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サッカー フットサル コラム 2023年7月24日

真剣勝負とは比べ物にならないが、それはそれで楽しめたマンチェスター・シティ戦

後藤健生コラム by 後藤 健生
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横浜F・マリノスに勝利したあとのマンチェスター・シティ ペップ・グアルディオラ監督

横浜F・マリノスに勝利したあとのマンチェスター・シティ ペップ・グアルディオラ監督

2023-24年シーズンに向けてのプレシーズンマッチの一環として、ヨーロッパの強豪クラブが相次いで来日している。

数年前までは東アジア訪問の主な目的地は中国だったが、中国の強豪クラブが経営を悪化させたことで、昨年あたりから多くの強豪クラブが日本を目指すようになったようだ。

昨シーズン終了直後の6月にはFCバルセロナが来日してヴィッセル神戸と試合を行ったが、これはシーズン終了直後。選手たちが疲れて切っている状況での試合だった。

それよりも、新シーズンに向けての準備段階に入った7月末の試合の方が彼らの真剣さも違うような気がする。

一方、日本のクラブにとってもJ1リーグが中断したばかりの時期である。もちろん、Jリーグ・クラブはシーズン中だから、選手のコンディションもチームの完成度も来日する強豪クラブよりは良い状況にある。だが、Jリーグ・クラブにとっても8月以降のリーグ戦終盤戦に向けての準備の一環である。つまり、けっして無理はできない。

7月23日の日曜日の夜、東京・国立競技場に6万1618人の観客を集めて行われた横浜F・マリノス対マンチェスター・シティの一戦。試合後の記者会見に現われたペップ・グアルディオラ監督は冒頭の発言で「誰もケガをしなかったことが最も重要なことだ」と語った。

「高額の入場料金を支払った人たちもいるというのに、いきなりその発言はないでしょう」とツッコミを入れたくなるが、それはまさに真実だった。

いきなりこんな発言をするのは、グアルディオラ監督の意識が同行してきたイングランド・メディアだけに向いているからに違いない。前日会見では三笘薫の活躍などを引き合いに出したグアルディオラ監督。「日本人選手へのリスペクトを表明した」と報じるメディアも多いが、それはグアルディオラ監督にとってはリップサービスでしかない。

彼の意識は開幕に向けた自分たちのクラブの準備とそれを報じる本国メディアだけに集中されている。もう一つ彼の脳裏にあるのは7月26日の水曜日に予定されているバイエルン・ミュンヘンとの一戦だろう。横浜FM戦は、ケガ人を出すことなく勝利できれば「それがすべて」という試合だったようだ。

この種のヨーロッパの強豪クラブを相手にしたプレシーズンマッチでは、日本のクラブもメンバーを落として戦うことが多い。

そうなると、まったく何のための試合なのか分からなくなってしまう。だが、横浜FMを率いるケヴィン・マスカット監督は、7月19日のセルティック戦も、23日のマンチェスター・シティ戦もJ1リーグでいつも戦っている“最強メンバー”を先発させた。

その結果、「相手の本気度」は別として、そういう相手に対してJリーグ最強クラブがどれだけ戦えるのかを見ることができた。

そして、横浜FMはセルティック相手には派手な点の取り合いの末に6対4で勝利。相手の守備組織が整っていない状況では、セルティックからは横浜FMの攻撃で点が取れることを証明してみせた。

そして、横浜FMはマンチェスター・シティ相手にも真っ向から攻撃を仕掛け、そして2点を先行することに成功した。

横浜FMの選手たちは、気後れすることなく高い位置からプレスをかけに行った、またボールを奪ったらすぐに蹴り返すのではなく、まずはパスをつないでビルドアップを試みる。世界トップクラスの強豪相手に、「いつも通りのサッカー」で挑みかかったのだ。

繰り返すが、相手はもちろん調整段階(の初期)にあって、本来のプレー強度とは比較にならない状況ではある。だが、少なくとも相手がそういう状況であれば、横浜FMの攻撃は十分に通用し、そして2ゴールを奪うことに成功した。

ライン間のスペースに選手が入ってパスコースを作り、さらに背後のスペースを利用する攻撃。ヨーロッパの強豪クラブと同じようなコンセプトの攻撃で、開始直後からチャンスを作り続けた横浜FM。

27分には、右サイドで渡辺皓太がつぶれて水沼宏太につなぎ、水沼のスルーパスを受けたアンデルソン・ロペスが飛び出し、最初のシュートはGKのステファン・オルテガにストップされたが、アンデルソン・ロペスはこぼれ球を拾って反転してシュートを決める。

圧巻は27分の横浜FMの追加点だった。

この日、左サイドでカイル・ウォーカーを相手に何度もドリブル突破していたエウベルが上がってきた左SBの永戸勝也を使った。そして、裏に抜けた永戸が大きく逆サイドに振ると、上がってきた右SBの松原健が中央からダイレクトで決めたのだ。

サイドバック2人による得点である。

SBの攻撃参加は、まさにペップ・グアルディオラ監督が世界のサッカーシーンに持ち込んだものだ。この場面だけではなく、永戸はそのグアルディオラ監督の前でタッチライン際のオーバーラップや中のレーンを使ったインナーラップを繰り返して見せた。

もちろん、何度でも言うが、横浜FMの攻撃が通用したのは相手が調整段階でプレー強度がそれほど高くなかったからだ。

実際、2点を先行された後、マンチェスター・シティがギアを上げてくると、横浜FMは自陣ゴール前に押し込まれ、40分、43分と連続ゴールを決められてしまった。そして、後半に入るとフィールドプレーヤー全員を交代させたマンチェスター・シティは徹底して短く速いパスをつないで横浜FMを自陣内に釘付けにした。

そして、後半から入ったアーリング・ハーランドが早速その本領を発揮。絶妙の動きだしでフィル・フォーデンからのスルーパスを受けて引き出し、鋭いシュートを決めて逆転に成功。

その後は再び省エネモードに入ったマンチェスター・シティだったが、72分にはロドリがコースを狙ったミドルシュートを決め、横浜FMが1点を返した後のアディショナルタイムには右サイドのジョアン・カンセロからのクロスを、相手CBのマークを見事に外したハーランドが決めてダメを押した。

まだ準備段階の初期にあるマンチェスター・シティにとっては、本来の出来とは大きく違う。たとえば、ベルナルド・シルバは後半開始から出場し、30分間プレーした後に退いた。彼にとっては、この試合は調整のための試合でしかなかった。

一方で、たとえば20歳のオスカル・ボブなどにとっては、マンチェスター・シティのトップチームでの初先発。なるべく早く、「一軍」のテンポやチームの約束事に慣れるための貴重な経験の場ということになる。

マンチェスター・シティの攻撃のシステムは見ていてとても面白かった。

もちろん、プレー強度などは本来のものとはまったく別物なのだが、それでもたとえばDFラインに入っているジョン・ストーンズが流れの中でセントラルMFの位置に上がって、アンカーのカルビン・フィリップスとどのように絡んでいくのか……。あるいは、前線の5人が入れ替わってどのように攻撃ラインを形成していくか……。

国立競技場の3層目にある記者席から俯瞰的に見ていると、彼らの組織がどのように機能しているのかが、よく理解できた。こういう選手の動きは、テレビの画面だけではなかなか分かりにくい。これを「試合」と呼ぶべきか否か、人それぞれの意見もあろうが、見ていて大変に興味深い“親善試合”ではあった。

来日した強豪クラブの試合は、今週、来週と続くので楽しみたいと思う。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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