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サッカー フットサル コラム 2024年12月3日

保土ヶ谷に響いた歓喜の手拍子と歌声。崖っぷちから這い上がった横浜FCユースが纏う絶対的一体感 高円宮杯プレミアリーグEAST 横浜FCユース×鹿島アントラーズユースマッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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執念の勝利で優勝争いに踏みとどまった横浜FCユース

指揮官には予感があったという。

「本当に選手たちが思った以上の力を出してくれたのかなと思いますね。今週しっかりと準備してきた中で、変にメンタル的に追い込まれて、普段の実力が出せなかったりとかということもあるのかなと思ったんですけど、思った以上にみんなが落ち着いていましたし、アップを見ていても『意外と緊張していないんだな』って。だから、『たぶんやってくれるんじゃないかな』と思っていました」

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終わったばかりの試合をそう振り返るのは、横浜FCユースを率いる和田拓三監督だ。プレミアリーグEAST第21節。勝点3差で追っている首位の鹿島アントラーズユースをホームに迎えた一戦。負ければ優勝の可能性が潰えるゲームのピッチに、若きハマブルーの選手たちは颯爽と足を踏み入れる。

立ち上がりから球際での戦いも、シビアなエリアでのデュエルも、退くつもりなんて毛頭ない。「前日の練習からみんなで『この日にすべてを懸けろ』みたいな感じでやっていたので、それが球際に繋がったのかなと思います」とキャプテンの小漉康太が話せば、「今日は全員の気迫や言葉がかなり出ていて、普段以上に気持ちがみんな入っていましたし、それを空回りせずに出し切れたかなと思います」とは守護神の大亀司。強度が生命線の鹿島ユース相手に、同じ土俵でやり合う姿勢を崩さない。

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横浜FCユースは苦しんでいた。17節終了時では首位に立っていたものの、そこから悪夢の3連敗。その間に連勝を続けていた鹿島ユースに追い抜かれ、順位も3位まで後退してしまう。ただ、和田監督はチームの空気感に確かな手応えを感じていたようだ。

「どうしてもネガティブに考えてしまうところも選手たちにはあるだろうなと思ったんですけど、そこはあえて触れないで、ずっと言い続けていることにもう1回しっかり立ち返ってやっていこうとしていた中で、実際に3連敗している時もそんなに練習の雰囲気は悪くなかったんですよね」

試合中のアップエリアからは、ベンチメンバーのポジティブな声が飛び交う。とりわけ家田唯白は実に11試合ぶりにスタメンを外れたにもかかわらず、誰よりも大声でピッチの選手たちを鼓舞し続け、チーム屈指のムードメーカーぶりを遺憾なく発揮してみせる。

「メンバーに入れないとか、試合に出られないとか、そういう悔しい想いはみんなが絶対に持っていると思います。それは選手として当たり前のことで、ただ、練習ではそう思っていていいけれど、試合になった時にみんなの一体感は必ずプラスアルファになるという話は常にしている中で、そこで自分の感情を殺して、チームのためにやれる選手は増えてきているのかなと思いますね。凄く良いサポートをしてくれていると思います」(和田監督)

この試合の重要性はみんながよくわかっている。それぞれが今やれることに、やるべきことに、全力で向き合う。シーズンを通じてチームとして積み上げてきたものが、ピッチでも、ベンチでも、最適な形で表出されていく。

38分には佃颯太が先制ゴール。前半のうちに1点をリードしたホームチームは、ハーフタイムを挟んでもう一段階アクセルを踏み込む。51分。右サイドを中台翔太が抜け出してクロスを上げると、全速力で飛び込んできた岩崎亮佑のシュートが確実にゴールネットを揺らす。

殊勲のスコアラーには、前日から決めていたゴールパフォーマンスがあった。「佃もやっていたと思うんですけど、昨日ヤリクから『決めたらこのゴールパフォーマンスをして』と言われていたので、それをヤリクと一緒にできたので良かったと思います」。飛び出してきたチームメイトと“マスクパフォーマンス”。水色の笑顔の花が咲き誇る。

岩崎と一緒にパフォーマンスを決めた“ヤリク”ことヤロスラフ・シュトンダは、一昨年の秋にウクライナから横浜へ避難してきたGK。現在は横浜FCユースでトレーニングに励んでおり、もうチームにもすっかり溶け込んでいる。

「凄く日本語も上手ですし、今日もヤリクのおかげでゴールを決めた時にいいパフォーマンスができて凄く嬉しかったです。ウクライナは厳しい状況だと思うんですけど、そういう中でもヤリクが元気に、楽しそうにプレーしているのは自分としても凄く刺激になるので、良い関係性でやれていると思います」(岩崎)。この一連にも彼らが日常から纏っている雰囲気が滲む。

ファイナルスコアは2-0。崖っぷちの首位攻防戦を横浜FCユースは力強く制してみせる。「正直和田さんにも『優勝争いはあまり気にせず、とりあえずアントラーズに勝つことだけを意識してやれ』と言われていたので、そこのプレッシャーはあまりなかったかなと思います。前日の練習から(家田)唯白たちが盛り上げてくれて、全員で勝てたことも良かったです」(小漉)。チーム全員で手繰り寄せた大きな白星。試合後のスタジアムには、歓喜の手拍子と歌声が響き渡った。

 

プレミアリーグEASTの覇権を巡る状況は、熾烈を極めている。首位の柏レイソルU-18、2位の横浜FCユース、3位の鹿島ユースがいずれも勝点38で並ぶ大混戦に。柏U-18との得失点差は5ポイント離れているため、横浜FCユースが逆転優勝を成し遂げるには、最終節にできるだけ多くのゴールを奪って勝つ必要がある。

ただ、ここまで来たらもう迷いはない。それぞれが今やれることに、やるべきことに、全力で向き合う。それ以外にタイトルを引き寄せる方法はない。自分たちを信じて、目の前のピッチを、全力で駆け抜けるだけだ。指揮官の地に足のついた言葉が頼もしい。

「今日勝って最後に繋げられたというのは、凄く意味があるというか、選手もまた緊張感を持ってやれると思います。ただ、自分たちのサッカーができなくなってしまうというのは、選手としても、チームとしても一番良くないことですし、『開幕だろうが、最終戦だろうが、同じサッカーを積み上げていく』ということは口酸っぱく言い続けているので、それを最後にもう1回表現するために、この1週間は練習を続けたいなと思います」(和田監督)

泣いても、笑っても、残されたリーグ戦はあと1試合のみ。みんなで創り上げてきた一体感を、1週間のトレーニングでより強固なものにして、最後の90分間に向かっていく。丁寧に1年間を積み重ねてきた横浜FCユースがたどり着く2024年の結末は、果たしていかに。


 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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