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サッカー フットサル コラム 2024年11月29日

遅れてきた35番のセンターバックの躍動。前橋育英高校・鈴木陽がチームにもたらすポジティブな影響の意味 【NEXT TEENS FILE.】

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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前橋育英高校の35番を背負ったセンターバック・鈴木陽

その35番のセンターバックは、突然タイガー軍団の最終ラインに現れた。9月15日。プレミアリーグEAST第14節。川崎フロンターレU-18とホームで戦う前橋育英高校のメンバーリストに、見慣れない名前を見つける。鈴木陽(のぼる)。生年月日から計算すると、3年生だということがわかる。

慌ててその1つ前の試合、リーグ後半戦の初戦となった昌平高校戦の試合記録を見ると、メンバー表の上から5番目にその名前は記載されていた。つまりはスタメンだったということ。その試合が鈴木にとってはプレミアリーグデビューだったのだ。端から見ればいきなりの抜擢のように映ったが、「プリンスリーグに出ている時から最後の砦というか、しっかりゲームを引き締めてくれる役割をしていたんです」とキャプテンの石井陽が教えてくれる。

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「前期はプリンスで全試合に出て、夏休みにAチームに上がることができて、プレミアに出られるようになったのは昌平戦からでした」。鈴木自身もそう証言するように、もともと今季のスタートはプリンスリーグ関東1部を主戦場とするBチーム。ただ、キャプテンとしてすべての試合に出場。3バックの中央で関東の強豪相手に腕を磨いていたという。

試合が始まると、その正確なビルドアップ能力が目を引く。パスワークを重視するスタイルの前橋育英はセンターバックにも足元の上手さが求められるが、横にいる青木蓮人とともに左右へパスを散らしながら、攻撃の起点を作り出していく。

例年以上の酷暑となった夏。チームは大きな変化を求められていた。プレミアは開幕3連敗スタート。そこから少しずつ持ち直したものの、前半戦を終えての順位は8位。加えてインターハイ予選でも、準決勝でPK戦の末に敗れて全国出場を逃すなど、なかなか歯車がうまく噛み合わない状況下で、山田耕介監督は“競争”を促してきたという。

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「この夏は競争が一番でしたね。いろいろな選手をいろいろなポジションで試したりして、その結果としてノボル(鈴木)が出てきたと。あの子は効いていますよ。賢いです」。そこで台頭してきたのが、プリンスリーグで着実に結果を残していた鈴木だったというわけだ。

もちろん本人もBチームでの時間を過ごしていく中で、期する想いは携えていたという。「ずっとトップチームで試合に出ることは考えていましたけど、トップチームで出るだけではなくて、活躍することが目標だったので、試合に出たらしっかり結果を残して、レギュラーに定着するイメージはありました」。巡ってきたチャンスは絶対に逃さない。ここからのし上がってやるという確かな覚悟があった。

川崎U-18の強力なアタッカーたちと互角に渡り合いつつ、0-0で迎えた74分には正確なフィードを前線に送り届けると、DFに競り勝ったオノノジュ慶吏が先制点を叩き込む。この1点はそのまま試合の決勝点に。昌平戦は逆転負けを喫していたため、鈴木は自身のプレミア初白星をホームで、しかも完封勝利で手にすることとなる。

「彼の良さは自分もわかっていますし、そこを前節も今節もしっかり発揮できていたので、徐々にみんなからも監督からも信頼を掴んでいるんじゃないかなと思います。下のカテゴリーから良い選手がどんどん出てくると、もともとプレミアにいた選手も刺激になりますし、良い競争にもなるので、チームの活性化に繋がるなと思いました」(石井)。一際大きな35番を背負う『遅れてきたセンターバック』の存在が、この日の90分間の中で強く印象に残った。

11月24日。プレミアリーグEAST第20節。前橋育英は大一番を迎えていた。この日の相手は首位を走る鹿島アントラーズユースだが、勝点差はわずかに3ポイント。10月以降のリーグ戦では4連勝を記録しており、さらに高校選手権県予選も勝ち抜き、全国大会出場を手繰り寄せる。その間の公式戦の連勝は7まで伸びていた。

プレミアデビューを飾った昌平戦以降、すべての公式戦にスタメン出場を続けてきた鈴木は、この日もセンターバックの一角として当然のように試合開始からピッチへ送り出される。「しっかり自分の特徴を出せば、プレミアでもやれるようになってきたとは思います」。この2か月強の時間を経て、地道に、だが確実に自信を膨らませてきた。

試合は開始2分で鹿島ユースがFKの流れから先制。前橋育英はいきなりのビハインドを負ったが、鈴木と久保遥夢のセンターバックコンビに、石井と柴野快仁のドイスボランチが丁寧にボールを動かしていく中で、チームは徐々に攻撃のリズムを掴んでいく。

「僕は技術とか身体能力はないので、コーチングもそうですし、全体を見て予測や準備をしてプレーするのが持ち味だと思います」。そう自己分析する通り、鈴木のポジショニングはいつでも絶妙。ビルドアップ時も、被カウンター時も、的確な位置取りでその時々での最適解を導き出していく。鹿島ユースのアタッカー陣にもそれぞれ異なる特徴を持つタレントが揃うも、流れの中からは決定的なチャンスを作らせない。

チームは67分に久保のヘディングで1-1の同点に追い付いたが、86分に再びFKから失点。これが決勝点となり、ファイナルスコアは1-2。優勝争いからは一歩後退する黒星を突き付けられる。ただ、「アントラーズはセットプレーが得意だと事前からわかっていたんですけど、そこからの2発で入れられてしまったので、非常に悔しいです」と唇を噛んだ鈴木のパフォーマンスは、世代最高峰のステージでも十分に通用するそれだった。

ハイレベルな環境に身を置いているからこそ、気付いたこともある。「徐々に成長しているとは思うんですけど、まだまだヘディングは向上できますし、自分は身長が小さいことを言い訳にしない選手になりたいので、競り合いでも勝てるようにトレーニングしたいと思いますし、あとは1対1でも相手のエースを封じ込められるようにしていきたいです」

その置かれた立場が以前とは変わったとしても、自分のやるべきことはこれまでと何も変わらない。できることを1つでも増やすべく、日々のトレーニングに真摯に取り組んでいく。その積み重ねが今の自分を築き上げていることも、鈴木ははっきりとわかっている。

シーズンも最終盤。残された試合も、時間も、もう限られている。ここからの戦いに向けて、改めて口にした決意が頼もしい。「もう引退まで1か月半と、本当に時間も少なくなってきているので、残りの試合は全部勝てるように、これからまたトレーニングしていきたいです。今日のアントラーズには際の部分で上回られたので、この負けを良い負けにして、選手権で優勝できるように繋げていきたいです」

苦しい夏を乗り越え、逞しく成長を遂げてきたチームの象徴とも言うべき、『遅れてきた35番のセンターバック』。Bチームでの奮闘をステップに、プレミアを戦うAチームのレギュラーまで駆け上がってきた鈴木陽の背中が、多くのチームメイトにポジティブな影響を与え続けていることに、疑いの余地はない。


 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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