹿のレイアウトは大小さまざまなコーナーが、2本のストレートとともに組み合わされている。したがってテクニカルであって、ハイスピードでもあるレイアウトであるわけだが、テクニカルといえば岡山、ハイスピードといえば富士を誰もが思い浮かべるだろうから、その両方で目立っていた車両が有利なのではないか、と。
ずばり、それは大嶋和也/フィリックス・ローゼンクヴィスト組のWAKO’S 4CR LC500ではないだろうか。ここまで4位、5位と表彰台には届いていないが、そのためウエイトハンデは28kgと程よくもあり……。何より彼らの優勝への渇望感は人一倍。今回はいちばん注目してみたい。
予選で最前列に並べば、MC勢の勝機は一気に増す!
GT300では、これまでJAF-GT、特にマザーシャシー(MC)に有利とされてきた鈴鹿だが、それは冒頭でも触れたとおり、戦術の妙によるところが大きかった。また、エンジンパフォーマンスに関していうと、どうあってもFIA-GT3の方が有利であるから、MC勢は予選で一発を決めて、逃げるしか勝ち目がない。ひとたびFIA-GT3勢に前に出られたら、コーナーではなかなか抜くことができないからだ。長丁場であれば、数回のピットで差を詰め、やがて前に出ることができたが、ワンチャンスでは至難の技となる。
それでもなお、松井孝允/坪井翔組のHOPPY 86 MCが有利だと予想しよう。土屋武士監督兼エンジニアが言うように、「クルマの状態は最高である」ことを前提とし、なおかつ坪井がいい仕事をしそう。ご存知のとおり、このクルマで坪井は悔しい思いをした。だが、小林可夢偉の代役としてGT500に初挑戦、DENSO KOBELCO SARD LC500を意のままに操って高評価を得たことで、一皮剥けたと予想する。GT300を客観的に見続けたことで、直接の戦い方に大きなヒントを得られたのではないか? 予選でフロントローに並んだら、HOPPY 86 MCがそのまま逃げ切る可能性は十分にある。
公式テストでも高橋一穂/加藤寛規組のシンティアム・アップル・ロータスがトップタイムを記し、また中山友貴/小林崇志組のUPGARAGE 86 MCも過去3年間、予選で速さを見せてきただけに、すべてのMCが予選で上位につければ、十分勝つ権利があると思われる一方で、もし封じ込められてしまったら?
ARTA BMW M6 GT6の戦い方にも注目したい
いきなりダークホースとして挙げてしまうが、井口卓人/山内英輝のSUBARU BRZ R&D SPORTが第2戦で2番手を走行したこと、これが注目すべきポイントである。本来、苦手としていた富士を攻略してみせたのは旋回速度の高さだけでなく、エンジンパフォーマンスも高まったからに違いない。ただし、トラブルを抱えなければ、という条件つきではあるが。
FIA-GT3勢では、やはりメルセデスAMGか? 今年のBoPはストレートでの有利さを奪った感はあるものの、依然としてコーナリングスピードの高さは武器となっている。苦しい戦いの中でも、戦術を駆使して確実に上位につけ続けている、LEON CVSTOS AMGや谷口信輝/片岡龍也組のグッドスマイル初音ミクAMGが、そろそろ今季初優勝を挙げるのか? また、前回激しい追い上げを見せた、平中克幸/安田裕信組のGAINER TANAX GT-Rも、いよいよ本領発揮なるか。
その一方で、前回優勝を飾ってポイントリーダーに躍り出た、高木真一/ショーン・ウォーキンショー組のARTA BMW M6 GT3は、「どうしても勝ち目はない」と高木がきっぱり。だが、「今年は優勝より、チャンピオンが欲しい」とも公言しているだけに、このレースでどれだけ上位につけるか、それが今季のタイトル争いに大きな影響を及ぼすこととなるだろう。
秦 直之
大学在籍時からオートテクニック、スピードマインド編集部でモータースポーツ取材を始め、その後独立して現在に至る。SUPER GTやスーパー耐久を中心に国内レースを担当する一方で、エントリーフォーミュラやワンメイクレースなど、グラスルーツのレースも得意とする。日本モータースポーツ記者会所属、東京都出身。
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