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沖縄からやってきた紫のレフティモンスター、覚醒間近。山里謙心が鮮やかに叩き出したプレミア初ゴールの感慨 高円宮杯プレミアリーグWEST 静岡学園高校×サンフレッチェ広島F.Cマッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史先制ゴールを叩き出したサンフレッチェ広島F.Cユース・山里謙心(7番)
「もう打った瞬間に、『これは入ったな』と思いました」
山里謙心は自らが撃ち抜いた軌道を、その視界にハッキリと捉えていた。ボールがゴールネットへと突き刺さった瞬間、今までに味わったことのないような感情が内側から湧き出てくる。
咆哮。絶叫。沖縄から吉田へと単身で飛び込んだサンフレッチェ広島F.Cユースのレフティモンスターへ、笑顔のチームメイトが次々に駆け寄ってくる。このチームに加わって3年目にして、ようやく生まれたプレミアリーグ初ゴールは、マジで最高だった。
「ガンバに負けてから中2日と間隔も短い中で、次は絶対に勝点3を獲ることを考えていました。今日の試合に勝つために全員が話し合って、アップから元気良くやれましたし、普段より気合いが入っていたと思います」(山里)
プレミアリーグWEST第5節。アウェイに乗り込んで静岡学園高校と対峙する一戦。前節のゲームでガンバ大阪ユースに0-3で完敗を喫していただけに、広島ユースの選手たちは必勝を期して、この日の90分間に向けた準備を整えてきた。
勝利への意欲は開始17秒に強く滲む。キックオフ直後。相手のビルドアップへ小林志紋が激しく寄せると、こぼれ球を児玉司が頭で繋ぎ、山里は無理な体勢から強引にボレー。ボールは枠の左へ逸れたものの、積極的なハイプレスからいきなりのフィニッシュ。素晴らしい形でゲームを立ち上げる。
その時は唐突に訪れた。19分。右サイドから太田大翔が入れた浮き球を小林が頭で触り、受けた宗田椛生は中に切れ込みながら足裏で後方へ。自分の目の前に流れてきたボールを確認した山里は、一瞬でさまざまな選択肢を頭の中に思い浮かべる。
「自分の前にボールが落ちてきた時に志紋が呼んでいて、相手がちょっと来ていたので、『ヒールしようかな』と思ったんですけど、もともと『今日は絶対決めてやろう』と思っていたので、『振ったろう!』と思って振りました」。左足一閃。ボールは完璧な軌道を描いて、ゴール左スミを力強く射貫く……
もともとは沖縄出身。ヴィクサーレ沖縄FCジュニア時代はキャプテンとして全国大会に出場し、東京ヴェルディや柏レイソルと好勝負を繰り広げたことも。高校進学時は複数のJクラブユースから声が掛かったが、「『プレミアでやりたいな』という想いがありましたし、よりサッカーに集中したいと思っていた中で、この環境ならレベルアップできるなと思ったので、サンフレッチェを選びました」と広島ユースへの入団を決意し、吉田の地で新たなキャリアをスタートさせる。
だが、ここまでの2年は思ったような活躍を残せたとは言い難い。とりわけ昨シーズンは開幕戦でプレミアデビューを飾るも、直後に靱帯のケガで戦線離脱。「そこから全然コンディションが上がらなくて、自分のプレーが全然出せないまま1年が終わってしまって、相当悔しいシーズンでした」。同級生たちの活躍する姿を見つめることしかできない現状が、とにかくもどかしかった。
勝負の1年と位置付けて臨んだ高校ラストイヤーも、プレシーズンに足首を痛めた影響もあって、開幕戦のサガン鳥栖U-18戦は74分からの途中出場。続く第2節の東福岡高校戦もベンチスタートを強いられたが、今後の転機になりうるようなタイミングは、この試合に待っていた。
「もともとずっとボランチをやっていたんですけど、東福岡との試合の後半はシャドーに入ったんです」。後半開始から山里が解き放たれたのは“新ポジション”。ここで好パフォーマンスを披露すると、そこからの2試合は2シャドーの一角としてスタメン起用が続くことになったのだ。
「シャドーは自分のポジショニングでほぼ決まるなという感覚がありますし、自分が少し落ちて、志紋をフリーにしてあげたりできるかなと。あとはボランチだったら組み立てが大事ですけど、シャドーはボールを受けてからが勝負で、結果も求められているので、そこにこだわらないといけないなと感じています」
シャドーで果たすべき役割が整理されてきた中で、自分へ課していた“結果”を残せたことが、今後への大きな自信になることは想像に難くない。ただ、チームは87分にPKで同点弾を許し、結果は1-1のドロー。失点直前に交代でベンチに下がっていた山里は、勝利のヒーローになり損ねてしまう。
「自分はヒーローキャラではないんですけど(笑)、今日はちょっと『ヒーローになれるかな』と、心のどこかでは思っていたかもしれないですね。最後はもうベンチで見ていて、悔しい想いしかなかったですし、自分の結果でチームを勝たせられなかったので、次は勝たせられるゴールを決めたいなと思います」。次は自分のゴールで勝利を手繰り寄せる。さらに辿るべきステップが、明確に見えてきたようだ。
今シーズンの開幕前に渡された番号は7番。『サンフレッチェ広島の7番』でレフティと言えば、クラブの歴史を支えてきた森埼浩司アンバサダーがすぐに連想されるが、本人も「今シーズンは7番だと聞いた瞬間に、すぐ思いました」とレジェンドの存在を意識しているという。
この番号を背負うからには、もうやらない理由はない。自分を信じてくれる人たちのために、支えてくれる人たちのために、2025年を100パーセントで走り抜く。
「もちろん強い覚悟はありますね。地元の沖縄は遠いので、寂しい気持ちはありますけど、この環境がやるしかないという気持ちを芽生えさせてくれますし、ここまでは正直苦しいことや悔しいことがいっぱいあった2年間でしたけど、今はプレミアにも出させてもらっているので、どんどん活躍していかないといけないなと思います。やっぱりチームが勝つのが第一で、その中で自分を輝かせるために練習を頑張って、最終的にチームがプレミアで優勝して、個人でも良い結果が出せればベストなのかなと思います」
沖縄が育んだしなやかな才能、覚醒間近。広島ユースの背番号7を託された『島人ぬ宝』。プレミア初ゴールを記録した山里謙心は、これからも自らとチームの未来を、磨き続けてきた左足で進取果敢に切り拓く。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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