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スペイン代表を破り次戦ノルウェー代表と対戦するウェリントン・リージョナル・スタジアム
オーストラリアとニュージーランドで開催されているFIFA女子ワールドカップは、グループリーグが終了。ベスト16が出そろった。
FIFAランキング1位のアメリカがグループ最終戦でポルトガルとスコアレスドロー。後半のアディショナルタイムにはポルトガルのシュートがゴールポストを直撃する場面もあり、「あわや、アメリカ敗退か」という場面で世界が驚いた。
そして、最終日にはランキング2位のドイツが韓国と対戦。
前半6分に韓国のチョ・ソヒョンに先制を許したが、ドイツは前半のうちに追いつき、後半は一方的に攻め込んだ。しかし、韓国の粘り強い守備の前に追加点を奪えず、結局1対1のまま試合は終了。他会場でモロッコがコロンビアを破ったため、勝点4のドイツがグループリーグ敗退。凍り付いたようなドイツの選手たちの顔が印象的だった。
かつての絶対王者アメリカは世代交代が遅れ、10年前ほどの怖さはなくなっていた。2021年の東京オリンピックでもアメリカは3位に終わっている。
そして、近年はヨーロッパで女子サッカー人気が高まったため、今大会はアメリカとヨーロッパの覇権争いかと思われていた。
そんな「打倒アメリカ」の急先鋒の一角、ドイツが姿を消したのだ。ヨーロッパ勢はベスト16のうち8カ国を占めているのだが……。
そんな中で、最終日にモロッコが決勝トーナメント進出を決め、グループリーグでイタリア相手に逆転勝利して勝ち残った南アフリカとナイジェリアを含めて3チームが勝ち残った。
こうした予想外の結果を見ていると昨年のカタール・ワールドカップでモロッコがベスト4に勝ち残って旋風を思い出さざるを得ない。
グループリーグがすべて終了して、3戦全勝は日本のほか、イングランドとスウェーデンの3チームのみ。イングランドは中国には6対1と大勝したものの、ハイチ、デンマーク戦はともに1得点のみ。スウェーデンは南アフリカには1失点したものの、イタリアに5対0、アルゼンチンに2対0と安定した戦いをしている。
さて、日本代表(なでしこジャパン)は、3試合を戦って得点11、失点0という圧倒的な成績でグループリーグを通過。とくに、最終のスペイン戦も4対0で完勝して世界を驚かせた。
スペイン戦の後の記者会見で外国人記者がこんなことを質問した。
「日本は“格下”のザンビア、コスタリカ戦ではボールを持ってビルドアップして相手の分厚い守備を崩して勝利した。そして、スペイン戦では相手にボールを持たれていたのに、カウンターで得点を重ねた。いろいろな戦い方ができるのはなぜなんだ?」
その質問に池田太監督は直接は答えなかったが、答えは「まったく違うタイプの試合でそれぞれ最適の戦術をできたこと」に尽きるだろう。
どんな相手に対しても、選手全員が戦術的な対策を忠実に実行できること。それが、日本のストロングポイントである。
日本との試合を前にスペイン代表はワールドカップでの2試合を含めて8連勝。しかも、直近の6試合はすべて無失点で終えていた。そのため、スペインの選手たちには攻守にわたって過信があったのだろう。スペインのDFが不用意に攻撃に上がって来たので、その背後には広大なスペースが生まれてしまった。そして、そのスペースを日本は狙っていたのだ。
スペインのホルヘ・ビルダ監督が「全員が攻めに行ってしまった」と嘆いていたが、そこを引き締めるのは監督自身の仕事のはず。池田監督は“格下”との対戦でそこを徹底した。
ザンビア戦やコスタリカ戦で、日本は日本戦のスペインがそうだったようにボールを握って攻撃を続けた。だが、そんな一方的な試合でも、DFラインは危機管理を徹底し、ザンビア戦に至っては相手のシュートは0本に抑えられた。
昨年のカタール・ワールドカップでも、男子の日本代表がスペインを破っている。
だが、あの試合の前半はスペインにボールを握られ、なんども決定的ピンチがあった。1失点ですんだことの方がむしろ驚きだった。もちろん、日本の粘り強い守備によるものだったが、「1失点」はスペインの拙攻のおかげとも言えた。
そして、後半の日本の反撃での連続得点。「三笘の1ミリ」も含めて、ミラクルな勝利だった。
だが、今回のなでしこジャパンのスペイン撃破は違う。
スペインの猛攻を抑えたのは、日本の組織的な守備によるものだった。
スペインの個人技は明らかに日本よりも上であり、その結果90分間を通じてのボールポゼッションは日本の23%に対してスペインは65%に及んだ。しかも、スペインはいかにもスペインらしい戦術を駆使して攻撃を組み立てた。
トップにいるジェニファー・エルモーソはいわゆる“偽の9番”で、トップの位置から下がったり、左右に開いてプレーする。そして、その開いたスペースにインサイドハーフのアレクシス・プテージャスやアルタナ・ボンマティが入り込んで来るのだ。
しかし、そのスペインの攻撃を日本の守備の組織が完璧に抑え込んだのだ。
ボランチやサイドバックがきっちりとカバーしている場面では、ポジションを下げる“偽の9番”をCBの南萌華や高橋はなが追う。だが、カバーが十分でない場面では、無理をして追うことなく、相手の2列目からの飛び出しに備えてスペースを消した。
スペインのボール保持率は確かに高かったが、日本の守備陣は危ない場面をほとんど作らせなかった。
そして、日本は攻撃面ではスペインのDFが不用意に上がってくることを予測して、最初からカウンターの意識を持って戦い、狙い通りに相手の裏のスペースを利用して前半の3回のチャンスをすべて決めきった。
つまり、女子ワールドカップでのスペイン戦の勝利は、「奇跡」などではまったくなかった。日本の組織的守備がスペインの攻撃陣を完封し、プラン通りのカウンターでゴールを陥れた。つまり、「奇跡的な勝利」ではなく、「必然の勝利」だったのだ。
こうして、日本はグループリーグの主役となった。
ここまでは、カタール大会と同じだ。カタールでも、優勝経験のあるヨーロッパのサッカー大国であるドイツとスペインを連覇した日本は話題の中心だった。
だが、日本はラウンド16で強豪クロアチアと互角の撃ち合いを演じながらPK戦で敗れてしまう。そして、大会の主役の座はリオネル・メッシのアルゼンチンとキリアン・ムバッペのフランスとなり、さらに快進撃を続けたモロッコに移っていった。
なでしこジャパンは、グループリーグの段階では間違いなく女子ワールドカップの主役級の活躍をした。それを大会後半にまでつなげてもらいたいものだ。
まず、ラウンド16の対戦相手はノルウェー。パスをつないで攻めてきたスペインに比べて、サイズのある選手を使って直線的に攻めてくるノルウェーは日本の守備陣にとって、むしろやりにくい相手なのかもしれない。チャレンジ&カバーを徹底して、「個」を封じたい。
また、スペイン戦を分析したノルウェーは日本のカウンター攻撃を警戒してくるだろう。しかし、ノルウェーのような大型の選手が多い相手に対しては細かいパスが有効なはず。スペイン戦とは切り替えて、ワンタッチ・パスを多用してノルウェーの守備陣の裏を突いていくべきだろう。
いずれにせよ、カタール大会の“二の舞”だけは避けてほしいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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