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1998年フランスワールドカップ アルゼンチン対イングランド ベッカムがシメオネに対しての報復行為で一発退場
ラグビーのワールドカップが開催されている。
9月24日にはプールCの戦いで、過去2度優勝のオーストラリアがウェールズに6対40のスコアで惨敗を喫した。オーストラリアはすでにフィジーにも敗れており、ベスト8進出はきわめて難しくなった。
今大会では、開幕戦でニュージーランドが開催国のフランスに敗れたほか、前回優勝の南アフリカもアイルランドに敗れており、ワールドカップでは圧倒的な強さを誇る南半球諸国が苦戦している印象だ。
開催国がフランスということで、北半球諸国にホーム・アドバンテージがあるのかもしれない。
たとえば、南アフリカが予想を覆して初優勝したのは1995年に自国で開催した大会でのことだった(クリント・イーストウッド監督のアメリカ映画『インビクタス 負けざる者たち』で描かれたあの大会だ)。また、前回年大会では日本が「蒸し暑さ」という地の利を生かして準々決勝進出を果たしている。
もっとも、これまで4度あったヨーロッパでの大会ではすべて南半球諸国が優勝しているのだし、北半球唯一のイングランドの優勝は2003年のオーストラリア大会だったのだから、「ホーム・アドバンテージ説」は成り立たないのかもしれない。
南半球苦戦の本当の原因は「オーストラリアが世代交代に失敗した」といったチーム個々の事情なのだろう。だとすれば、南半球苦戦についての論議はラグビー専門家にお任せした方がよいだろう。
ただ、いずれにしても開催国フランスは、ニュージーランド戦の後もウルグアイ、ナミビアに連勝。開催国は好調のようだ(サッカーでのフランス初優勝も、1998年の自国開催の時だった)。
さて、「フランス・ワールドカップ」と聞くと、サッカー人としてはその1998年大会の思い出が蘇って胸が騒ぐ。
今では、日本がワールドカップに出場するのは当たり前と思われているが、日本代表がサッカーのワールドカップに初めて出場したのは、今からちょうど四半世紀前の「フランス・ワールドカップ」だったのだ。だから、「フランス」と聞くとサッカー人はつい当時のことを思い出してしまうのだ。
今大会で日本が初戦のチリ戦を戦ったのは、フランス南部トゥールーズだった。そして、25年前のサッカー・ワールドカップでも日本の初戦は、同じトゥールーズでのアルゼンチン戦だった。リヨンやボルドーのように新設されたスタジアムも多いが、トゥールーズでは25年前と同じく、1938年のサッカー・ワールドカップのために建設された古いスタジアムが今回も使用されている。
9月23日(日本時間24日未明)にはアルゼンチン対サモア戦を見たが、会場はサンテティエンヌのスタッド・ジェフロワ・ギシャールだった。
サッカー人にはサンテティエンヌとアルゼンチンの記憶も強く結びついている。
ジェフロワ・ギシャールは名門ASサンテティエンヌのホーム・スタジアムだが、1998年のサッカー・ワールドカップではアルゼンチンは大会期間中同クラブの施設でキャンプを行っており、そのアルゼンチンがラウンド16で宿敵イングランドと対戦したのもサンテティエンヌでだった。
マイケル・オーウェンが素晴らしいゴールを決めたのと同時に、デビッド・ベッカムがディエゴ・シメオネの挑発に乗って退場処分を受けたことでも有名になった試合だ。
……といったように、テレビでラグビーを観戦しながら、25年前の記憶を呼び覚ましているサッカー人は多いのではなかろうか。
25年前のサッカーのワールドカップでは、出場権を獲得したこと自体が快挙だった。
本大会で日本はアルゼンチン、クロアチア相手に連敗して早くもグループリーグ敗退が決まり、さらに最終戦では日本と同じく初出場組のジャマイカにも敗れてしまったのだが、この試合で初ゴールを決めた中山雅史が称賛されるばかりで、3連敗を責めるような雰囲気ではなかったように記憶している。
日本のサッカー界にとって、ワールドカップというのはそれほど遠い存在だったのだ。
正直に言えば、当時、サッカー・ファンは毎回のようにワールドカップに出場するラグビーのことを羨ましくも思ったし、「でも、絶対に勝てない」とバカにもしてもいた。
なにしろ、1995年の南アフリカ大会で、日本はニュージーランドを相手に17対145という記録的な大敗を喫していたのである。
サッカーはアジア予選突破が難しかったし、ラグビーの方は出場はできても本大会ではなかなか勝てない時代だったのだ(ちなみに、ニュージーランド戦が行われたブルームフォンテーヌは2010年のサッカー・ワールドカップで日本が初戦で勝利したカメルーン戦合の会場だった)。
それから25年が経過して、景色は大きく変わった。
ラグビーの日本代表は2015年のイングランド大会初戦で南アフリカに勝利するという“奇跡”を起こし(会場はブライトン。現在、プレミアリーグで三笘薫が活躍しているスタジアムだ)、2019年大会ではプール戦を全勝で突破して準々決勝進出を果たしている。
一方、サッカーの日本代表は、フランス大会以後全大会に出場。その間、ラウンド16に4度も進出し、昨年のカタール大会では優勝経験国のドイツとスペインを連破した。
25年前は、サッカーでもラグビーでも日本は「東洋からの客人」扱いだった。だが、今では日本はサッカーでもラグビーでもそれなりにリスペクトされる存在に成長したのだ。
ところで、25年前のことを思い出すのは両大会で同じスタジアムが使用されることが多いからだ。サッカー強国では普段サッカーで使われているビッグ・スタジアムがラグビー・ワールドカップで使われるし、逆にラグビーが盛んな南アフリカでのサッカー・ワールドカップではヨハネスブルクのエリス・パークなど有名なラグビー場が会場となった。
しかし、意外にも、サッカーとラグビーの両方で強いという国は少ない。
ドイツも、スペインも、ブラジルもラグビー・ワールドカップは無縁であり、両方のワールドカップで優勝を経験しているのはイングランドだけ(サッカーもラグビーも1回だけ)。2019年のラグビー、2022年のサッカーの両方の直近のワールドカップでともに決勝トーナメント(サッカーは16強、ラグビーは8強)に進出したのはイングランド、フランス、オーストラリア、日本の4か国だけなのだ。
つまり、日本は今ではサッカーもラグビーも一定の力を持つ「フットボール・ネーション」に成長したのである。
果たして、ラグビーの日本代表が2大会連続決勝トーナメント進出という快挙を達成できるかどうか……。9月29日(日本時間30日)のサモア戦、10月8日のアルゼンチン戦が注目される。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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