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積み上げてきた“レンガ”の先にある楽しさ。ファジアーノ岡山・梁圭史監督が感じる「プレミアリーグを戦うこと」の意義 高円宮杯プレミアリーグWEST ファジアーノ岡山U-18×鹿児島城西高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史初めてのプレミアリーグを戦うファジアーノ岡山U-18
「楽しいですけど、大変ですね。一瞬でやられるので。でも、大変な方が楽しいじゃないですか。このギリギリの勝負が一番楽しいわけで、もちろん勝てば楽しいですし、ギリギリで負けるのは悔しいですけど、それが日常にあるのが一番いいことなのかなって」
クラブ史上初めての参戦となるプレミアリーグの印象を問われ、ファジアーノ岡山U-18を率いる梁圭史監督はそう口にする。常に繰り広げられるギリギリの勝負の世界に、もう彼らはどっぷりと身を投じてしまったのだ。
翌日にJ2の開催を控えたシティライトスタジアムのすぐ横。岡山県総合グラウンド補助陸上競技場に『プレミアリーグ』と書かれたのぼりが立ち並ぶ。連敗、連勝、また連敗。6試合を終えて2勝4敗という成績で迎えたプレミアリーグWEST第7節は、同じく初昇格の鹿児島城西高校とホームで対峙する一戦だ。
このリーグを戦うことの楽しさは、選手たちも理解し始めている。チームの10番を任されている磯本蒼羽は「プレミア、メッチャ楽しいです。自分たちも含めて、どちらかが偏って強いということがないリーグで、ほぼ五分五分の試合が多いので、『結果を出したい』と思いながら、楽しんでいます」と話す。
ここまで3ゴールと好調をキープしていた2年生の末宗寛士郎は「プレミアは上手い人ばかりですし、その中で自分の特徴でもあるシュートという部分は今のところ通用しているので、続けてやっていきたいですけど、守備の部分で強度がまだまだ足りないと思っています」と言及。自身の中に手応えと課題を抱えている様子が窺える。
3連敗は避けたいゲームがキックオフされると、ボールは岡山U-18が握る。川上航生と繁定蒼のセンターバックコンビに、キャプテンを託されている中盤の藤田成充も加わって、丁寧にパスを動かしながら、テンポアップするタイミングを探っていく。
試合が動いたのは39分。磯本が左サイドから右足でニアへ入れたクロスに、末宗が頭から飛び込んでゴールネットを揺らす。「良いところで仕掛けて、良いボールを蹴れたのかなと思います」(磯本)「蒼羽くんが持った時に、ちょっと溜めて入ることを意識していて、ボールが良かったので決めるだけでした」(末宗)。前半は1点をリードして、ハーフタイムへ折り返す。
失点は一瞬の隙を突かれたものだった。47分。相手のロングスローをいったんは弾き返したものの、クリアを引っ掛けられた流れからクロスを許し、ヘディングでの同点弾を献上。以降は鹿児島城西のセットプレーを中心にした攻撃が増え、ホームチームは耐える時間が長くなっていく。
「昨日もセットプレーの練習から、『流れが切れた時はアラートに』という状態は全員で雰囲気も作って保っていたのに、そういったところで後半の一発目にやられてしまったので、そこの集中力はまだまだ足りないところですけど、そのあとも連続失点しなかったのは良かったなと思います」(藤田)。ファイナルスコアは1-1。勝てなかったが、負けなかった。苦しいゲームの中から、岡山U-18は勝ち点1を引き寄せた。
ファジアーノ岡山U-18・梁圭史監督
「プレミアリーグでは『この隙でやられた!』という方が多いかなと。『89分30秒集中していても、この一瞬でやられるんだ』というイメージです。だからこそ、その中で出てきた逞しさや、1つの試合に懸ける思いは一戦ごとに増していっているなと思っています」と語った梁監督は、プレミアリーグで戦うことが選手たちの成長に与える影響とともに、チームとして今まで積み上げてきたものの効果をひしひしと実感しているという。
「去年の1年でも選手たちはメチャクチャ成長したんですけど、この1月から5月までの5か月でも凄く成長していっているなと思っています。ただ、それは先人の人たちから続く積み上げが、ちょっとずつではあるけれど、形になってきているのかなと。だから、今の選手たちもメチャクチャ頑張っているんですけど、『その成長は自分たちだけのおかげじゃないよ』ということは伝えていますね。僕は一番上にあるレンガを積もうとしているだけなので、今までちょっとずつ積み上げてきたものが、目の前にあるのかなと思います」
まだ中国リーグを戦っていたチームへ2005年に選手として加入し、指導者への転身後はU-18の初代監督も務めてきた梁監督は、今年で在籍20年目。「もう何年目かは数えないようにしていますけどね」と笑ったこの人こそ、ファジアーノ岡山というクラブの『一番下にあるレンガ』を積み上げてきた1人でもある。
だからこそ、その視野は岡山のサッカーそのものにも向けられている。「今日は来ていないんですけど、政田でやる時はジュニアユースの選手たちが来てくれて、トップチームのサポーターの方と混じって応援してくれることが凄く力になりますし、そういう選手がプレミアのゲームを見てくれることで、『自分もこの舞台でやりたい』と思うような好循環になったら、より素晴らしいなと思いますよね」
「岡山の他の2種年代の指導者の方も試合を見に来てくれたり、僕らを見に来ているかはわからないですけど(笑)、プレミアリーグを見ることで基準も絶対に上がると思うので、それはかなり良い環境ですよね。それこそトップチームもJ1という目標があることによって、いろいろな視野も、見える景色も変わってくると思いますし、そういったことをいろいろなカテゴリーでやっていくことで、岡山にサッカー文化が根付いていくのかなと思います」
梁監督はサッカーの世界に生きてきた人だ。きっともう勝負の懸かった日常に身を置かずにはいられないのだろう。プレミアで指揮を執ることの楽しさについては、こう表現してくれている。「いろいろな特徴を持つチームがあるので、ちょっとでも隙があるとやられますよね。『これでやられるか』というシーンは凄くあるので、トレーニングもメチャクチャ集中力が高くなりますし、ゲームになると一瞬も油断できないシーンはメチャクチャ多いので、もうヒリヒリするというか、僕も見ていてドキドキしますよ(笑)」
そう言って浮かべた笑顔は、まるでサッカー少年のそれ。念願のプレミアリーグ初参戦。歴史を知る指揮官に束ねられた岡山U-18の選手たちは、ヒリヒリしながら、ドキドキしながら、ギリギリの勝負ばかりが続く22試合を戦い終えた時にまた、今とはまったく異なる顔を見せているに違いない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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