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3月6日に行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝のファーストレグで横浜F・マリノスが中国の山東泰山にアウェーで先勝した。後半アディショナルタイムに1点を返されたのは不安材料だが、互角の撃ち合いを制して勝利したのだから、まずは勝利を喜ぶべきだろう。
横浜FMは前半8分という早い時間にアンデルソン・ロペスの個人技で先制したものの、その後の何度かの決定機を決めきれず、嫌な流れにも見えた。だが、69分にはヤン・マテウスのシュートがDFの間を抜けて決まった。GK王大雷はタイミングをはずされ、コロコロと転がるシュートを見送るだけだった。
横浜FMは11分にアンデルソン・ロペスがフリーで抜け出した場面をはじめ何度かの決定機に決められなかったが、山東にもマテウス・パトのシュートがポストを直撃するなどチャンスはあったので、「2対1」というスコアは妥当な結果だった。
両チームとも前線に強力な外国人選手を並べていたが、わずかに横浜FMが上回った点があるとすれば、中盤での守備力や奪ったボールをつなぐ技術の部分だった。ポゼッションで上回った横浜FMが主導権を握っていたことは間違いない。
この日の横浜FMは喜田拓也をアンカーに置いた逆三角形の布陣で、右インサイドハーフにはいつものように渡辺皓太が入ったが、左には植中朝日が起用された。その植中のパフォーマンスが非常に高かったのも横浜FMの勝利につながった。
このポジションには南泰熙(ナム・テヒ)や天野純がいるが、植中が好プレーを見せたことで、今後はチーム内競争が激化しそうだ。
また、山東の強力FW陣に対して、横浜FMのセンターバックとGKのポップ・ウィリアムが立ちはだかった。上島拓巳はヴァレリ・カザイシュビリやマテウス・パトを相手に互角以上に戦い、さらにラインブレークして相手のパスをカットしてそのまま持ち上がるなど素晴らしいパフォーマンスを見せた。
横浜FMは、J1リーグでは大苦戦を強いられている。
開幕節では、昇格組の東京ヴェルディに先制され、試合終盤に2点を奪ってなんとか勝点3を確保したものの、第2節ではアビスパ福岡相手に0対1で完封負けを喫していた。
また、ACLでもラウンド16ではタイのバンコク・ユナイテッド相手になかなかゴールを決められず、アウェーでは引き分け、ホームのセカンドレグでも決着は延長後半アディショナルタイムのアンデルソン・ロペスのPKを待たなければならなかった。
そんな中で迎えたのが山東戦だった。
山東はラウンド16では川崎フロンターレと対戦。ホームで敗れたものの、等々力陸上競技場でのセカンドレグでは川崎の守備の乱れを衝いて4対2で勝利し、逆転で準々決勝進出を決めていた。
ラウンド16での川崎の敗退によって、横浜FMは思わぬ負担を背負うことになった。
もし川崎が順当にホームで勝利してくれていれば、準々決勝ファーストレグは等々力で行われたのだ。横浜FMにとっては、“最も近い遠征先”である。ところが、川崎が敗戦を喫したため、開幕直後でまだチーム状態が上がり切らない中で海外遠征を強いられたのだ。
横浜FMにとって難しいスケジュールになったことは間違いない。
もっとも、横浜FMにとって中国山東省の済南はよく知った遠征先ではあった。
ACLの2023/24シーズン、横浜FMと山東泰山はグループステージで同じG組に入っており、すでに2試合を戦っており、横浜FMは2試合とも勝利していた。
もちろん、2023年の秋に戦った時とは監督が交代しているが、選手の多くは済南のスタジアムの雰囲気やピッチの状態を知っていたので、心理的負担はかなり軽減されたはずだ(もっとも、山東側も横浜のスタジアムを知っているし、2月にも川崎を訪れて勝利しており、日本遠征には慣れているのだろうが……)。
また、この時点での中国遠征はポジティブに捉えることもできる。
「異なったコンペティション」という言葉が使われることがある。
リーグ戦で不調に陥っているクラブがカップ戦では快進撃を見せることがある。たとえば、昨シーズン残留争いに巻き込まれていた柏レイソルは天皇杯では決勝進出に成功した。また、国内リーグで苦しんでいるクラブがチャンピオンズリーグで躍進することも珍しいことではない。「異なったコンペティション」とは、そうした現象を言い表す言葉だ。
異なった大会では試合の雰囲気も変わるし、対戦相手も変わる。それが気分転換につながるわけだ。
チームの好不調にはさまざまな原因がある。チーム力が不足している場合もあれば、負傷者が続出するなど不運が重なることもある。いずれにしても結果が出ない状態が続くと選手たちは精神的にネガティブになって、プレーが消極的になったり、勝点差を気にしすぎて慎重になりすぎたりする。
しかし、カップ戦であれば勝点差など気にしないですむし、いつもとは違った対戦相手だと大きな気分転換になる。
リーグ戦の合間の海外遠征はもちろん選手たちにとっては負担になっただろうが、気分転換になることは間違いない。中国なら移動距離も極端に長くないし、アウェー感満載の中国のスタジアムは気分展開にはもってこいだ。
また、Jリーグのチームの場合、海外チームとの対戦では中盤のパス回しがうまくいくという効果もある。
ピッチ・コンディションが悪くてパス回しが難しくなる場合もあるが(ピッチ・コンディションは山東戦でいくつかの決定機を逃がした原因の一つだ)、しかし、日本のチームが得意とするテクニカルなパス回しに慣れていない相手が多いので、Jリーグの試合よりもパスがうまく回せることが多いのだ。
Jリーグでは互いのことが研究されつくされている。そして、Jリーグでは相手チームを分析して相手の良さを消するための対策が講じられることが多い。そのため、どのチームも得意のプレーを発揮できずに苦しむことになる。
だが、韓国や中国の強豪でも、Jリーグのチームに比べると戦術的な緻密さには欠けることが多い。そのため、狙ったようなパス回しができるのだ。
もちろん、パスが回っただけでは勝利にはつながらない。中国のチームには強力な「個の力」を持つ外国人助っ人が存在するので、一発のチャンスで失点してしまうことも多い。
だが、ACLの試合でパス回しがうまくできれば、リズムを取り戻すきっかけにはなる。
開幕早々の中国遠征は横浜FMにとって大きな負担だったろうが、これを立ち直りのきっかけとしたい。いずれにしても、3月13日のホームゲームもきちんと勝利して準決勝進出を決めてほしいものだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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