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サッカー フットサル コラム 2023年8月12日

スウェーデン戦は不運な敗戦に終わったが、4年後に向けての教訓にすべき試合でもあった

後藤健生コラム by 後藤 健生
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池田太監督

日本女子代表(なでしこジャパン)池田太監督

女子ワールドカップ準々決勝のスウェーデン戦。日本女子代表(なでしこジャパン)は、1対2で敗れて、なでしこの冒険はあっけなく終わった。

スウェーデン戦は前半と後半ではまったく違う試合であり、また、運、不運が交錯する試合でもあった。

前半は、一方的にスウェーデンに押し込まれて、日本はシュートを1本も撃てなかった。スウェーデンが仕掛けてくるハイプレスによって、日本はせっかくボールを奪ってもパスをつなげず、すぐにボールを奪い返されて防戦に追われた。

それでも、日本の守備陣は流れの中からはそれほど決定的なチャンスは作らせなかった。だが、FKから不運な形で失点してしまう。

ハイボールがゴール前に入り、GKの山下杏也加がパンチングで逃れようとしたのだが、DFの高橋はなと動きが被ってしまったため、パンチしたボールを遠くまで飛ばせなかったのだ。そこからつながれて、スウェーデンに先制を許してしまう。

そして、2失点目は不運なPK。ハンドの判定自体は正当なものだったが、味方がヘディングしてボールがたまたま長野風花の手に当たった不運なハンドだった(そういえば、4年前のラウンド16のオランダ戦でもVARの介入で熊谷紗希のハンドを取られての敗戦だった。あれはVARの過剰介入=誤審に近いものだった)。

そして、一方で植木理子のPKや藤野あおばのFKはバーやポストやGKの体に当たって、ゴールライン上でバウンドするという不運もあった……。

内容的には前半はスウェーデンのもの。後半は日本のもの、という試合だった。

前半はスウェーデンが仕掛けてくるハイプレスによって、日本はまったく攻撃を封じられてしまった。だが、スウェーデンは明らかに「飛ばし過ぎ」だった。実際、後半の途中からはスウェーデン選手の足が止まって、ゲームの終盤は日本がスウェーデンを押し込んで、87分には林穂之香が1点を返すことにも成功した。

では、なぜスウェーデンはそんな無謀な「飛ばし過ぎ」をしたのか? 明確な理由があった。

スウェーデンは、8月6日のラウンド16で大会連覇中のアメリカと延長戦を戦っていたから、日本より休養日が1日少なく、しかもアメリカと延長を戦って体力を消耗させていた。また、アメリカ戦はオーストラリアのメルボルンで行われたので、準々決勝の会場オークランドまで3時間以上の移動も強いられた。

つまり、コンディション的にスウェーデンは不利な状況だった。だから、勝負が長引くのを嫌って無理を承知でハイプレスをかけてきたのではないだろうか。

ところが、日本は相手が前半から「飛ばし過ぎ」を承知でハイプレスを仕掛けてくることを想定していなかった。

相手が、無理なハイプレスに出てきたら、とりあえず守備を固めて時が過ぎる(相手が消耗する)のを待てばよかったのかもしれないし、あるいは相手が無理にハイプレスをかけてくるのをひっくり返してカウンターを狙えばよかったのではないか。

今回の女子ワールドカップ。組み合わせを見た時、筆者は「準々決勝進出を果たせれば合格」と思っていた。

グループCにはザンビア、コスタリカという“格下”の2チームが同居していたから、ここで2勝すればスペイン戦の結果に関わらずグループリーグは突破できる。そして、ラウンド16対戦するグループAには日本よりFIFAランキングが上のチームはいない。日本も互角に戦えるだろう。

だから、ラウンド16突破が日本にとっての目標だと思ったのだ。ラウンド16敗退だったら「失敗」。準々決勝敗退だったら「合格」。準々決勝進出だったら「成功」……。僕はそんなふうに考えていた。

だが、今大会での日本代表の戦いぶりを振り返ると、日本は準々決勝敗退に終わったものの予想以上に良い内容の試合ができた。つまり、「合格以上」だった。しかし、だからこそ、準々決勝敗退は「失敗」だったと言わざるを得ない。

ラウンド16までに日本代表の戦いぶりは予想よりずっと良い内容だった。グループリーグから準々決勝まで5勝1敗。得点は15で失点はわずかに2点。そして、FIFAランキング6位と日本より“格上”のスペインの攻撃を完封し、カウンター攻撃から4ゴールを奪って大勝した。さらにラウンド16では女子サッカー界の古豪ノルウェーの分厚い守備網を崩し切って3ゴールを決めた。

いずれにしても、今回、非常に良い内容の戦いを披露した日本女子代表。日本の女子サッカーの方向性は間違いではなかったし、若手選手の海外クラブ移籍が強化のために有効だということも証明された。今回のチームは比較的若い選手が多いだけに、4年後のワールドカップ(開催国未定)に向けてさらなる強化が期待できるだろう。

このところ女子代表が低迷していたので、今大会はそれを立て直すための大会だった。だが、次は本気で優勝を目指す大会にしたい。では、優勝を目指すために何が足りなかったのか……。それを、スタッフも選手も全員で考えてほしいのである。

その点で、最後のスウェーデン戦からはいくつもの教訓が引き出されるはずだ。

無理して、「飛ばし過ぎ」を承知の上でハイプレスに出るといった戦略的な駆け引きを覚えることも、その一つだろう。

また、日本は「誰が出ても同じように戦える」チームだったはずだ。

実際、ワントップでは田中美南と植木理子が併用されたし、DFラインでも熊谷紗希と南萌華は“不動”の存在だったが、もう1人のDFとしては石川璃音、三宅史織、高橋はなが併用された。

だが、全体としてはメンバーは固定的だった。ラウンド16のノルウェー戦と準々決勝のスウェーデン戦では左のウィングバックが遠藤純から杉田妃和に変わっただけで、他はすべて同じだった。そして、ノルウェー戦では池田太監督は交代を1人しか使わなかった。

日本チームが勝つためには相手に走り勝つことが必須なのだから、もう少し選手の負担を平準化するためにターンオーバーを使ってもよかったのではないか。あるいは、試合中の選手交代のタイミングももう少し早くてもよかったのではないか……。

情報戦に勝つ必要もある。後半、日本の植木理子がドリブルで仕掛けてPKを獲得した時だった。スウェーデンのGKムソヴィッチが傍らにあった飲み物のボトルを拾って、そこに書いてあるメモを見て日本のキッカーの癖を確認したのだ。

昨年のカタール・ワールドカップでは、男子の日本代表がクロアチアとのPK戦に敗れてラウンド16で姿を消した。PK戦の準備をあまりしていなかった日本に対して、クロアチアは周到な準備を怠っていなかった。その差は明白だった。

女子サッカーの世界でも情報戦は激しくなっているのかもしれない。スウェーデンは相手チームのキッカーについてきちんと情報収集をしていた。世界大会で優勝を狙うには、ここまで準備しなければいけないのである。

日本にとって、次回は本気で優勝を狙うべき大会となる。戦略的な駆け引きやターンオーバーの使い方、そして、いざという時のための情報戦……。そうしたことすべてに取り組まなくては、優勝は難しいのかもしれない。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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