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FIFA U-17ワールドカップ 日本代表
U-17ワールドカップに出場している日本代表。初戦のポーランド戦は後半に入って攻勢を強めた日本が豪雨による中断の直後に高岡伶颯が先制ゴールをたたき込んで快勝したものの、2戦目のアルゼンチン戦はキックオフ直後にフルパワーで点を取りに来たアルゼンチンに対する対応に失敗して2連続失点。後半、盛り返して1点を返して、その後も攻撃を続けたが同点ゴールは生まれず、逆にアディショナルタイムに1点を追加されて1対3の敗戦を喫してしまった。
そして、迎えた最終戦はアルゼンチン、ポーランド相手に連勝したアフリカ・チャンピオンのセネガルが相手だった。15歳でチームのキャプテンを務め、すでにA代表も経験しているというアマラ・ディウフという強烈な選手がおり、スピードが売り物のチームだ。
ナイジェリアのようなパワーはないが、スピードはワールドクラス。個人の走力も高いが、パスの処理もスムースなのでボールが止まる場面が少ない。パスをつなげばつなぐほど、スピードが上がってくるような印象だ。
そのスピードに、日本がどう対処するのか。それが勝負だった。
はっきり言えば、“劣勢”が予想された。
日本プレスの間でも日本の勝利を予想する者はいなかった。「引き分けて勝点4にすれば、3位通過でラウンド16に進める」とか、「いや、セネガルに敗れても、最小得点差であれば3位通過もありうる」といった悲観論が飛び交っていた。
僕も「少なくとも無失点で切り抜けるのは難しい。勝つとすれば、セネガルのウィークポイントである守備組織の乱れを衝いて、複数点を取って勝つしかない」と思っていた。
実際、試合が始まってみるとポゼッションでは圧倒的にセネガルが上回り、強烈なシュートが日本のゴールを脅かし続けた。
だが、日本のDFは必死に食らいついてシュートコースを消し、シュートをブロックし続けた。組織的な守備で、危険なエリアで相手がボールを持つと複数人が囲むようにして守る。そして、ゴール前は当たっているGKの後藤亘が立ちはだかった。
一方、日本の攻撃は単発。サイドハーフの吉永夢希やサイドバックの小杉啓太の左サイドからクロスを入れてチャンスを作るが、攻撃に厚みができず、簡単に跳ね返され、セカンドボールを拾われる回数が多くてチャンスは生まれない。
それでも、「引き分け(勝点4)でも決勝トーナメントに行ける」という状況を踏まえて、日本は粘り強く守備を続ける。全体として、何も起こらないような雰囲気の試合となっていった。いわゆる「ゲームを殺す」という戦い方だ。
セネガルはすでにグループリーグ突破を決めていたので、メンバー的な変更はそれほどなかったが、アマラ・ディウフをいつもとは逆の右サイドで起用したり、ツートップにしてきた。彼らにとってはテストの意味合いも大きい試合だったのだろう(20分過ぎには、アマラ・ディウフは右サイドに“戻ってきた”が)。
そして、セネガルはGKのセリーヌ・ディウフが脚を痛めて30分に後退を余儀なくされたのに続いて、注目のアマラ・ディウフも左サイドでドリブルを仕掛け、日本の3選手にが囲まれた場面での負傷。37分には退いてしまった。相手の最大の攻撃力を持つ選手がいなくなったのである。
こうして、日本の組織的な守備を攻めあぐねたセネガルは、前半のうちに2人の交代カードを使ってしまった。そして、後半に入るとパワーが落ちてくる。すると、それに反比例するように日本が攻める姿勢を押し出してくる。50分には井上愛簾が遠目からシュートを狙い、59分には左CKにDFの土屋櫂大がニアで合わせたが、枠を捉えられない。
そして、日本は55分に選手交代。ポーランド戦、アルゼンチン戦でゴールを決めている高岡を投入したのだ。
「相手の足が止まり始める時点で高岡投入」というのが一つの必勝パターンになってきた。
こうした大会で勝ち抜くためにはラッキーボーイの登場は欠くことができない。今年7〜8月の女子ワールドカップでは宮澤ひなたという「ラッキーガール」が登場。日本はベスト8進出を果たし、宮澤が得点王を獲得したことは記憶に新しい。
そして、登場から10分もたたないうちに、高岡はまたも結果を出してみせた。
62分、左からの攻撃で井上が上げたクロスは高岡に合わなかったが、クリアを拾った日本が右から攻め直し。佐藤龍之介とのワンツーで抜け出した右サイドバックの柴田翔太郎のクロスを、DFとDFの間のスペースに入り込んだ高岡がヘッドでとらえたのだ。
残り時間がアディショナルタイムを含めて30分強での先制ゴールだった。
なかなか、難しい時間だ。せっかく、セネガルの攻撃力が弱まってきていたのに、この失点でセネガルの目が覚めてしまうかもしれない。あるいは、日本の好守のバランスが崩れてしまうかもしれない。
そこで、僕は日本の選手たちのメンタリティーの変化に注目した。「1点を守ろう」と引き気味になってしまったら、セネガルの攻撃を引っ張り込んでしまうことになる。逆に、1点取ったことで変に自信を持って攻めに出たら、逆を取られるかもしれない……。
だが、選手たちは1点をリードしても冷静に守備意識を高く保って試合を続けた。
69分には、再び右サイドの井上からのクロスを高岡がヘディングでとらえたものの、これは枠を外れてしまったが、72分には日本がセネガル陣内深い位置に蹴り込んだボールをセネガルのDFがバックパス。GKが処理に手間取るところを高岡がチャージしてボールを奪い取って、なんと日本に2点目が生まれた。
アルゼンチン戦では、序盤のアルゼンチンの強引な攻めに対してうまく対処することができずに、8分までに2失点を喫するという試合運びの拙さを露呈した日本代表だったが、セネガル戦では逆に試合巧者ぶりを発揮。しっかりと組織で守って、強力なセネガル攻撃陣をノーゴールに抑え、前半は守備重視。そして、後半に入って隙を窺って効率よく2ゴールを奪取した。
この結果、日本はアルゼンチン、セネガルと勝点6で並んだものの、得失点差で3位となってしまった(あと1点取れていればセネガルを逆転して2位となるところだった)。しかし、「3位通過」ではあるとしても、2勝1敗の勝点「6」であれば立派なものだ。とくに、大会前から言われていたことだが、グループDは「死の組」であり、明らかに他のグループよりレベルの高い試合が続いた。
たとえば、グループCのニューカレドニアとか、グループFのニュージーランドのように明らかに格が落ちるチームは一つもなかった。
それだけに、強豪3か国を相手に大接戦を演じた日本は自信を得たと同時に、疲労が蓄積されているはず。
ラウンド16ではスペインとの対戦が決まったが、スペインが中3日であるのに対して、日本は中2日。しかも、バンドンからスラカルタへの移動もある。苦しい状況であるのは確かだが、3試合で得た自信と3戦目で見せた巧みな試合運びを再び発揮し、さらに「上」を目指してもらいたいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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