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サッカー フットサル コラム 2024年5月5日

アグレッシブな新スタイルの日テレ・ベレーザ。若いチームは、これからどのように成長するのか?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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5月2日に行われたWEリーグ第18節、日テレ・東京ベレーザ対アルビレックス新潟レディースの試合は非常に激しい攻防が展開された。

ここ数年、ベレーザのほか浦和レッズ・レディース、INAC神戸レオネッサの3クラブが突出した力を持っていた日本の女子サッカー界。しかし、WEリーグ発足によってその他のクラブの実力も向上。どの試合もプレー強度が高まり、少なくともどのクラブも「ビッグスリー」に対して激しい抵抗ができるようになっている。

その象徴的存在が新潟。3月10日に行われた新潟ホームの試合ではベレーザを破っており、現在、浦和とI神戸に次いで3位という地位に付けている。

新潟は現在の位置をキープして「3強」の一角を崩したいだろうし、ベレーザはかつての「絶対女王」の意地にかけても3位の座は死守したいところだ。

ベレーザが、今シーズン、苦しんでいるのはチームの切り替え時期だからだ。

主力選手が次々と海外クラブに流出したということもあるが、ベレーザは今シーズンから新指揮官として迎えた松田岳夫監督の下、新しいスタイルに挑戦しているのだ。

ベレーザは東京ヴェルディ、いや、その前身である読売サッカークラブの女子部門として誕生し、これまで数多くの日本代表選手を輩出してきた名門中の名門だ。

昨年の女子ワールドカップでベストエイトに入り、パリ五輪でもメダル獲得を目指す日本代表(なでしこジャパン)にも数多くのベレーザ出身の(あるいはベレーザ所属経験のある)選手たちがいる。

そして、男子の読売クラブ以来伝統のテクニックを重視し、パスをつないで相手を崩すスタイルこそが「ベレーザのサッカー」だった。

しかし、世界のサッカーは男子も女子もハイプレスをかけ合うカウンター・プレッシングの時代に入り、日本の女子クラブでも浦和のようにフィジカルの強さを生かしたダイナミックなプレーをするチームが増えてきた。そんな流れの中で、テクニックとパスだけでは時代に取り残されてしまう。

そこで、松田監督はそうした最新の流れを取り入れて、ベレーザらしいテクニックにダイナミックスさも加えたチームを新たに作ろうとしているのだ。

新しいスタイルに慣れるまでには、当然、時間がかかる。しかも、今のベレーザには20歳前後の若い選手が多いのだ(新潟戦の先発11人の平均年齢はなんと21.73歳!)。なかなか結果が出ないのも、仕方のないところだ。

松田監督のベレーザはこのところスリーバックを採用している。そして、ウィングバック(WB)からはどんどんアーリークロスが入ってくる。「システム」というよりも、スタイルが変化してきているのだ。

新潟戦でも、前半はベレーザがボールを握り続けて、アグレッシブな攻撃を続けた。

とくに右サイドからはWBの山本柚月と右センターバック(CB)の坂部幸菜が強いボールを上げていく。

そして、センターフォワード(CF)には168センチと長身の鈴木陽がターゲットとして構えている。鈴木は昨年はなでしこリーグ1部のオルカ鴨川に所属して、初優勝に貢献した選手だ(昨年、僕は鴨川の試合を観戦に行き、そこで初めて鈴木を見たのだが、たしかにCFとして非常によい働きをしていたことが印象に残っている)。

「CB坂部のアーリークロス」のことを書いたが、前半のベレーザを見ていると坂部の動きは「スリーバックの右」というよりも、右サイドバック(SB)のオーバーラップのように見えた。

つまり、ボールを握る時間が長かった前半、ベレーザの両WBは最前線に位置を取り、ほとんど守備には関わっていなかったのだ。最終ラインは、ピッチの幅いっぱいを3人のDF(右から坂部、村松智子、松田紫野)でカバーしていた。

前線には右WBの山本と左WBの池上聖七が両サイドに張って、CFに鈴木。そして、やや下がり目に藤野あおばと土方麻椰。つまり、5人のFWが並んでいたのだ(ボランチが菅野奏音と木下桃香)。

なんと、これは1960年代までのサッカーの基本システムだった「WMフォーメーション」ではないか! FWの5人が「W」の文字を形作り。2人のハーフバック(HB)と3人のフルバック(FB)が「M」の文字を作るので「WM」と呼ばれていたのだ。今風に数字で言えば、「3−2−2−3」ということになる。

もちろん「WM」時代の両ウィングは下がって守備をすることはないし、SBは時たまオーバーラップをすることはあっても、ボランチのポジションに入ったりはしない。しかし、ボールを握って攻撃している時のベレーザは、たしかに懐かしの「WMフォーメーション」だったのである。

しかし、前線に人数を懸けたアグレッシブなベレーザの攻撃に対して、新潟は割り切って中央を固めて耐え続けた。新潟は前半、シュートを1本も撃つことができなかったが、ベレーザの攻撃もシュート5本に抑えたのだ。

それでも、45+2分には中央で藤野が持ち込み、鈴木と土方が細かくつなぐ中央での崩しから右に出たボールを攻撃に上がっていた坂部が決めて、ベレーザは先制に成功する。

後半も立ち上がりは前半同様にベレーザの攻撃が続いた。だが、耐え抜いた新潟は次第にロングボールを駆使して攻撃の形を作りはじめる。

そうなると、ベレーザの方も3人のDFは中央に絞って、両サイドはWBがカバーする“普通の”スリーバックの形になった。

こうして迎えた80分。1点を追う新潟は3人を同時に交代すべく準備を終えていた。だが、そこでホイッスルが鳴って中盤でのFKとなり、このFKを後半途中から投入されたベテランの上尾野辺めぐみが蹴ると、CBの山本瑠香が頭でつなぎ、最後は同じくCBの三浦紗津紀が決めて新潟がどたんばで追いついた。

そこで、新潟ベンチは3人同時交代を中止して、3分後に2人を交代させた。

「どうしても1点を取りたい」という3人交代策から、「1対1のドローでもよし」という交代策に変えたのだ。

その意図は決して間違いではなかった。だが、ここはベレーザの「勝ちたい」という気持ちが上回ったようだ。

87分、ゴール前で木下が起点となってペナルティーエリア内の藤野につなぎ、左から右WBに入っていた宮川麻都が飛び込んできてファウルを誘ってPKを獲得。このPKを藤野が決めてベレーザが勝利して、3月の敗戦のリベンジを果たしたのである。

前半は両サイドからのクロスで新潟ゴールを脅かす形が多かったベレーザだが、2得点はいずれもゴール正面での細かなパスのつなぎという、ベレーザ本来の攻撃パターンから生まれたという事実も興味深い。

アグレッシブな新スタイルと伝統のベレーザ・スタイル。それが、噛み合っていけば、若いチームはさらに成長していくことであろう。来シーズンに向けて楽しみなチームであることは間違いない。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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