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日本代表がドイツ代表と対戦した会場のフォルクスワーゲン・アレーナ
森保一監督率いる日本代表がヨーロッパに遠征。9月9日には強豪ドイツを相手に4対1のスコアで完勝。さらに、12日には大幅にメンバーを入れ替えてトルコと対戦し、後半、トルコがハカン・チャルハノールなど主力を投入してから苦しい時間帯はあったものの、最後は伊東純也が高速ドリブルでPKを獲得し、自ら決めて4対2で逃げ切った。
「連勝」という結果も素晴らしいものだったが、この遠征の本当の意義は“結果”ではない。
この2試合は2026年ワールドカップを目指す日本代表にとって、チーム強化のための非常に貴重な機会だったのだ。もし、2026年大会で日本代表が躍進したとすれば、その時には「あの時の遠征での経験が……」と語られることになるだろう。
「意義」はいくつもあるが、まず第一にヨーロッパで試合を行えたことだ。
現在の日本代表はほとんどが海外組だ。招集された26人中、なんと22人が海外組。カタールのアル・ラーヤン所属の谷口彰悟以外の21人はヨーロッパでプレーしている。
試合が日本で行われると、彼らは長距離移動を強いられる。だが、ヨーロッパの中でも交通の便の良いドイツとベルギーでの試合ということで、海外組は移動の負担なく、良いコンディションで集合できた。
つまり、今の日本代表にとってヨーロッパでの試合がホームで、日本での試合こそが“遠征”なのである。
日本での試合となると長距離移動を強いられ、集合初日は時差を含めて調整に当てなければならない。だが、ヨーロッパでの試合なら集合直後からフルにトレーニングに時間を割くことができる。しかも、今回は初戦がドイツ側の意向で土曜日の夜に設定されたため、集合から試合までに多くのトレーニングを実施することができた。ドイツ戦で素晴らしいコンビネーションを発揮することができたのはそのためだった。
そして、2つ目の意義はヨーロッパの代表チームと対戦できたことだ。
ヨーロッパ勢との対戦は、最近は難しくなっている。もともと、ヨーロッパの代表チームは、2年ごとにワールドカップとEUROの予選を戦っていたが、さらにUEFAがネーションズリーグなる大会を新しく立ち上げたため、ヨーロッパ域内との対戦が増え、他大陸のチームと戦う機会はほとんどなくなってしまった(昨年のワールドカップでは、ヨーロッパ勢は他大陸との戦いに苦しんでいた。財政面はともかく、チーム強化と言う意味ではネーションズリーグ創設はヨーロッパのためになっていない)。
そんな中で、今回はドイツ側からマッチメークの話があったのだという。
ドイツは、2024年のEURO開催国なので予選が免除されているからである。そして、強化試合の対戦相手として昨年のワールドカップで敗戦を喫した日本に白羽の矢が立ったのだ。そして、さらにEURO予選の日程が空いていたトルコとの対戦も実現。森保監督は「ヨーロッパ勢との連戦」という貴重な機会を手にした(韓国は、せっかくヨーロッパに遠征しながら、2戦目はサウジアラビアと対戦している)。
今回のように良いコンディションで強豪国と対戦するという経験を積み重ねることができれば、日本代表の強化は格段に進むはずだ。
しかし、前にも述べたような事情でヨーロッパ諸国とのマッチメークは難しい。それに、日本でのサッカーの露出を増やすためには日本代表は国内で試合をこなさなければならない(もちろん、スポンサーの意向もある)。
だから、今回のような贅沢な連戦はなかなか組めないのだ。
しかも、11月からはワールドカップ予選が始まってしまう。そうなると、強豪国相手どころか、とくに2次予選の間はかなり格下の相手との試合が続くことになる。たとえば、11月16日の2次予選開幕節では、日本代表は大阪・吹田のパナソニック・スタジアムでミャンマーまたはマカオと対戦する。相手は間違いなく守りを固めてくる。相手の分厚い守備どうやって崩すかということだけに焦点が当たる試合だ。
そんな試合は、ワールドカップを目指しての強化にはつながらない。
つまり、さまざまな意味で9月の連戦は日本代表の強化にとって貴重な機会となったのだ。そして、森保一監督はその貴重な機会を非常に有効に使った。
ドイツ戦では現時点でのベストメンバーを先発させた。ヨーロッパの主要リーグのビッグクラブでプレーする選手が増えて、日本選手の個人能力が上がっている。そのうえ、トレーニングで落とし込んだコンビネーションを発揮してドイツを圧倒したのだ。
そして、森保監督は前半を4−2−3−1で戦ってリードして折り返すと、後半は5−2−3(または3−5−2)にシステムを変更した。
この変更はドイツ戦だけを考えれば不要だった。DFを増やしたことで、日本代表の重心が下がってしまい、前線でプレッシングをかけることも難しくなり、ドイツが攻め込む回数が明らかに増えた。
だが、このシステム変更は“テスト”としては有意義だった。
試合中にシステム変更をした場合に選手たちがどのように対応できるかのテストである。
そして、実際、選手たちは最終的にはシステム変更に対応してチームを立て直すことができた。
そして、トルコ戦は試合間隔が中2日だったことを逆手にとって大幅にメンバーを変更。代表での経験が浅い選手たちを起用。伊藤敦樹が先制ゴールを決め、初招集の毎熊晟矢も素晴らしい攻撃参加を見せた。
このように、9月の連戦は強豪国相手にそれぞれ4ゴールを決めて連勝しただけでなく、新戦力の起用やシステム変更のテストなど、非常に有意義な2試合となったのである。
ちなみに、課題として残ったのは伊藤洋樹が2試合ともフル出場した左サイドバックの人材難(三笘薫という武器を生かすためにも重要)。
そして、もう一つが「ワントップ問題」だ。
ドイツ戦では上田綺世がポストプレーも含めてとても良いパフォーマンスを示したが、今のメンバーではポスト役をこなせるのは上田以外にいない(上田はこの試合で負傷し、残念ながらトルコ戦ではチームを離脱してしまった)。大迫勇也や南野拓実の招集を含めて、今後考えるべき最大のポイントだ。
日本代表は今後は10月にカナダ、チュニジアとのホームゲーム。そして、11月にはワールドカップ2次予選の2試合をこなし、1月のアジアカップでタイトル奪還を目指すことになる。
森保監督は、5年前もそうだったが、アジアカップが終わるまでは大きなメンバー変更はしないだろう。年内の4試合では、現在のメンバーによるチームの熟成とバックアップの強化が課題となるだろう。4試合を森保監督がどのようにマネージメントするのか、注目したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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