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日本代表がイランに完敗。優勝候補の筆頭として臨んだアジアカップは「準々決勝敗退」という結果に終わった。
昨年はドイツ戦での勝利を含めて快進撃を続けた日本代表に何が起こったのだろうか?
イラン戦の直接の原因は、森保一監督自身が語ったように采配ミスだ。
後半に入って、イランはロングボールを使ったパワープレーを多用してきた。パワープレーは日本にとって弱点の一つ。イラク戦でも同じように2点を失っている。
とくに、イラン戦では板倉滉が狙われた。前半に警告を受けていたことが響いたとも言われるが、その他にもバーレーン戦で脚を傷めており、イラン戦の前半でも脚を気にする場面があった。おそらく、コンディション的に問題があったのだろう。
とりあえずは、失点を防ぐことが喫緊の課題だったのだから、板倉を町田浩樹あるいは谷口彰悟に交代させる。または、スリーバックにして板倉の負担を減らすべきだったろう。
だが、森保監督が切った最初のカードは南野拓実と三笘薫の投入だった。
とくに、左サイドの前田大然を退けて三笘を入れたのは疑問手だった。
三笘は負傷明けでコンディションは万全ではない。バーレーン戦では、たしかに素晴らしいドリブル突破を披露していたが、あの試合は日本がリードし、内容的にも日本が押し込んだ中での交代だった。
だが、イラン戦では守備に終われる中での投入だった。三笘が万全の状態だったら「個の力」で打開することも可能だったかもしれないが、現在の三笘はベストにはほど遠い。
一方、前田は走力を生かして守備面でも貢献していた。そして、前田は90分間走り切る持久力も備えている。バーレーン戦とほぼ同じ時間に三笘を入れたことを考えると「後半20分ほどでの三笘」というのはプラン通りだったのだろうが、試合の流れを見れば、三笘投入は見送る、または遅らせる必要があったのではないだろうか。
アジアカップでは、グループリーグでイラク、そして準々決勝でイランにともに1対2のスコアで敗れた。相手のパワープレーに対して対応できなかったことが敗因だった。
もともと、日本はパワープレーを苦手としてきた。
相手がパスをつないでくれば統制の取れたプレッシングで守り、またそこでボールを奪って攻めることができる。だが、相手がラフなボールを蹴り込んでくると耐えられたない(ことが多い)のだ。
しかし、最近の日本代表には冨安健洋や板倉といった強力DFも揃ってきていた。ヨーロッパでプレーする彼らなら、パワープレーに対しても十分に対抗できるはずだった。
ところが、イラン戦では板倉が対応できなくなってしまった。
板倉は昨年秋に足首の手術を受け、試合から遠ざかっていた。そして、負傷はなんとか回復してアジアカップではプレーが可能になったが、コンディションは上がり切っていなかった。その不安が、イランの強烈な攻撃を前に露呈されてしまったのだ。
板倉だけではない。アジアカップには故障を抱えたままの選手が多数招集されていた。
森保一監督は彼らが開幕に間に合わなくとも、大会中には復帰できると計算して彼らを招集し、実際、彼らはプレーが可能になった。だが、負傷は回復しても試合勘のようなものはすぐに戻ってくるものではない。こうして、多くの選手が万全とはほど遠いコンディションでアジアカップを戦うことになったのだ。
コンディション不良は、フィジカル面だけではなかった。
選手は、心理的にもアジアカップに集中していたとは思えない。ヨーロッパでのシーズン中に日本代表に招集された選手たちは選手たちは疲労を抱えていたし、クラブの試合が気になって代表活動に集中できない状態だったとも聞く。
また、ウィンターブレークに入って試合から遠ざかっている選手もいれば、リバプールの遠藤航のように合流直前までゲームがあった選手もおり、コンディションもバラバラだった。そして、Jリーグ所属の選手たちはシーズンオフの最中だった。
状況は他の国も同じとはいっても、中東諸国は国内組が中心だったし、孫興民(ソンフンミン)や李康仁(イカンイン)のようなヨーロッパ・クラブ所属のスター選手を抱える韓国も国内組が半数以上を占める。だが、日本代表はほとんどの選手がヨーロッパ組だったので、シーズン中の長期の代表活動が困難だったのではないだろうか。
日本の選手たちのアジアカップに向けたモチベーションはそれほど高くなかったのだろう。彼らは準々決勝敗退で「すべてを失った」といった喪失感は抱かなかったはずだ。ほとんどの選手はすぐにクラブでの戦いに気持ちを切り替えているだろうし、とくにチャンピオンズリーグのノックアウトステージに出場する選手にとって、それはアジアカップ以上のモチベーションをもたらすはずだ。
つまり、日本代表は様々な要因でチームの状態が上がらないままアジアカップを戦っていたのだ。
森保監督はトレーニングを通じてそうした悪条件を克服できると考えていたのだろうが、実際にはコンディションを上げることに失敗。今後のワールドカップ・アジア予選での戦いの際にも参考にすべきだろう。コンディションの悪いヨーロッパ組よりも、コンディションが良く、モチベーションの高いJリーグ組を起用すべき試合もあるはずだ。
さて、こうしてマネージメントの失敗で惨憺たる結果に終わったアジアカップだったが、まったく収穫がなかったわけではない。
第一の収穫は、上田綺世がワントップとして十分な働きをしたこと。イラン戦でもターゲットとしての役割を果たして守田英正のゴールをアシストした。前線でDFを背負ってボールを収めることができるFW探しは日本代表の最大の課題だったが、どうやら上田中心でチーム作りを進めることが可能になったようだ。
もう一つは、GKの鈴木彩艶が経験を詰めたこと。
U-22世代の鈴木は昨秋からフル代表に抜擢されていたが、昨年出場した試合は日本が一方的に攻撃するような試合ばかりで十分な経験はあ積めていなかった。
そんな中で、いきなりアジアカップで正GKの座を任され、ベトナム戦やイラク戦では失点に絡んでバッシングを受けるという辛い(そして、貴重な)経験をした。
鈴木は試合を積み重ねるとともに落ち着きを取り戻し、イラン戦では鈴木らしいダイナミックなセービングやロングキックのフィードも見せてくれた。
フィジカル能力に優れた鈴木が世界基準のGKに成長してくれることは、2026年のワールドカップで日本が上位進出するためには不可欠のピースだ。だからこそ、森保監督はアジアカップでは(確信犯的に)リスクを覚悟して鈴木にゴールマウスを託したのだ。
将来、鈴木がワールドクラスのGKに成長した際に、「彼が初めて国際試合の洗礼を受けた大会」として記憶されるようになるとすれば、アジアカップ・カタール大会は日本にとって悪い思い出ばかりではなくなるはずだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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