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8月24日にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の組分け抽選が行われた。
日本からはJ1リーグ優勝の横浜F・マリノスと同準優勝の川崎フロンターレに加えて、天皇杯優勝のヴァンフォーレ甲府、さらに昨年度のACL王者、浦和レッズが出場する。
昨シーズンまでは新型コロナウイルス感染症拡大の影響で集中開催方式で行われてきたが、今シーズンのACLは本来のホーム&アウェー方式に戻る。そして、今シーズンから秋春制に以降。グループステージは9月から12月にかけて、そしてノックアウトステージは2024年の2月に始まり、5月に決勝が行われる。
東地区では、一時は世界各国の代表クラスの選手を獲得して注目を集めていた中国のクラブが弱体化してしまった。クラブに投資していた中国の不動産企業の経営が悪化したのが原因だ。
有力外国人選手は次々と中国を離れ、ACLで2度の優勝経験がある広州は親会社の恒大グループの破綻によって現在は2部リーグに降格。同じく、豊富な資金力を誇っていた上海上港も先日のプレーオフステージでタイのBGパトゥム・ユナイテッドに敗れ去った。
そのパトゥムや同じくタイのブリーラム・ユナイテッド、さらにはマレーシアのジョホール・ダルルタジムといった東南アジア勢も台頭しているが、やはりホーム&アウェー方式で戦えば日韓両国のクラブが首位争いを繰り広げるだろう。
今シーズンのACL東地区では、20のクラブが4チームずつ5つのグループに分かれて戦う。そして、日本と韓国からは4クラブずつが参加する。ということは、5つのグループのうち日本のクラブが入らないグループと韓国のクラブが入らないグループが1つずつできる(理論的には日韓いずれのクラブも入らないグループができる可能性もあるが)。
組分け抽選の結果、日本のクラブが不在となったのはグループF。逆に韓国不在となったのはグループHだった。
グループFに入ったのはACLでも実績のある全北現代。全北が首位通過する可能性は限りなく高くなった。
一方、韓国不在のグループH、つまり日本のクラブにとって“楽なグループ”に入ったのはヴァンフォーレ甲府だった。
ご承知のように甲府はJ2リーグのクラブなのだ。はたして2部リーグ所属のクラブがアジアの舞台でどこまで戦えるのか。Jリーグというリーグの競技力を測るうえでも注目したい。その甲府が韓国不在のグループに入ったことによって、グループリーグ突破の可能性に現実味が出てきたのだ。最大のライバルはタイの強豪ブリーラム・ユナイテッドだろう。
さて、東西両地区を含めて、今シーズンのACL全体の注目はサウジアラビアのクラブということになる。彼らがワールドクラスの選手を次々と獲得しているからだ。
実際、8月22日に行われた西地区のプレーオフではサウジアラビアのアル・ナスルがUAEのシャバーブ・アル・アハリに勝利してグループ・ステージ進出を決めたのだが、アル・ナスルのメンバー表にはクリスティアーノ・ロナウドやサディオ・マネ、マルセロ・ブロゾヴィッチといった名が含まれていたのである。
昨シーズン、サウジアラビアのアル・ヒラルがACL決勝で浦和レッズと戦った。アル・ヒラルは浦和戦でも外国籍選手の個人能力の高さを見せつけ、浦和はホームでも守備を固めてカウンターを狙って戦うことを余儀なくされた。そして、浦和は見事にアル・ヒラルの攻撃を封じ込めて勝利して見せたのだが、そのアル・ヒラルには今シーズンはネイマールやセルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチといった選手が加わっている。
再び日本のクラブが決勝でアル・ヒラルと対戦した場合、果たして浦和のようにアル・ヒラルの攻撃を封じ込むことができるかどうか……。
巨額の資金を使ったサウジアラビアのクラブの強化。それは、世界のサッカー界の秩序を根底から破壊してしまう可能性がある。
ヨーロッパ・サッカー連盟(UEFA)は「ファイナンシャル・フェアプレー」という制度を設けている。要するに「入場料収入や放映権料、移籍金などサッカーを通じて得た収入以上の金額を選手強化のために支出してはならない」というルールだ。借入金やオーナーの負担を強化に使ってはいけないというのだ。マンチェスター・シティやパリ・サンジェルマンなど強豪クラブが、この制度に違反したとして厳しい処分を受けたこともある。
だが、UEFA加盟国ではないサウジアラビアにはこのルールは適用されない。
サウジアラビアのクラブはそれほどの収入があるわけではない。巨額の強化費用はすべてオーナーの懐から支出されているのだ。
サウジアラビアのクラブはもともと政府が国民福祉のために、豊富な資金を投じて設立したものだ。
僕は、昔、首都のリヤドにあるアル・ヒラルやアル・ナスルを取材したことがあるが、グラウンドや体育館などクラブの施設がその構造もレイアウトもそっくりだったので驚いた。つまり、クラブの施設は政府が設計をして一斉に建設したものだったのだ(塗装は各クラブのクラブカラーになっている)。
サウジアラビアは世界最大の産油国。政府は使い切ることすら不可能とも言われる膨大な収入を得ている。そして、その政府の権力と富を独占しているのがサウド家の王族で、各クラブも王族がオーナーとなっている。
最近になってスポーツに対する投資を拡大させているのが、政治権力を掌握しているムハンマド皇太子だ。反対派を厳しく弾圧し、批判的だったジャーナリストを殺害したという嫌疑をかけられているが、一方で女性の自動車の運転を解禁するなど、改革派の顔を持っている。スポーツに投資し、2027年のサッカー・アジアカップ招致に成功。将来はオリンピック招致を狙っていると言われており、クリスティアーノ・ロナウドやネイマールなどの獲得もそうした政策の一環ということになる。
巨額な収入をどのように使おうと彼らの勝手なのではあるが、それが「ファイナンシャル・フェアプレー」というサッカー界の規律を乱すとしたら、何らかの規制が必要だろう。
ヨーロッパのサッカー界にとっては、サウジアラビアが何をしようとそれが収入になるのなら歓迎すべきことなのかもしれない。だが、一部のクラブがそんなサウジアラビア資金による収入を得るとすれば、「ファイナンシャル・フェアプレー」の精神は骨抜きにされてしまう。
まして、こうした巨額のオイルマネーを使って強化したクラブがACLを席巻するようになったとすれば、アジアのサッカー界にとってけっして看過できない。
かつて“爆買い”で栄えた中国のサッカー界は“カネ”に汚染されて、すっかり荒廃。協会幹部から代表監督までが取り調べを受け、代表チームも弱体化してしまった。
長期的に考えれば、マネーゲームがサウジアラビアのスポーツを豊かにすることはないと思えるのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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