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9月29日のJ1リーグ第29節。注目の一戦は勝点55で首位に立つヴィッセル神戸と、それを1ポイント差で追う昨年の王者、横浜F・マリノスとの首位攻防戦だった。そして、神戸が前半にセットプレーから2ゴールを決め、後半の横浜FMの猛追を振り切って勝利。勝点差を4ポイントまで開いた神戸が優勝に向けて一歩前進した。
得点は大迫勇也のPKとCKからの武藤嘉紀のヘディング・ゴール。つまり、セットプレーからの2点だけだったが、前半は内容的にも明らかに神戸が上回っており、「2点差」は試合内容を正当に反映したスコアだった。
今シーズンの神戸は、高い位置からプレッシングをかけて相手ボールを奪い、ショートカウンターで仕留めるという戦い方で勝点を積み重ねてきた。
一方、横浜FMは最終ラインからパスをつないでビルドアップし、両サイドバックがオーバーラップ、インナーラップをしかけてサイドから崩すチームだ。
従って、横浜FMのビルドアップに対して神戸が前線からプレスをかけるような展開になるかと予想したが、神戸は横浜FMの最終ラインに対してはそれほど激しいプレスはかけてこなかった。
では、どのように守ったのか?
神戸は、まず横浜FMのサイドバックが攻め上がるスペースを埋めることによって相手のストロングポイントを消した。すると、自らが攻め上がるのが難しくなった横浜FMのサイドバックは、両サイドアタッカーにパスを通そうとする。
横浜FMの前線は右にヤン・マテウス、左にエウベル、ワントップにアンデルソン・ロペスという並び。両サイドのドリブルは相手にとって大きな脅威になる。試合前のウォーミングアップを見ていても、横浜FMはサイドからクロスを入れて、中央や逆サイドの選手が合わせるというパターンを繰り返す。サイド攻撃は彼らの生命線だ。
だが、神戸の守備陣はその両サイドアタッカーへのパスコースを読み切って、右サイドバックの酒井高徳と左の初瀬亮が再三にわたってパスをカット。ヤン・マテウスとエウベルにアタックのチャンスを与えなかった。
吉田孝行監督自身も語ったように、まさに「前半はプラン通り」だった。
神戸の攻撃面では大きなサイドチェンジが有効だった。
この日は左サイドでプレーした武藤と、右のサイドハーフで起用された飯野七聖および両サイドをフォローする初瀬と酒井を含めて、サイドでの攻防は神戸が完全に制した。トップ下の佐々木も幅広く動いてサイド攻撃をフォローした。
また、今シーズンずっと好調を維持している大迫も堅実にポストプレーをこなす。前線にこれだけ質の高いターゲットがいれば、当然、戦術的な幅が広くなる。
たとえば、先制ゴールはVARが介入した微妙な判定によるPKからだったが、そのPKを生み出したのは、神戸の両サイドを広く使った攻撃だった。まず、右サイドの山口蛍が左に多きくサイドチェンジ。左サイドで武藤、初瀬、佐々木大樹が絡んでCKを獲得。そのCKは一度は跳ね返されたものの、拾ったボールを右に展開して酒井がクロスを入れる。そして、大迫が確実に頭で折り返して武藤がボレーシュートを狙ったところで、横浜FMのDFエドゥアルドの足が入ったものだ。実に分厚い攻撃だった。
武藤の2点目につながったCKも、左サイドの武藤が右に振って、飯野がポケットに入って折り返したボールをつないで、最後は武藤がシュートしたボールが相手に当たってCKとなったものだ。
つまり、どちらもしっかりとした攻めの形を作り続けた上で獲得したPKであり、CKだったのだ。
こうして、前半は神戸が完全に試合をコントロール。しかも、大迫、武藤という二枚看板が決めるという理想的な展開だった。
もし、後半も神戸がしっかりとゲームを支配して試合を終わらせることができていたなら(たとえ追加点が入らなかったとしても)「神戸が優勝に大きく近づいた」と表現できたことだろう。
ところが、後半は形勢が一転してしまい、横浜FMが猛攻を仕掛け、神戸がなんとかしのぎ切ったという試合になってしまった。
直接的な原因は神戸の選手たちのフィジカル的な問題だった。
ワントップで頑張った大迫は68分に交代となったし、トップ下で動き回った佐々木は後半の早い時間帯から足を気にし始め、78分に足が攣って交代を余儀なくされる。そのほかにも、痙攣を起こした選手が数人いたように見えた。さらに、初瀬も負傷して70分で交代。
こうして足が止まった神戸を、交代カードを効果的に使った横浜FMが追い込んでいった。81分に水沼宏太を投入してからは、右サイドに張っていたヤン・マテウスをインサイドハーフとして2列目で南泰熙(ナム・テヒ)と並べた布陣も効果的だった。
連戦でもなかったのに、神戸の選手たちはどうしてあそこまで消耗してしまったのか……。大迫、武藤、酒井など中心選手の年齢が高いことも原因なのかもしれない。たしかに前半からよく動いてはいたが、あそこまで消耗するとなると、リーグ戦終盤で最後まで勝ち切れるのか、疑問に思えてしまう。
後半の劣勢はフィジカル面だけが原因ではなかった。2点リードして、しかもフィジカル面で不安があるのなら、神戸はその2点リードを利用して動きのない試合にしてしまうべきだったろう。「ゲームを殺す」とよく表現する戦い方だ。
ところが、後半に入るとすぐに、試合はオープンな撃ち合いになってしまったのだ。神戸にもいくつもチャンスはあった。だが、横浜FMにも攻撃の形を作らせてしまった。これによって、横浜FMには「勢い」が生まれたのだ。
試合運びという点でも、後半の神戸は拙い戦いをしてしまったのだ。
この試合はなんとか2点リードを保って逃げ切った。残り5試合の時点で勝点差は“1ゲーム差”以上の4ポイントに開いた。
優勝争いで、神戸が圧倒的な優位に立ったことは間違いない。
J1リーグ戦は3週間後ということになる。神戸には調整する時間が与えられる(横浜FMは、この間、AFCチャンピオンズリーグとYBCルヴァンカップの試合をこなさなければならない)。
神戸の再開初戦は10月21日の第30節。対戦相手は難敵鹿島アントラーズであり、神戸のホームゲームでありながら、東京・国立競技場での開催となる。
この鹿島戦にうまくピークを合わせて勝利で終えることができるとすれば、そこで初めて神戸は優勝に大きく近づくはずだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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