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国立に集まったファンを魅了したレアル・ソシエダの久保建英
レアル・ソシエダードが来日して東京・国立競技場で東京ヴェルディと対戦した。
といっても、国立に集まった4万0150人の観客のお目当ては「試合」よりも「久保くん」だったのだろう。試合中もバックスタンドでブラスバンドが演奏を続けるという“田舎臭い”演出も相まって、前半はそんな顔見世興行的な雰囲気が漂っていた。
そもそも、両チームとも真剣勝負ができるような状態ではなかった。
R・ソシエダードは5月25日のラリーガ最終節で強豪アトレティコ・マドリードと対戦したばかり。つまり「中3日」という強行日程だった。チャンピオンズリーグも並行して戦いながらラリーガ38試合を終え、疲労を蓄積させた状態での日本までの長距離フライトはかなり厳しい条件だったはずだ。
ただ、1シーズンを戦い抜いた直後だけに、何人かの主力級が抜けたとしてもチームの完成度は高く、立ち上がりから正確でスピードのあるパスを回して東京Vを圧倒した。
一方の東京Vも強行日程だ。
26日の日曜日に昨年のJ1王者であるヴィッセル神戸を1対0で破った試合から中2日。しかも、次の週末、6月2日には北海道コンサドーレ札幌戦を控えているのだ。
従って、R・ソシエダード戦にフルメンバーを出場させることは不可能。控えに回ることが多い選手やベンチ入りの機会が少ない若手、さらにユースチームの選手までもがリストに名を連ねた。
東京Vの城福浩監督は3バックを選択したが、前半は相手にボールを持たれる時間が長くなり、ほとんどの時間で5バック気味。しかも、初めて組んで戦う選手も多くて連動性を欠いており、R・ソシエダードのパス回しに振り回される時間が長くなってしまった。
コンディションは悪くてもR・ソシエダードはさすがにラリーガの上位。1人ひとりのテクニックは確かで、長いパスを回して、ピッチを大きく使って攻撃を仕掛けてきた。攻撃のバリエーションは多くなかったが、何人かの特別な選手が変化を加えてくる。
たとえば、右センターバックのアルバロ・オドリオソラからの正確なフィード。あるいは、左サイドバック、ホン・アランブルのインナーラップ。そして、なんといっても右インテリオールのブライス・メンデスの視野の広いパス回し。
さらに、東京での試合ということでR・ソシエダードの選手たちも意識的に右サイドハーフの久保建英にボールを預ける場面が多かった。
左ウィングバックとして久保と対峙した東京Vのウィングバック新井悠太らも意地を見せて戦いを挑んだが、久保もさすがのテクニックを見せてカットインする見せ場も作り、「久保目当て」のお客さんを沸かせた。
久保建英とマッチアップした東京Vの新井悠太
東京VはR・ソシエダードの大きなパス回しに振り回され、連携が取れない状態で右往左往しながらも、なんとか守備が頑張って耐え続けた。そして、20分を過ぎた頃にはなんとか試合の流れに慣れて、またお互いの動きも把握できるようになり、食野壮磨と山本丈偉という若いボランチからの鋭いパスで山田剛綺や山見大登が走って、チャンスの芽のようなものを作り始めた。
食野(亮太郎の実弟=23歳)や山本(理仁の実弟=18歳)はともにテクニックのある選手だが、J1リーグではあまり良さを出せないでいる。だが、こうした親善試合であれば、相手の守備の強度が高くないので、攻撃面での良さを発揮できる。
こうして、スコアレスのまま迎えた前半終了間際にR・ソシエダードが先制ゴールを決めた。
左サイドハーフのジョン・バルダのクロスをDFの山越康平が頭でクリアしたが、ゴール正面でウルコ・ゴンサレスが拾った瞬間、東京Vの守備陣が混乱し、ゴンサレスはノープレッシャーでシュートを決めた。
ウルコ ゴンサレス(中央)のゴールでレアル・ソシエダが先制
このシュートは間合いを詰めていたDFに当たっておかしな回転がかかっており、バウンドも変化。東京VのGK長沢祐弥にとっては不運な失点だった。
こうして「完成度は高いがコンディションの悪いR・ソシエダード」と「疲労はないものの、普段と違った並びで連携が悪い東京V」という非対称的な前半の戦いが終了した。
ゲームが後半に入ると試合の様相が変わった。
東京Vの若い選手たちが同点を目指して積極的に攻撃を仕掛け、にわかに真剣勝負に近い試合となったのだ。ブラスバンドの演奏は続いていたが、ゴール裏からは東京Vに対するチャントも聞えてきた。
試合の流れが変わった原因の一つは、ハムストリングに違和感を訴えた久保が後半開始早々にピッチを後にしたこと。これでは「久保目当て」の観客も、当然、試合に感心を移さざるをえない。
後半3分にベンチに下がり、右太もも裏を気にしながら戦況を見守る久保建英
そして、前半をやや不運な1失点だけに抑えた東京Vの選手たちが自信を持ち、またハーフタイムには城福監督から「勝負に持ち込め」と指示を受けたのだろう。積極的に同点を狙って攻撃に出た。
また、東京Vがトップに木村勇大を入れたことも変化の原因。前半、ワントップでプレーした山田剛綺は前線で動き回ってパスを引き出すタイプだが、木村はトップでボールを収めることができるので、ターゲットがはっきりしたのだ。
また、シャドーストライカーの位置には明治大学の選手で、東京Vに強化指定選手として加わった熊取谷一星が入ったが、積極的にドリブルを仕掛けて攻撃を活性化させることに成功した。年代別日本代表経験もあり、来シーズンの入団も決まっている熊取谷は東京Vの選手として初めてピッチに立ったが、そのポテンシャルの高さを示した。
途中交代で入った明治大(強化指定選手)の熊取谷一星がシュートを放つ
前半はシュート1本だけに抑えられていた東京Vだったが、後半は6本のシュートを放ち、決定機も何度かあった。ただ、ゴール前での冷静さを欠き、最後まで同点ゴールを決めることはできなかった。
東京Vは83分にはユースチーム所属の川村楽人と仲山獅恩も投入したが、後半のアディショナルタイムにR・ソシエダードに追加点を奪われ、突き放された。アルセン・ザハリャンがトップのシェラルド・ベッカーに当て、ベッカーが落としたボールをザハリャンが強烈に決めたゴールだった。
後半、R・ソシエダードも控え選手を次々に投入して、攻撃の連動性を失っていたが、それでも決定力の違いを見せつけた。
「控えの選手のレベルの違い……」
記者会見で城福監督は、いつものJリーグの試合後と同じようなコメントを発した。
集合写真
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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