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三笘薫
キックオフから10秒。ドリブルでしかけた三笘薫が倒されて獲得したFKを久保建英が蹴り、谷口彰悟が強烈なヘディングを決めて日本代表が先制したのは開始からわずか50秒だった。映像装置にそのゴールシーンが映し出されている間に上田綺世が仕掛けてファウルを誘ってPKをゲット。上田自身がPKを決めて4分までに日本が2点リード。
試合開始直後に日本が先制
上田綺世が自ら獲得したPKを決めて代表初ゴールをマーク
エルサルバドルのウーゴ・ペレス監督が言うように2点差のビハインドで一人少なくなってしまったのでは抵抗のしようがない。試合は4分までに終わってしまった。
これがワールドカップの試合だったら大喜びすべき展開だが、このエルサルバドル戦は親善試合(強化試合)なのだ。その後、日本が得点を積み重ねて6対0で大勝したものの、評価が難しい一戦となってしまった(代表経験の少ない選手を起用して経験を積ますことができたことは成果だったが)。
ただ、日本代表のパフォーマンスは3月シリーズに比べて間違いなく上がっていた。チーム力の差を考えればエルサルバドルが11人のままだったとしても、日本が2点から3点を奪って勝利していたことだろう。
良かったのはサイド攻撃。サイドハーフとインサイドハーフで形を作り、サイドバックが追い越していく動き。そして、クロスに対して複数の選手が走り込んで、日本代表はいくつものチャンスを作った。
3月の試合に比べてパフォーマンスが上がったのにはいくつかの要因がある。
まず、ヨーロッパの各国リーグがオフに入った6月の試合だけに、集合してからトレーニングをこなす時間が長くとれたこと。「集合して即試合」という日程が多い代表チームにとって、毎年6月のシリーズはチーム作りのために大事な機会となる。
エルサルバドル戦ではサイドバックの積極的なオーバーラップが見られた。3月シリーズではサイドバックがインサイド・ポジションに入る新しい攻撃スタイルに取り組もうとしたものの、選手たちがそれをこなしきれなかった。だが、エルサルバドル戦ではサイドバックはタッチライン沿いにオーバーラップする形に戻したので、動きがずっとシンプルになった。これが、良いパフォーマンスが見られた2つ目の要因だ。
サイドハーフにボールが収まったおかげで、サイドバックの選手たちは余裕をもってオーバーラップをしかけられた。
とくに素晴らしかったのが左サイド。三笘のサイドだった。
3月シリーズではサポートを受けられずに孤立してしまった三笘だが、この日は良いタイミングでボールを受けて気持ちよくプレーできていた。サポートしたのが、久しぶりの代表復帰となった旗手怜央だった。
三笘と旗手は大学選抜でともに戦い、川崎フロンターレでもコンビを組んでいただけに、久しぶりのプレーでも“阿吽の呼吸”が何度も見られた。しかも、アンカーには守田英正、左のセンターバックには谷口と、左サイドではフロンターレのラインが出来上がっていた。
旗手怜央、谷口彰悟、守田英正
僕は、この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチには旗手を選びたい。
もちろん、得点を決めた選手は高く評価したいが、ゲームを作るうえでは最高の働きができたとは言い難い。
たとえば、1ゴール2アシストの久保。
久保建英
中村敬斗
久保が決めた3点目は見事なコントロール・ショットだったし、後半には中村敬斗の前へのスペースに流し込む素晴らしいアシストもあった。ただ、前半の半ばにあった2度の決定機では力み過ぎてシュートは枠を捉えることができなかった。
また、右サイドで組んだ堂安律とのコンビネーションも、たとえば三笘と旗手の2人に比べるとまだまだだった。久保と堂安の動きが重なってしまうこともあったし、久保が出したスルーパスに堂安が反応できなかった場面もあった。
久保と堂安が、これからどのようにコンビネーションの精度を上げていくのかは、このチームの将来がかかっていると言える。
堂安律、久保建英
堂安自身も、動きにキレを欠いて空回りしてしまった。ゴールは決めたものの、三笘のシュートがGKに当たって、そのままゴールに吸い込まれようとしていたボールを蹴り込んだものだ(あの位置に詰めているあたりは、その嗅覚を評価すべきだろうが)。
代表ではゴールを決められずに苦しんでいた上田がようやくゴールを決めたのは明るい材料だが、得点はPKによるもの。その後、クロスに対して飛び込む場面が何度かあったが、いずれも決めきれず、上田にとってはやはり悔しさの残る試合となったろう。
ただ、44分に堂安が4点目を決めた場面では上田が素晴らしいプレーを見せた。
上田綺世
GKの大迫敬介からのボールを胸で収めた上田がターンして左サイドの三笘につなぎ、三笘がドリブルシュートしてから強烈なシュートを放ち、GKに当たってそのままゴールに転がり込もうとするところを堂安が蹴り込んだものだった。くさびのボールを受けるターゲットがしっかりしていれば、チームとしての攻撃に幅を持たせることができる。
古橋亨梧は、65分からのプレーだったが、何度かゴールゲッターらしい動きを見せ、得点場面でもうまく相手のマークをはずして右の相馬勇紀からのクロスをヘディングで決めた。
相馬勇紀、古橋亨梧
こうして、ゴールを決めた選手たちの動きを個々に振り返ってみると、得点場面以外では十分なパフォーマンスを発揮したとは言えない。そこで、僕は安定して右サイドで攻撃を作っていた三笘や旗手の方を高く評価したいのだ。
とくに、旗手はボールタッチ数も多く、攻撃の組み立てに参加した。また、前半の途中からスリーバックで守りに入っていたエルサルバドルが後半の立ち上がりからフォーバックに戻してパスをつないで攻撃を仕掛けてきたのに対して、ポジションを下げて守田とのツーボランチの形にして試合を落ち着かせた旗手の判断も評価すべきだ。
フロンターレもワンボランチとツーボランチを使い分けるチームだから、旗手と守田との連携で形を変えたのだろう。
元フロンターレ所属の選手たちは、それぞれ各国のクラブに散ってから時間が経過していてもフロンターレ時代のラインは生き続けているようだ。
旗手怜央
クラブでのコンビネーションを生かすという強化法は、いつの時代でも有効だ。1974年の西ドイツ・ワールドカップ決勝戦はミュンヘンで行われ、地元のバイエルンの選手が半数を占める西ドイツがヨハン・クライフのオランダを制して優勝した。今も、ドイツ代表はバイエルンのコンビを生かしながら戦っている。従って、日本代表でも“フロンターレ・ライン”は今後も重要な役割を果たせそうだ。
旗手は、“セルティック・ライン”の一員でもある。来週火曜日に行われるペルー戦では、エルサルバドル戦では25分程度のプレー時間に終わった古橋や前田大善の出場が予想される。それなら、エルサルバドル戦でフル出場しているものの、旗手も一定時間出場させて、古橋、前田とともにプレーする機会を与えたい。
旗手は“フロンターレ・ライン”と“セルティック・ライン”をつなぐ選手なので、今後の日本代表の中核になりうる存在なのである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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