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2月21日に行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)ラウンド16セカンドレグで、横浜F・マリノスがバンコク・ユナイテッド(タイ)を破って準々決勝進出を決めたが、延長後半までバンコクUの守備を崩し切れずに大苦戦を強いられた。
試合は、キックオフ直後から横浜FMがボールを握って相手を押し込み続けた。
公式記録によればシュート数は27本(バンコクUのシュートは120分間で5本)。さらに横浜FMのCKは21本で、バンコクUのゴールキックは29本。つまり、ボールは得点となったシュートを加えて合計51回もバンコクUのゴールラインを越えたことになる。
しかし、ゴールの枠を捉えたのはわずか1回。つまり、アンデルソン・ロペスのPKだけだったのだ。
内容的には、横浜FMの攻撃力は素晴らしかった。
いや、120分間ゴールを決められなかったのだから、「攻撃力が素晴らしい」とは言えない。正確に言えば「その攻撃的な姿勢が素晴らしかった」ということだ。
アンジェ・ポステコグルー監督が就任して2年目の2019年に横浜FMはJ1リーグで優勝したが、当時の横浜FMは本当に攻撃的だった。味方にボールを預けると後方から選手が追い越して人数をかけて攻撃を連続。サイドバックがインナーラップしたり、セントラルMFの位置に上がって攻撃参加する姿も新鮮だった。
また、CKやFKを得るとすぐにプレーを再開。セットプレーに時間をかけるチームが多いJリーグの中で、相手の守備が整う前に畳みかけようとする姿勢が素晴らしかった。
バンコクU戦の横浜FMを見ていて、僕はあの頃を思い出したのだ。
ポステコグルー監督がセルティックに渡った後、同じオーストラリア出身のケヴィン・マスカット監督が就任してポステコグルー路線の継続を目指した。だが、時間の経過とともに攻撃的な姿勢は薄らいでいった。もちろん、攻撃的スタイルに違いはないのだが、10人で(いや、GKも含めて11人で)攻めるのではなく、攻撃は前線のブラジル人に依存するようになっていったし、セットプレーにも時間がかかるようになってしまった。
だが、バンコクU戦ではポステコグルー時代のように全員が攻撃に関わったし、CKやFKの場面でも時間をかけずにスタートさせようとする姿勢がはっきりしていた。
少しでもプレーが滞ると、テクニカル・エリアのハリー・キューウェル監督は腕を振って攻撃を促し、VARや選手の負傷で主審が試合を止めると監督は怒りの表情を浮かべた。
それは、まるでポステコグルー監督そのもののようだった。
ただし、27本のシュートを浴びせたものの、120+2分のアンデルソン・ロペスのPKまで、一度もゴールネットを揺らすことはできなかったのだ。
ファーストレグでは、横浜FMは2点を先行してから2点を奪われて引き分けに持ち込まれてしまったが、その後も決定機は何度もあった。そのうち、1つだけでも決めておけば、セカンドレグは0対0のまま終了していても延長戦は必要なかったのだ。攻撃的姿勢は素晴らしいが、「決定力不足」は大きな課題のようだ。
原因の1つはアップテンポな攻撃は迫力満点だが、リズムの変化がなかったこと。そのため、守備を固めた相手にとっては守りやすい展開にだったのではないだろうか?
スローダウンさせて落ち着く時間も作るべきだろうし、あるいはさらに攻撃のスピードを上げていく必要もある。今後、リーグ戦が開幕して試合を重ねていけば攻撃のコンビネーションも上がっていくはずで、そうなればリズムの変化も出てくることだろう。
いずれにしても、その攻撃的姿勢を見る限り、今年の横浜FMには期待していいような気がした。
さて、バンコクU戦は延長まで120分の戦いとなった。
いや、120分どころではない。延長後半のアディショナルタイムはなんと7分16秒もあったのだ。
前半こそアディショナルタイムはわずか3分11秒だったが、後半には9分37秒、延長前半にも3分16秒が追加されたから、結局この試合のアディショナルタイムは合計で22分20秒にも達したのだ(手元の時計での計測)。
そして、キックオフは20時だったので、試合が終了したのは23時50分近くになってしまった。
僕は、試合後の記者会見は聞かず、すぐににスタジアムを出たので、ようやく終電の1本前の電車に乗って帰宅することができたのだが、遠方から来場したサポーターの中には帰宅できなかった人もいたのではないだろうか?
VARによって相手DFのハンドが認められてPKが与えられたからよかったものの、あのままPK戦にもつれこんでいたとしたら、きっと多くの帰宅困難者が出たことだろう。
“悪いのは”何度もVARを介入させた審判団……ではなく、横浜FMの攻撃陣である。早く点を決めていてくれさえすれば、何も問題ではなかったのだ。今後のシーズン中の改善に期待したい。
そして、もう一つの問題は、この試合のキックオフ時刻がなぜ20時だったのかという点だ。
前日の川崎フロンターレ対山東泰山の試合は17時キックオフだった。
帰宅するには楽だったが、仕事をしている人にとっては観戦に訪れにくい時間である(それでも、等々力陸上競技場には1万人を超えるサポーターが集まった)。
AFCは、いったい何のために、こんな試合時間を設定したのだろうか?
考えられる唯一の理由は開始時間をズラすことによって、テレビやネット配信の視聴者数を増やすことだ。たとえば、スペインのラリーガは2時間ごとにキックオフ時刻を設定しており、連続して4試合をテレビ生観戦することが可能になっている。また、UEFAのチャンピオンズリーグ(UCL)でもグループステージでキックオフ時刻を変えることで、2試合を生観戦できるようにしている。
おそらく、AFCはそういったヨーロッパでの事例を見て「ああ、こりゃあいい」とでも思って真似したのだろう。
AFCというのは、もともとFIFAやUEFAのことを何でも真似たがる人たちの集まりだ。
かつて、ACLでもUCLと同じように決勝戦を中立地での一発勝負にしたものの、中立地では観客が集まらずに失敗したことがある。
UCLは世界中の視聴者から注目されるキラー・コンテンツだから、キックオフ時刻をズラすことで非常に多くの視聴者を獲得し、放映権料を吊り上げることができる。だが、ACLでは視聴者数がそれほど多くなるとは思えない。それよりも、まずはスタジアムを訪れる観客を増やして試合を盛り上げるべきではないか。
AFCという組織の統治能力には、つくづく疑問を感じざるを得ないのである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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