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J1リーグは第21節終了後、3週間の「ミニブレーク」に入ったが、7月22日には台風2号の影響で延期されていた第16節のヴィッセル神戸対川崎フロンターレという両チームにとって大事な一戦が行われる。
昨年まで常に優勝争いの中心にいた川崎。昨年は苦戦を強いられたが、それでも最後まで粘りを見せて2位に入った。だが、今シーズンはさらに苦しいシーズンとなっている。
それでも、中断前、7月15日の第21節では首位に立つ横浜F・マリノスとの激闘を制して消化試合数が1試合少ない中で7位に浮上した。
一方の神戸は、堅守速攻のスタイルを固め、大迫勇也も好調を維持して横浜FMとの首位争いを繰り広げており、川崎が横浜FMを破ったことによって第21節終了時点で横浜FMと勝点43で並び、得失点差によって首位を奪還した(こちらも、消化試合数は横浜FMより1試合少ない)。
神戸にとっては優勝争いで優位に立つために、そして川崎にとっては「逆転優勝」に向けての大事な一戦となる。
さて、7月15日に行われた第21節の横浜FMと川崎の試合は、後半のアディショナルタイム(90+4分)に川崎のDF車屋紳太郎が体ごとボールをゴールの枠内に押し込んで勝利を決める劇的な展開となった。
昨年までの6年間にわたって優勝を分け合ってきた神奈川県のライバルチーム同士なだけに、互いの意地と意地がぶつかり合って試合は前半のうちから白熱した。
ともに「攻撃サッカー」を標榜しているだけに、「ただ勝つだけでなく、自分たちらしい美しい試合をして勝ちたい」。そんな意識も強かった。
ゴールキックからでも、単純に蹴ることはほとんどなく、DFとGKがパスを交換するところからしっかりとパスをつないでビルドアップを試みる。両チームとも、いつもの試合以上に、そうした自分たちのスタイルへのこだわりが強かったのだ。
だが、同時に勝負のかかった試合だけに、つなぐのが難しい状態になれば無理につなごうとしてカットされるのを嫌ってロングボールを蹴る、つまり「必要であればボールを捨てる」という意識も高かった。さらに、守備陣も集中を切らすことなく、最終ラインが相手の強力な攻撃を跳ね返し続けた。
こうして、前半から緊迫した攻め合いが続き、互いにチャンスは作るのだが、なかなかゴールは決まらないまま時間が経過していった。
得点ランキングでトップを走る横浜FMのアンデルソン・ロペスを川崎のセンターバック(車屋と高井幸大)がしっかりとストップ。川崎は両サイドからのクロスにワントップの山田新やMFが飛び込む形を狙うが、横浜FMの守備陣が高いラインを保ったため、川崎は何度もオフサイドの罠にかかってしまう。
さらに、本来だったら決まっていても不思議ではないような場面でもシュートが枠を捉えられず、またGKの好守もあって、試合はスコアレスのまま進んでいった。
試合の終盤にかけて横浜FMはトラブルに見舞われた。
前半の終了間際に川崎の登里享平とぶつかった横浜FMの右SB松原健が脳震盪の疑いで交代。後半からCBの畠中槙之輔が入って、CBだった上島拓巳が右SBに回っていた。そして、79分には今度は左SBの永戸勝也も負傷。横浜のベンチにはもうDFは不在だったのでMFの喜田拓也が急遽左SBに入ったのだ。
喜田は7月初めの湘南ベルマーレ戦で“体調不良”を理由に欠場。7月12日の天皇杯3回戦のFC町田ゼルビア戦でようやく復帰していたが、町田戦ではまだ試合体力に不安が垣間見えた。中盤のダイナモである喜田が本調子でないと、やはり横浜FMというチームはうまく機能しない。そして、試合終盤にその喜田が最終ラインに下がってしまった。
横浜FMは脳震盪による交代を含めて6人のサブメンバーをピッチに送り込んだのだが、本来のポジションではない位置でプレーする選手も多く、試合の終盤になると川崎に押し込まれるようになっていく(5人交代制を採用するなら、ベンチ入りの人数は7人では足りない。9人または12人程度に増やすべきだ)。
試合はスコアレスのまま残り時間が少なくなっていく。
この時点で首位の横浜FMと9位の川崎の勝点差は15ポイントもあった。川崎としては、もし優勝を目指すのなら絶対に勝点3がほしい状況だった。
すると、川崎の鬼木監督は83分に“勝負手”を打った。
DFの大南拓磨を投入してスリーバックとして、左サイドでは登里に代えてフレッシュな佐々木旭を投入。右の山根視来、左の佐々木のポジションを上げてサイド攻撃を強化。家長昭博をトップに上げ瀬川祐輔とツートップを組ませる。そして、DFの大南には攻撃にも期待したというのだ。「攻撃的イメージの3枚だった」と鬼木監督。
たしかに攻撃的なシステム変更だった。しかし、リスクも伴う交代だった。
横浜FMは苦しい状況とはいえ、トップには得点力のあるアンデルソン・ロペスが残っていたし、左右には水沼宏太と宮市亮がいた。一発の攻撃力はかなり高い。しかし、それでも鬼木監督はリスクを背負って勝負に出た。この試合で勝つことこそが優勝を目指すための最後のチャンスだったのだ。
そして、川崎は“賭け”に勝った。
決勝ゴールの場面を振り返れば、鬼木監督の勝負手が見事にはまったことがわかる。
中盤でドリブルでボールを運んだ遠野大弥からのパスをツートップの一角、瀬川がバイタルエリアで受ける。そして、その瞬間、鬼木監督が「攻撃に行きたがるタイプ」と表現したDFの大南が相手ペナルティーエリア内深くまで走り込み、瀬川のパスを受けた大南は相手GKのタイミングを外して低いクロスを通す。そして、そこにもう1人のCB車屋が走り込んでいたのだ。
川崎の「反転攻勢」はきわめて困難だ。
横浜FM戦の勝利で勝点差は縮まったが、横浜FMとも神戸ともその差はまだ12ポイントもある。しかも、追走するターゲットがどちらか一つだけなら横浜FMや神戸が何らかの原因で失速することも考えられるが、両チームがともに調子を崩すということは考えにくい。
しかし、横浜FM戦での劇的な決勝ゴールと、それを生み出した鬼木監督の勝負勘を見せつけられると、「まだまだ分からない」という気にさせてくれる。
興味深いことに、7月22日の神戸戦の後、8月12日には今度は川崎ホームの等々力で再び神戸と対戦する日程になっているのだ。今後、負傷で戦列を離れていたFWのレアンドロ・ダミアンやMFの大島僚太、DFのジェジエウなどが復帰すればチーム力は間違いなく上向く。
もし、神戸との2試合で川崎が連勝したりすれば「反転攻勢」は現実味を帯びてくる。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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