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シービリーブスカップ カナダ戦でのなでしこジャパン
FIFA主催の女子ワールドカップがいよいよ7月20日に開幕する。日本代表のメンバーも間もなく発表される。
ところが、日本におけるこの大会のテレビ放映やインターネット配信がまだ決まっていないのだ。報道されるところによると、日本だけでなくヨーロッパ主要国でも同様の状態だという。
いったい、何が起こっているのだろうか?
この件に関して、先日、FIFAの広報チームから1通のメールが送られてきた。その内容は「日本で女子ワールドカップの放映権交渉が進んでいない。そのことについて、メディアで伝えてほしい」ということだった。
オーストラリアとニュージーランドの共同開催という形で開かれる第9回女子ワールドカップ。
4年前のフランス大会までは24カ国出場だった女子ワールドカップは、今大会から32カ国出場と規模が拡大された。当然、試合数も64試合に増える。そして、FIFAのリリースによれば6月9日には入場券の売り上げが103万枚以上に達し、すでに4年前のフランス大会の実績を超えたという。
ヨーロッパを中心に女子サッカーの人気が拡大していることを受けて、FIFAは今年の女子ワールドカップには非常に力を入れているのだ。
“大義名分”は「ジェンダー平等」だ。
ジェンダー問題を巡っては、ここ数年世界的な問題となっており、サッカー界でも男子と同様の待遇を求める女子選手たちの行動が続いている。アメリカの女子代表チームは男子代表との格差是正を求めて訴訟を起こし、結局、2022年にアメリカ・サッカー連盟(USSF)と和解して待遇改善を勝ち取っている。また、今年はカナダ女子代表が待遇改善を求めて代表活動不参加(つまり、ストライキ)を表明。結局、日本代表も参加したSheBlieves Cupには参加したものの、ユニフォームから協会のエンブレムをはずすという行動に出ている。
FIFAも、こうした動きを背景にワールドカップに出場する女子代表チーム、女子選手の待遇を大幅に改善しようとしている。
たとえば、ワールドカップの賞金は4年前の大会に比べて大幅アップとなった。
今年のワールドカップ優勝チームの賞金は429万ドル。準優勝が301万9000ドル。グループリーグ敗退でも156万ドルを受け取ることができる。
さらに、今回から選手個人に対しても賞金の分配が行われ、優勝チームの場合、全登録選手に27万ドルずつ、準優勝チームには19万5000ドル。グループリーグ敗退チームでも各選手が3万ドルを受け取れることになった。
女子選手への待遇の改善自体は、もちろん素晴らしいことである。女子サッカーが本当のプロ・スポーツとしての地位を確立していくための大きなステップになるだろうし、スポーツ界でのジェンダー平等という世界の流れをサッカー界がリードしていくことになる。
しかし、問題はFIFAがその資金調達のために高額のテレビ放映権料を提示し、その結果として日本のようにテレビ放映が決まらない状態が続いてしまっていることだ。
FIFAのジャンニ・インファンティノ会長はこのように語っている。
「男子ワールドカップではヨーロッパの放送局は1億ないし2億ドルを支払うのに、女子ワールドカップでは100万ドルから1000万ドル程度しか提示してこない。女子ワールドカップの視聴率は男子の5割から6割に達するのに提示額は男子の20分の1から100分の1くらいしかない」と。
しかし、男子のワールドカップと女子の大会では現状では注目度がまったく違う。男子の大会と同程度の放映権料を払ったとしたら、世界中の放送局は大幅な赤字になるのは目に見えている。営利企業である放送局がFIFAが要求するような高額の放映権料を支払えるとはとうてい思えない。
たしかに、「男子の20分の1とか100分の1」というのは少ないような気もするが、そもそも男子ワールドカップの放映権料自体が急激に拡大し、まさに天文学的数字に達していることが問題なのであって、それと女子の放映権料を比較しても意味はない。
男子ワールドカップの場合、従来(2002年大会以降)日本ではNHKおよび民放各社の連合体である「ジャパンコンソーシアム(JC)」が放映権を買って各局に権利を分配する方式で地上波およびBSでワールドカップの試合を放送し、各局とも高視聴率を記録してきた。
だが、放映権料が高騰したために2022年のカタール大会では民放3局が撤退することになり、地上波で試合を放送したのはNHKとフジテレビ、テレビ朝日のみとなり、インターネットテレビ局のABEMAが全64試合を無料中継した。
そして、このまま放映権料が高騰を続ければ、将来、地上波などでのワールドカップ放送がなくなってしまう可能性さえあるのだ。
男子のワールドカップでもそんな状況なのに、女子のワールドカップで男子に近い額の放映権料を支払えるはずがない。
残念ながら、女子サッカーはまだまだプロ・スポーツとしての地位を確立できているわけではない。
最近は女子のUEFAチャンピオンズリーグや主要国の国内リーグの一部の試合で数万人の観客を動員することもあり、大きく報道されている。しかし、スペインやイングランドでもすべての試合が多くの観客を動員できているわけではない。
多くの試合は、閑散としたスタジアムで行われているのが実態なのだ。
まして、日本では初のプロ・リーグとしてWEリーグが一昨年に発足したものの、現状は「1試合平均5000人の観客動員」という当初の目標からはほど遠く、1試合平均の観客数は1500人程度に留まっている。
目標の数字を実現するためにはこれからさまざまな方策が必要となるだろうが、一般の人たちに女子サッカーに関心を持ってもらうための最大の機会がワールドカップでの日本代表の活躍であることは言うまでもない。
今年のワールドカップで日本代表(なでしこジャパン)が、2011年大会のような活躍をしたとすれば、WEリーグの観客動員数が伸びるのは間違いがない。そこで、ハイレベルの試合を見せることができ、「また見に来たい」と思わせることができれば観客動員を定着させられるかもしれない。
しかし、代表チームがどんなに活躍したとしても、もし地上波放映がなかったとしたら、一般の人たちの関心を引くことは難しい。
女子サッカーの地位を向上させ、将来、女子選手の待遇を改善していくためにも、現段階では地上波による無料放送を通じて女子サッカーを広く認知させることが最も大切なのではないだろうか。
そんな時期に一気に高額賞金を設定したり、ジェンダー平等の理念を“大義名分”にして放映権料を高騰させ、結果として無料放送ができなくなってしまうというは、まさに本末転倒もはなはだしい。
FIFAは高額な放映権料の要求を取り下げて、「ユニバーサルアクセス」を実現し、すべての人が無料放送を通じて女子ワールドカップを観戦できるようにすべきである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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