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サッカー フットサル コラム 2024年5月16日

ポジティブにチームを明るく照らす「山田の太陽」。青森山田高校・小沼蒼珠が引き継ぐ“日本一の次の代”のキャプテンマーク 【NEXT TEENS FILE.】

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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青森山田高校・小沼蒼珠

「春遠征で結果が出なかった分、この試合は不安でしかなかったんですけど、試合をやっていくうちにゴールを隠す守備とか、山田のやるべきことがしっかり徹底できたので、そこは本当に次の試合への自信に繋がったかなと思います」

前年王者として臨んだ、プレミアリーグEAST開幕戦の市立船橋高校戦を勝利で終え、笑顔を浮かべながらそう話したのは、青森山田高校のキャプテンマークを託された背番号5。今シーズンのプレミアリーグの中でも屈指の知名度を誇る小沼蒼珠だ。

その存在が大きく知られることになったのは、昨年度の高校選手権。圧倒的な飛距離を誇るロングスローも武器に、左サイドバックの位置で奮闘した2年生ではただ1人のレギュラーは、チームの日本一に大きく貢献。短く刈り込まれた坊主頭のビジュアルも相まって、一躍脚光を浴びる形となった。

それでもシーズンを振り返ってみると、2022年は決して順風満帆に事が進んだ1年ではなかった。春先はケガの影響もあってやや出遅れてしまい、プレミアでの出場は後半終盤のクローザー起用が主。だが、アウェイの川崎フロンターレU-18戦では1点リードの終了間際にPKを与えてしまい、ドロー決着となった試合後には涙を流す一幕もあった。

プレミアでの初スタメンは第17節のホームゲーム、首位攻防戦の川崎U-18戦。先輩のケガもあり、右サイドバックで巡ってきたチャンスを小沼はきっちりと生かし、自身にとって因縁の相手から挙げた勝利の一翼を担う。以降は先発起用が続いた中で、第21節の昌平高校戦やプレミアリーグファイナルのサンフレッチェ広島ユース戦など、追い込まれた状況で勝敗を左右する印象的な活躍を披露。プレミアと選手権の二冠達成を主力として味わった。

「去年はアップダウンが激しい1年で、春はケガで出れなくて、秋ぐらいからやっと出番を掴めたという感じなので、今年はもっと小沼蒼珠という存在を伝えられたらと思っていますし、誰よりも努力して、誰よりも苦労して、飛躍の1年にしたいと思っています」。まだ新たなシーズンが本格的に始まる前の春先。そう言い切った小沼の凛々しい表情が記憶に強く残っている。

プレシーズンはなかなか思うような結果が付いてこなかった。東北新人大会は準決勝でプレミアのライバルでもある尚志高校と対峙し、延長戦の末に惜敗。強豪が集まるサニックス杯でも勝ち切れない試合が続き、チームを率いる正木昌宣監督も「春の遠征の1か月間で、彼らはたぶん『オレら、大丈夫かな?』という不安の中で戦っていたと思います」と口にするなど、チームは難しい時間を過ごしていた。

「開幕戦もプレミアもほぼみんな初めての経験で、『独特の緊張感というのは、想定していても全然ピッチに立たないとわからないものがあるぞ』とは伝えました。それがみんなに伝わったかはよくわからないですけど、言わないよりはマシだと思ったので(笑)」。

小沼がそう言及したプレミア開幕戦は、実にスタメンの8人がプレミアデビューだったが、青森山田は前半のうちに川口遼己のゴールで先制すると、終了間際にも大沢悠真が追加点をゲット。選手権の準決勝でも対戦した市立船橋とのリターンマッチに、力強く競り勝ってみせたのだ。

 

「本当に大きいと思います。個人としても、チームとしても、これからの山田としても、本当に安心した1勝です」。キャプテンマークを巻いて、チームを鼓舞し続けた5番の顔にも安堵が滲む。粘り強く勝ちを引き寄せる、ある意味で青森山田らしさを象徴するような90分間で、彼らの2024年のプレミアは幕を開けた。

中学時代は東京の三菱養和SC調布ジュニアユースでプレーしていた小沼は、「一番は自分自身を強くしたかったので、寮生活で親もいないし、助けてくれる人も全然いない中で、そういう厳しい環境に身を置いてやりたいと思って、山田を選びました」と青森で勝負する日常へと身を投じた。

その明るいキャラクターは、どこに行っても周囲を笑顔に変えていくだけのエネルギーを発している。1月に行われた高校選抜の選考合宿でも、当初はU-17のチームに呼ばれたものの、合宿中にU-18のチームへ“昇格”すると、他校の先輩たちとも積極的にコミュニケーションを図っていた。

「自分はポジティブなところだったり、明るさが武器だと思うので、プレーも見せつつ、声も出して、良い影響をもたらせるようなことを、チームに対して発信していきたいと思っています」。持ち合わせている積極性にあふれたマインドは、どこにいても変わらない。

鹿島アントラーズユースと対戦した第6節のアウェイゲーム。試合を観戦しに訪れていた高校生ぐらいの一団から、「小沼、見た?」「見た!身体凄かったな!」というやり取りが聞こえてきた。本人が望むと望まざるにかかわらず、今シーズンは個人としてもチームとしても、大きな注目を集めて戦う1年になることは間違いない。

開幕3試合で2勝1分けと上々のスタートを切った青森山田だったが、第4節で尚志相手にホームで初黒星を喫すると、そこから昌平高校、鹿島ユースにも続けて敗れ、悪夢の3連敗。ディフェンディングチャンピオンは早くも正念場を迎えている。

シーズン前に小沼が語っていた言葉を思い出す。「毎日の積み重ねが何より大事で、苦しいことをやれば絶対に自分の自信に繋がると思っているので、誰よりも努力したいですし、誰よりも自信を付けて、新しいシーズンに臨みたいとずっと思っています」

こんなタイミングだからこそ、その存在が際立つ時だ。苦しむグループを救うのは、やはりこの男しかいない。ポジティブにチームを明るく照らす『山田の太陽』。充実した90分間の先に仲間と笑顔で喜び合うため、小沼蒼珠は今日も、明日も、明後日も、いつものグラウンドで誰よりも声を張り上げているに違いない。

 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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