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サッカー フットサル コラム 2024年1月21日

2試合連続で失点に絡んでしまった鈴木彩艶。将来有望なGKであることは間違いないのだが・・・

後藤健生コラム by 後藤 健生
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1月19日のアジアカップのグループリーグ第2戦で、日本代表がイラクに敗れるという波乱があった。

イラクはもともと中東の実力国であり、2007年のアジアカップでも優勝している。昔から中東で最も近代的なサッカーをしている国の一つで、1997年のいわゆる「ドーハの悲劇」が起こったアメリカ・ワールドカップ最終予選の時も、様々な問題を抱えており、最終的には5位に終わったものの、内容的には素晴らしい試合をしていた。

現在のチームも昨年の自国開催のガルフカップで優勝した実力のある選手たちだ。個々のテクニックレベルも高く、またフィジカル能力の高い選手がそろっている。

2003年にアメリカのブッシュ政権が仕掛けた「イラク戦争」後の政治的混乱とテロの横行によって長くホームゲームもできない状態が続いており、一時はチーム力も落ちていたが、国内も安定してバスラには新スタジアムも完成。かつての力を取り戻しつつあるところだ。

しかし、いくらフィジカル的に強い選手や長身選手がいると言っても、日本代表選手のほとんどはヨーロッパのトップリーグでプレーしているのだ。「フィジカルの強さ」を敗因とするわけにはいかないだろう。

日本代表は第1戦ではベトナム相手にも2失点している。2試合連続複数失点というのはまさに“大失態”と言わざるを得ない。

対戦相手が日本戦に焦点を絞って全力で挑んでくるのに対して、日本の守備はあまりにも軽かった。

おそらく、日本の選手たちは「アジアの相手は引いて守ってくる」と決めつけてしまっていたのではないだろうか?

「引いた相手をどう崩すか」というのは、たしかにアジア相手の試合での大きな課題であるが、キックオフ直後から相手が全力で勝負を懸けてくることもありうるのだ。大会前から日本の選手たちは「相手は何を仕掛けてくるかわからない」と語っていたが、そこまで真剣に考えていなかったのではないか。

相手がキックオフ直後からフルパワーでしかけてきたら、しっかりと守備を固めて失点を防いでおけばいいのだ。相手は無理をしているのだから、15分とか20分を無失点で切り抜ければ相手のプレッシャーは次第に緩んでくる。

それを待って、じっくりと攻めれば、現在の日本代表の攻撃力をもってすれば、間違いなく得点は奪えるのだから、攻め急ぐ必要などまったくない。

経験豊富な日本代表の選手たちがそんな状況判断ができないわけはない。

イラク戦の序盤を見ていて思い出したのは、昨年11月のU-17ワールドカップのアルゼンチン戦だった。初戦でセネガルに敗れていたアルゼンチン戦は、日本に勝つためにキックオフ直後からフルパワーで襲い掛かってきた。しかし、日本代表は普段通りに前からボールを奪いに行って逆を取られてたちまち2失点を喫してしまった。

「とりあえず、しっかり守って」という判断ができなかったのだ。国際試合の経験が乏しい若い選手たちなので(新型コロナウイルス感染症の影響で強豪国との戦いを経験できていなかった)仕方のないことだった。だが、日常的にトップリーグを戦っている日本代表の選手がそれくらいの判断ができないわけはない。

やはり、集中を欠いていたと指摘せざるを得ない。

さて、ベトナム戦とイラク戦で合計4ゴールを許してしまったのだが、その直接的な原因となったのはGKとして起用された鈴木彩艶の中途半端なプレーだった。

イラク戦の先制ゴールの場面、日本の右サイドから入れられたクロスを鈴木が弾いたが、このボールがアイマン・フセインにとってはおあつらえ向きのコースに飛んでしまい、簡単にヘディングを許してしまった。寄せきれなかったDFの責任でもあるが、鈴木のミスと言ってもいい。

ベトナム戦の2失点目も、相手のヘディングシュートを鈴木が弾いたボールが相手の前に転がってしまったのが失点の直接の原因だった。

鈴木は強靭なフィジカル能力が最大の魅力という選手だ。パントキックは相手のゴール前まで飛ばせることができるし、スローイングでもスピードのあるボールを投げて攻撃の起点を作れる。そして、競り合った中でのパンチングでも遠くまで飛ばすことができる。

相手がシュートできない距離までしっかりと弾くことができない選手ではないのだ。

やはり、ああいったミス(中途半端なプレー)は経験不足から来るものなのだろう。あるいは、慣れない代表戦での緊張感のせいなのか……。

GKというのはもともと経験が重要なポジションである。だが、アジアカップに向けて森保一監督はGKとして若い鈴木を抜擢した。GKは3人選ばれているが、29歳の前川黛也(ヴィッセル神戸)のほかは、ともに21歳の鈴木と野澤大志ブランドンが選ばれた。国際Aマッチの経験は(大会前まで)鈴木が4試合、前川が1試合。そして、野澤はまだAマッチの経験がない。

鈴木の抜擢は早い段階から決まっていたのだろう。昨年の10月のチュニジア戦、11月のシリア戦、そして2024年元日のタイ戦と、鈴木はこのところファーストチョイスで起用されて続けていた。

だが、これらの試合では絶好調だった日本代表が攻める時間がほとんどで、鈴木には守備機会がほとんどなかった。それでも、チュニジア戦の終盤など、実際には不用意なプレーが見られたのだが、日本が大勝する中で見過ごされてしまった。

森保監督は、ベトナム戦ではワントップのポジションでもU-23代表の主力である細谷真大を起用した。

細谷もフィジカル的に強さがある選手で、将来有望なFWである。細谷がワントップとしてボールを収める仕事ができるようになれば、日本代表の攻撃の幅もまた大きく広がるはずだ。ワールドカップ優勝のためには、ぜひ成長してほしい選手の1人だ。

つまり、アジアカップという真剣勝負の場で将来有望な選手を起用して経験を積ませようというのが、森保監督の意図だったのだ。将来を見据えた素晴らしい判断だったと思う。

だが、ベトナム戦の細谷はほとんど仕事ができないまま前半だけで交代を余儀なくされ、GKの鈴木は2試合連続で失点に絡んでしまった。

FWではベトナム戦後半から細谷に代えて上田綺世がトップとして起用され、イラク戦後半には浅野琢磨も出場した。だが、GKのポジションには鈴木以外にも国際試合の経験豊富な選手はいないのだ。

インドネシア戦以降もGKとして鈴木を使い続けるのか? それとも、前川に変更するのか……。これは難しい問題だ。

鈴木がこれ以上ミスを重ねてしまっては、日本代表は窮地に陥るし、鈴木自身のためにもならない。しかし、今後の試合で鈴木に出場機会を与えて挽回のチャンスを与えないと、本人が自信を失ってしまうかもしれない。

インドネシア戦以降、GKとして誰が起用されるのか注目したい。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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