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サッカー フットサル コラム 2023年10月17日

前半戦最下位から後半戦は7戦5勝!驚異の再生を遂げたジュビロ磐田U-18・世登泰二監督がチームにもたらしている“いい加減” 高円宮杯プレミアリーグWEST ジュビロ磐田U-18×サンフレッチェ広島ユースマッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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蘇ったジュビロ磐田U-18は今季初の3連勝を達成!

「僕は“いいかげん”なので、『みんなでやってね』と言っているだけですから(笑)」。

そう言って笑顔を浮かべるのは、9月からジュビロ磐田U-18を率いている世登泰二新監督だ。とはいえ、2020年シーズンまではこのチームの指揮を執っていたので、厳密に言えば“新監督”ではなく、およそ2年半ぶりの“復帰”ということになる。

今シーズンはアカデミーヘッドオブコーチングとの兼任でU-14世代を指導していたため、常にU-18の試合を見ていたわけではなかったが、プレミアリーグの前半戦を最下位で折り返すような状況を不思議に感じていたそうだ。

「今年のチームは決して弱いチームだと思っていなかったんです。上手さもありますし、それこそ僕らのアカデミーフィロソフィーとして、ゴール前のアタックのところは見ている人がわくわくするような攻撃を仕掛けるというのがあるんですけど、まさしくそういうところは持っているチームだなとは、僕もジュニアユースを教えながらも感じていました」。

本人曰く「指揮を執り始めたのは後期の開幕の4日前ぐらいから」。既にシーズンも折り返しを過ぎていたチームに対して、サッカー面での大きな変化を促すつもりはそもそもなかったと語る。

「それまでのスタッフに半年以上も公式戦をやりながら積み上げてきたものがあるので、僕が監督になったからといって、今まで積み上げてきたものをイジる必要はないですし、誰が見ていても目指すのはジュビロのサッカーなので、どちらかと言うと僕は全体をまとめて、良い方向に進めていけるようなアプローチぐらいしかしていないですね」。トレーニングも基本的にはコーチ陣に任せているという。

最初に着手したのは、“傾聴力”の見直しだった。「監督になった当初は誰かが話をし出しても、全員が話を聞けないような感じがあったんです。試合でも要求するけど、言い方がキツくて聞く耳を開いてもらえないような。そういうところで相手に耳を開かせるためには、どういうものの言い方をしたら『ああ、ちょっと気を遣って言っているな』と思ってもらえるかを考えることが大事で、それで相手が『じゃあ聞こうか』となれば、それが繋がっていったらお互いが言うことに対してちゃんと聞く耳を持てるわけで、子どもたち同士でそういう方向性を作っていけるように、僕はただ仕向けているだけです」。

「だから、ハーフタイムも選手同士で『ああしよう。こうしよう』と話が出たところに対して、僕がちょっと伝えたいことが話題になった時に『ああ、ごめん!ちょっと入れて!』って言って(笑)。それで話し終わったら『ごめん、ごめん。続けて』みたいな感じなので。指導者に『ああしろこうしろ』と言われても選手も面白くないですし、トレーニングもゲームもやるのは選手なので、『それを作っていくのもみんなだよ』というスタンスで一応やっていますね」。

戦う姿勢を前面に打ち出すジュビロ磐田U-18の選手たち

愛媛FCへの加入内定が発表された、今季のエースを託されている舩橋京汰の言葉も興味深い。「自分たちで話す時間を作ってくれているので、そういう時間は大切かなと感じていますし、そういうところが世登さんの良いところかなと思います。ハーフタイムもみんなで話して、最後に世登さんが気になったところを言う感じなので、選手同士のコミュニケーションが増えているのは、うまく連携が取れている1つの要因かなと思います」。

世登監督が常に念頭に置いているキーワードは『一流の振る舞い』だ。

「クラブの『ジュビロフィロソフィー』というものが新たにできて、『Purpose』と『DNA』と『Value』からなっているんですけど、そのDNAの中に『世界の一流を目指す』というものがあるんですよ。ジュビロの黄金期も世界を目指していたわけで、もともとそういう気質があったところから、やっぱりサッカー選手であると同時に、地域で生活している1人の人間としては学校生活も含めて、何をするにも『一流の振る舞い』は大切で、相手に対してちゃんと想いがあった上で発言や気遣いをすることや、自分のことだけではなくて、常に相手の側に立って物事を発信したりということが、僕の中での『一流を目指す』というイメージなんです」。

それゆえに指揮官も、自分の考える『一流の振る舞い』を実践しているという。「まずは自分が示し続けることが大事かなと思って、グラウンドでも1年生がやるような仕事を率先してやったりしていますけどね。ボールを全部出して、空気を入れる“へそ”を全部上に向けて置いておいたら1年生が来て、『アレ?ボールあるじゃん。誰がやったの?』となっているのを、陰から見ながら『オレだよ』と思ったり(笑)。それで相手がちょっとでも楽になれば、ボールを蹴る時間もできるしとか、そんなちょっとしたことだと思うんですよね」。ユーモアを交えて話すスタイルは相変わらず。これも世登監督の魅力だと言っていいだろう。

この日の相手は首位を快走するサンフレッチェ広島ユース。指揮官は試合前に選手の変化を敏感に察知していた。

「選手の自信は半々だったと思います。前期が終わった時点で、首位のチームと最下位のチームの対戦じゃないですか。ミーティングの時にちょっといつもと違う雰囲気だったので、『どんな感じ?』と選手たちに聞いたら、『ピッチにも不安があるし、相手の広島は力がある』という話になって、たぶんちょっとビビっているところもあったのかなと思うんですけど、ゲームに入る時に『個人競技じゃないんだから、誰かがミスしてもほかの10人が助けてくれるよ』というような感じで送り出したら、全然ビビらずに行ってくれましたね」。試合は2‐1で勝利。今季初の3連勝を飾った選手たちに、最高の笑顔が弾けた。

結果に恵まれなかった前半戦。その状況を少しでも変えようと願っていた選手たちやコーチングスタッフが、頑張っていなかったはずがない。もがいて、喘いで、苦しんで、それでも懸命に、必死に、前を向こうとしていたに違いない。

そんなことは新監督だって百も承知。だからこそ、そのみんなで頑張ってきたベースに“いい加減”のスパイスを加えれば、事態が好転することもはっきりと理解した上で、チームのコミュニケーションを円滑にすることを第一に考え、選手たちの自主性をポジティブに引き出したのだ。

「そんな大それた改革なんてものではないんですけど、やっぱり子どもたちが一番サッカーを充実していると捉えられるのは、自分たちがこうやりたい、こうしようというものをバーンとやって、勝った負けたになることじゃないですか。それが嬉しいんだと思うんですよね」。

そのとぼけた雰囲気に騙されてはいけない。“いいかげん”ではなく、“いい加減”を知っている育成のスペシャリスト。世登監督に率いられた磐田U-18は、まだまだここからがいいところだ。

ジュビロ磐田U-18を率いる世登泰二監督

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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