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先日、「東京都サッカートーナメント社会人系の部代表決定戦」という試合を観戦した。11月23日に決勝戦が行われる第104回天皇杯全日本サッカー選手権大会の東京都予選である。
予選には全部で272チームが参加し、学生系(関東大学連盟加盟と東京都大学連盟加盟チーム)と社会人系(学生系を除く全チーム)に分かれてノックアウト・トーナメントを行っている。
そして、社会人系のトーナメント「東京カップ」を勝ち抜いてきた南葛SCとエリース東京FCの2チームが、JFL所属の横河武蔵野FCとクリアソン新宿に挑戦して社会人系代表の2チームを決定するのが「社会人系の部代表決定戦」である。
南葛SCとエリース東京FCは、ともに関東リーグ1部所属チームだ。
注目は南葛SCだった。
東京都葛飾区に本拠を置き、Jリーグ入りを目指す南葛SCは、あの超有名サッカー漫画の作者である高橋陽一氏を代表に迎えてチーム名も漫画と同じ「南葛SC」としたことで一躍有名となり、その後も稲本潤一をはじめ多くの有名選手を獲得。JR新小岩駅近くに専用スタジアムを建設すると発表するなど数多くの話題を提供している。
そして、今シーズンは風間八宏氏を監督に迎えたことでさらに注目は高まっている。
風間氏は、あの強い(強かった?)川崎フロンターレの基礎を築いたことで知られる、日本を代表するサッカー指導者の1人である。
さて、「社会人系の部代表決定戦」で南葛SCは横河武蔵野FCに挑戦した。
横河武蔵野FCは、武蔵野市に本社を置くメーカー、横河電機を母体とするクラブ。1939年に創設された伝統ある実業団チームだったが、現在は地域クラブとなっており、育成部門からは多くの有名選手を輩出している。最近はJリーグ入りを目指したり、東京ユナイテッドとの共同運営を行ったりと方向性が定まらなかったが、Jリーグ入りは断念して今年から元の「横河武蔵野FC」という名称に戻ったばかり。
試合は横河武蔵野の完勝だった。
横河武蔵野は前半からボールを握って、サイドから崩していく。1対1の球際で上回り、セカンドボールを回収して攻撃を続ける。
横河武蔵野が所属するJFL(日本フットボールリーグ)は日本の4部リーグに当たるリーグだが、最近は著しくレベルが向上。実力が拮抗していて競争も激しいリーグであり、激しい試合も多い。そのあたりの「所属リーグの差」が如実に表れた試合だった。
横河武蔵野では、ツートップの一角の阿部拓馬が攻撃を引っ張った。かつて、東京ヴェルディやFC東京などで活躍した阿部は横河武蔵野FCの下部組織出身で、現在、横河武蔵野の監督を務めている石村俊浩氏の教え子だったのだという。
その阿部がフリーマン的にポジションを移して攻撃を組み立て、そして自らフィニッシュにも絡んでくる。19分に右サイドからのクロスを新関成弥とのコンビでつないで先制点を決めたのも阿部だった。
その後、横河武蔵野はなかなか2点目が取れなかったが、試合終了間際の89分にPKを決め、試合は横河武蔵野の順当勝ちで終わった。
南葛のプレーぶりを見ていると、「ちぐはぐさ」が目立った。1人の選手がボールを持った瞬間に、周囲の選手が同じ方向に動いてしまったり、足を止めてしまったりするのだ。本来ならサポートに寄る選手がいたり、前でボールを受けに来たり、スペースに走り出したりしてパスコースを作らなければいけないのに、そういった動きができない。
名将、風間監督のチームがどうしたことなのだろう?
しかし、実は風間監督だからこそ、こうした現象が起こってしまうとも考えられるのだ。
「ちぐはぐさ」を解消する手っ取り早い方法は決まり事の徹底だ。サイドはこう動き、トップはこうに動く。ボランチがこうやってサポートする……。そうした決まり事の通りに選手が動けば、とりあえずボールはスムースに展開する。
メンバーを固定して反復練習をして、試合を繰り返していけばコンビネーションはどんどんと上がる。
だが、風間監督はそんなチーム作りはしない。
南葛の難しさは40人もの選手を抱えていることだが、風間監督はメンバーを固定しようとはしない。40人全員にチャンスを与えようと言うのだ。
風間監督は、かなり高度なトレーニングをやっているとも聞いた。「決まり事」で選手を動かすような安易なチーム作りはしないのだ。サッカーの原則を教えて、それを選手たちが応用することを促すのだ。
だから、試合になると(現段階では)選手たちには戸惑いが生じてしまう。しかも、メンバーが固定されていないから、一つひとつのプレーで選手自身が考えなければならないことが多くなるのだ。
そうしたことを繰り返していくと、ある時に全員が同じことを考えて、同じリズムでプレーできるようになる。ただし、それがいつ頃になるかは風間監督自身も分からないと言う。そうした工程表のようなものはもともとないのだそうだ。
2012年に風間氏が川崎の監督に就任した時もそうだった。当初は選手たちも、観客もチームとして何をしようとしているのかが分からない時期が続き、方向性がはっきりと見えてくるまでには2年くらいはかかったような記憶がある。
川崎の監督に就任する前、風間氏は筑波大学の監督を務めていた。当時の筑波大学は高校生年代の選手にとって魅力的な進学先ではなく、年代のトップクラスの選手は集まっていなかった。だから、リーグ戦が開幕する春先は結果が出ない。だが、風間監督が指導することでチームは急成長し、秋には素晴らしいチームが完成して、冬の全日本大学選手権(インカレ)では上位進出を果たす……。そんなシーズンが毎年のように続いた。
従って、南葛もいずれは一気にチーム力が上がる時が訪れるのだろう。風間監督率いる南葛の試合を1シーズン追ってみるのも、今シーズンの楽しみの1つになった。
なお、社会人系の部代表決定戦のもう1試合では、関東リーグのエリース東京FCがJFLのクリアソン新宿を破って大学系代表との東京都トーナメント準決勝に進出した。
柏レイソルなどで活躍した元日本代表の北嶋秀朗監督を迎えて注目されているクリアソン新宿だが、JFLでも低迷。エリースとの試合でも攻撃の形が構築できず、“場狂わせ感”がないままの敗戦に終わった。
学生系代表との東京都トーナメントは、4月21日の日曜日に始まる。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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