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サッカー フットサル コラム 2024年1月29日

“起承転結”のある見事な決勝戦。女子サッカーの充実ぶりを感じさせた第45回皇后杯

後藤健生コラム by 後藤 健生
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1月27日に行われた皇后杯全日本女子サッカー選手権大会決勝戦。三菱重工浦和レッドダイヤモンズレディース対INAC神戸レオネッサの試合は準決勝2試合に続いてまたも延長戦にもつれ込み、最後はPK戦で神戸の7大会ぶり7度目の優勝が決まった。

前半からゲームを支配し、早い時間に先制した浦和だったが、その後、神戸は堅い守備で追加点を許さず、後半に入ると選手交代を駆使して次第に攻撃機会を増やし、後半のアディショナルタイムにPKを獲得して1対1の同点に追いつき、延長戦は一進一退の攻防……。

ゲームの流れの変化、プレー強度の高さ、そして両チームの勝利への執念などが絡み合った文字通りの熱戦。しっかりとした“起承転結”のある、見ごたえのあるゲームだった。

浦和は、準決勝のサンフレッチェ広島レジーナ戦で、このところ得点源となっていた安藤梢とトップ下で攻撃を引っ張っている猶本光の2人が負傷。決勝戦は攻撃の中心2人を欠く中での戦いとなった。

だが、浦和はキックオフ直後から前線からの激しいプレッシングで神戸にボールを持たせず、ゲームを支配し続けた。

中盤では、ここ数年にわたって浦和の中盤を支え続けてきた柴田華絵とこのところ進境著しいボランチの角田楓佳との2人が互いにカバーしながら積極的に相手ボールにチャレンジ。テンポの良い攻撃につなげた。角田は、近い将来には日本代表入りも期待できる逸材だろう。

また、準決勝の広島戦で延長後半に貴重な同点ゴールを決めた清家貴子は、安藤、猶本の不在という中で中心となって攻撃を引っ張った。安藤、猶本を欠きながら、ゲームをコントロールしたあたりは、現在の浦和の強さを証明するゲームだった。

そして、19分中盤で高い位置で柴田が相手ボールにプレッシャーをかけて、トップ下の塩越が奪って、すぐに右の清家に開き、清家が入れたクロスが相手DFに当たってゴールイン。幸運なゴールではあったが、早い時間に先制ゴールが生まれ、浦和が優位に立った。

そして、前半はその後も浦和が完璧なサッカーを続け、I神戸に付け入るスキを与えなかった。ただ、浦和は優位に立った前半で追加点を奪えなかった。逆に言えば、I神戸はスリーバックの堅固な守備で追加点を許さず、41分には左の北川ひかるからのクロスを成宮唯がヘディングで狙い、前半最後の時間帯に前半最初のチャンスを作って勝負を後半戦に持ち越すことに成功した。

I神戸は、昨シーズンは朴康造(パク・カンジョ)監督の下でスリーバックでカウンターを武器として戦っていた。

だが、今シーズンはスペイン、バルセロナ出身のジョルディ・フェロン監督が就任。ボールを大事にするポゼッション・スタイルへの切り替えを行った。

そのため、シーズン開幕当初のWEリーグカップではチームがちぐはぐな状態だったが、フェロン監督は選手の特性を見て、当初目指していた4バックを昨シーズン同様のスリーバックに変更して、たちまちチームをまとめ上げた。

皇后杯決勝でも、後半から田中美南とツートップを組んでいた愛川陽菜に代えて高瀬愛実を投入。強さのある高瀬がターゲットになることで、その周囲を田中が動く形に変更。また、65分にはMFの天野紗に代えてFWの桑原藍を入れて、高瀬と桑原のポジションを微妙に変えながら、試合の流れを引き寄せていく。

それでも、後半も浦和優位の試合が続くが、I神戸の守備は前半以上に堅く、浦和は大きなチャンスを作れない状態が続いた。

そして、試合が終盤に差し掛かると、I神戸はロングボールを使ってパワープレー的な攻撃も繰り出し始める。

この辺りの、引き出しの多さはI神戸の武器の一つのようだ。

それでも、後半もアディショナルタイムに入り、浦和がうまく時間を使いながら試合を進め、いよいよラストプレーという94分。I神戸は左から放り込んだボールを粘ってつなぎ、最後はこぼれたボールを田中が強烈なシュート。そのボールが、浦和のDF石川璃音の手に当たり、I神戸は土壇場でPKをゲットした。これを高瀬が決めて試合は1対1で延長に突入する。

PK獲得の場面で田中のシュートはまずDFの高橋はなの体に当たり、そのボールが石川の手に当たったもの。浦和にとっては不運なPKだった。

高橋の体に当たったボールが至近距離で石川の手に当たったのだから、石川の手が通常の位置にあればハンドの反則は取られないはずだが、石川の手は顔より上に上がっていた。皇后杯ではVARは採用されていないが、たとえVARのチェックが入っても、やはりハンドの判定は覆らなかっただろう。

しかし、PKを取られたことよりも、あのこぼれ球からの田中のシュートに対して浦和のセンターバック2人がしっかりブロックに入っていたことを評価すべきだろう。

浦和の2人のCBは、後半から延長戦にかけて何度も冷静な守備でチームを救った。たとえば、延長後半のアディショナルタイムにI神戸のウィングバック守屋都弥がフリーで抜け出してドリブルで迫った場面があったが、高橋が全力で最短距離を走って正確なスライディングで防いだ。

こうして突入したPK戦を制したI神戸が皇后杯のタイトルを獲得。

I神戸は、現在中断中のWEリーグでも無敗で首位に立っている。そして、そのI神戸を勝点1の差で追っているのが浦和である。

かつての“絶対女王”日テレ・東京ヴェルディベレーザは、選手が大幅に若返り、平均年齢20歳強というメンバーで戦っており、また、徹底してパスをつないで崩すベレーザのスタイルに、カウンタープレスの要素を加える新しい試みに取り組んでおり、チームの完成には遠い。

3月に再開されるWEリーグは、やはりI神戸と浦和の一騎討となる公算が大きい。

浦和には大ベテランの安藤やキャリアのピークにある猶本がおり、清家や塩越柚歩、遠藤優のような中堅。さらに、角田のような新進気鋭の選手も育っており、総合力では浦和が一歩リードしているのではないか。

しかし、皇后杯準決勝ではI神戸が2度先行したのに対して、ちふれASエルフェン埼玉が効率的なカウンターで2度追いついて延長戦に持ち込む健闘を見せ、浦和に対しては広島が互角の勝負を挑んでPK戦に持ち込んだ。EL埼玉はWEリーグで現在10位、広島は8位というチームだ。

プロ化2年目だった昨シーズン以降、WEリーグのレベルアップは著しいが、最近は下位チームがそれぞれ上位に対して抵抗する型を身に着けつつあるようで、上位と下位の対戦でも白熱した試合が多くなっている。

今シーズンの第45回皇后杯は、準決勝、決勝の白熱した試合を通じて、最近の日本の女子サッカーの充実ぶりを実感させてくれる大会となった。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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